私的山in新潟 長岡 |
毒書生活分類(日本) 作者姓あいうえお順 |
作者と借出日 |
題名と感想 |
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あ |
あ |
愛川晶 |
道具屋殺人事件 神田紅梅亭寄席物帳 |
2016
12/30 |
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寄席や落語家の世界を舞台にしたミステリー小説。引退した師匠からのヒントで二つ目の落語家が謎を解く。筋は二つ目の若妻の目線で落語の世界を知ると言う教養小説でもある。最近は落語を聴かないがここに出てくる落語は大体知っているので親しみ易い。本格的というよりも大衆的なミステリーで読み易い。表題作を含め3編の短編集。(竹) |
あ |
相場英雄 |
血の雫 |
2019
9/3 |
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筆者の最初は「デフォルト」という経済小説を読んだ。これはインターネットが原因となるインターネットを駆使する犯罪小説。これは、福島県民への謂れ無き中傷は老若男女に渡っていて、抉り出し反攻を謀ったのが犯人。ただ、結末が弱いし、クライマックスの被害者が共感出来ない。難しい題材だからこそ、突き抜けた筋が書けなかったのかと思う。(竹) |
あ |
相場英雄 |
デフォルト |
2018
11/28 |
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経済部の新聞記者が経営危機にある銀行の記事を書いたせいで更迭勧告される。関連して飲み仲間の証券会社員が自殺する。同じバーに集まる面々が甘い汁を吸う政治家や官僚に復讐を企てる経済小説。優秀な人材や敵方の懐にいる秘書などを味方に付けるのはご都合主義的。終盤はもっと屈辱を味わってからの大逆転の落差が欲しかった。(竹) |
あ |
青山真治 |
ユリイカ |
2008/
11/1 |
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小さな町で起こったバスジャック殺人事件を発端として、巻き込まれて生き残った人達のその後を描く。最初は人間関係の説明が無いまま人々が登場するので筋が分かり難い。人間の繋がりの濃さは中上健次を彷彿とさせる。そこは面白かったが、後半の筋に無理が見え意味が読み取れなかった。2001年三島賞(竹) |
あ |
青山七恵 |
かけら |
2023
2/2 |
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三篇の短編集で200ページに満たない。表題作はバス旅行での一人暮らしの娘と父、二作目は結婚間際の男と同じアパートに暮らす元カノ、三作目は西表島のいとこと東京見物を案内する新婚夫婦。主人公以外の心のうちは描かないから読者に想像させる。家族でも他人。ギクシャクしながらもなるべく平穏にやって行こうとするのが世間か。川端賞。(竹) |
あ |
青山七恵 |
花嫁 |
2016
12/30 |
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和菓子屋の四人家族の物語。これも連作長編というのだろうか。妹、兄、父、母の順で家族の事を語る。裕福で幸せそうな家族だが、普通ではない成り立ちや秘密が、隠された伏線から分かってゆく。ただ筋の展開を第一にしたようで、作り物の不自然感が拭えない。人間の内面を描く小説なのに人間の作り込みが足りない。結末も大人し過ぎと思う。(竹) |
あ |
青山七恵 |
あかりの湖畔 |
2016
9/25 |
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山の湖畔の土産物屋で父親と暮らす三姉妹。母は家出し十数年便りが無い。土産物屋を営む長女は自身の結婚や不景気の事より母の出奔について心に思いつめていた事があった。何気ない日常をスラスラと読めるこの感じはと巻末を見たらやっぱり新聞連載作品だった。劇的な事は起こらないが引き付けられ、それぞれの心情が心地良かった。(竹) |
あ |
青山七恵 |
わたしの彼氏 |
2016
6/24 |
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3人の姉を持つ青年というには幼い20歳。青年はイケメンで優しくて何もしなくても女性が寄って来る。青年の女性との係わり合いを描いている。同じように優しくて好青年の「横道世之介」を思い出してしまった。読みながらもみんな幸せになればいいのにと願っていた。それが読者の自分も気持が暖かくなるから。こういう青春小説が好き。(竹) |
あ |
青山七重 |
お別れの音 |
2012
6/8 |
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別れを主題にした6編の短編集だが表題名の作品は無い。女性が主人公の4編は会社でのエピソードを扱った小品。男性が主人公の2編は恋愛の結末と旅の思い出。どれも誰の人生にもありそうで注意深く生活していれば感じられそうな一コマを切り取っている。男性が主人公の場合性別が明確には出ていない。最近流行の草食系男子か。(竹) |
あ |
青山七恵 |
魔法使いクラブ |
2012
4/22 |
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幼なじみの少女達と少年の交流を小学校、中学校、そしてその先を描いている。柔らかくて暖かくて瑞々しい青春の心が詰まっている。主人公たちがドロドロしたものと思っていても、読んでいる自分はそれもキタナイとは思わない。普遍なものは無く全てが変わっていくからいとおしい。自分が持てなかったものだから尚更だ。(松) |
あ |
青山七恵 |
かけら |
2011
11/12
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短編3編を収蔵。どれも家族のあるいは家族になる過程の人々の生活を描いている。不実も波乱も無いが、ちょっとした情念の波風が人の心を揺らす。そして又平穏になる生活。そんなどこにでもあるような家族を表現している。えぐ味が無くサラッとした印象で読みやすい。箸休めと言っては失礼だが自分は好きな小説。(竹) |
あ |
青山七恵 |
やさしいため息 |
2011
5/22 |
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仕事は生活の為、他人とは最小限の関わり、の女性の部屋に失踪した弟が来て住む。姉のその日の行動を聞き取って頼まれもしないのにノートに書き込む弟。姉は自分の平凡な生活に気付き生活を変えようとするが…。それぞれの個性も薄くフワフワしたような都会の現代人の情景描写のよう。弟のノートはこの小説の独自性を発揮。(竹) |
あ |
青山七恵 |
窓の灯 |
2011
1/13 |
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元女子大生が喫茶店で働くようになる。女主人は色気があり男達が通ってくる。出来事といえるのは、元女子大生がのぞく他人の部屋の様子と女主人の男出入り。登場人物が少なく周りの風景描写も淡白。元女子大生は何かをつかまえられずに時にイライラするが、また同じ日常に戻って行く。妙にフワフワした短い小説。第42回文藝賞。(竹) |
あ |
青山七恵 |
ひとり日和 |
2009
5/30 |
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東京の一軒家に住むおばあちゃんと猫2匹の所に、親戚の20歳の女の子が間借りする。淡いというか薄い恋をして、アルバイトをして、おばあちゃんのボーイフレンドに嫉妬するちょっと意地悪でフツーの女の子。読んでいて、年寄りをいじめるなとか、ツッコミどころはイッパイある。都会の生活(くらし)の一端が覗ける物語。余韻が残る別れはサミシイね。(松) |
あ |
青山文平 |
つまをめとらば |
2022
7/21 |
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時代小説6編を収める。武家社会で底辺の貧しい武士の生活。城勤めが無く収入も少なかったので、算学をしたり、釣り道具を作ったり、戯作者にもなる。そこに江戸の庶民の生活も見える。表題作は妻に恵まれなかった男の話。平穏に暮らしたいなら女は遠ざける。どれも人情厚く、結末も納得の話。直木賞受賞作。この時作者は67歳という。(松) |
あ |
青山文平 |
白樫の樹の下で |
2016
9/6 |
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無役の貧乏な侍の家に生まれた若者は同じ境遇の友人と共に剣術と内職に明け暮れる。若者は望んでもいない名刀を預けられ、又、辻斬り事件が頻発して思う事が変わって行く。犯人探しで筋は進むがサスペンス性は薄い。シリアス的な江戸時代青春物語。時代考証もしっかりしているようだ。ただ、無駄に人が殺されるように思え、勿体無い。(竹) |
あ |
青山南 編訳 |
世界は何回も消滅する |
2005
7/23 |
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同時代のアメリカ小説傑作集とサブタイトルにある。いくつかの短編小説の中には気に入らないものもあるでしょうが、気に入るものもあるでしょう。もし、好きなものがあったらその作家の他の作品も読んでみて下さい。でも、寡作家はネットで探しても本が無い場合があります。(松) |
あ |
赤染晶子 |
乙女の密告 |
2012
7/18 |
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京都の女ばかりの外語大学。ちょっと変わったドイツ人教授はウィスキーとチョコレートでクラス分け。生徒を乙女達と呼ぶ。乙女達は「アンネの日記」のドイツ語での暗唱試験で戦々恐々。「アンネの日記」を下敷きにした京都女学生の学生生活。自分は想像が膨らまず面白くない。気の利いた監督が映画化すれば面白いかも。2010年上期芥川賞。(竹) |
あ |
浅井リョウ |
何者 |
2022
7/9 |
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大学生5人が試験や面接の対策を話し合う。主人公は周りの友達を冷静な目で観察している。自分から離れ就職せずに演劇を続けている元友人の事も気になる。それらの思いをSNSに批判的に綴る。切実な就職という前で友達の関係も変わって行く。その中で主人公は自分が何者なのかを考え直す。スムーズに読めた。直木賞受賞作。(竹) |
あ |
浅井リョウ |
武道館 |
2016
1/21 |
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デビューしたての女性アイドルグループの一員にスポットを当てて、有名になるにつれ自分が本当に望むものは何かと、逡巡する姿を描く。結局は恋愛という熱病は理性では止められない。ましてや若いのだから。自分には合わないだろうと思いながら読み始めたが、興味深く読み進められた。表題はグループが目指すコンサート会場の名前。(竹) |
あ |
朝井リョウ |
桐島、部活やめるってよ |
2015
9/17 |
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男子バレーボール部の部長が辞めて、巻き起こる変化を係わるもの達の視点でオムニバス風に表現。予想通り「桐島クン」は出てこない。かと言って夫々の主人公の口によって「桐島クン」をあぶり出す小説でもない。この小説にあるように今の高校生のクラスでは男子も女子も上とか下とか差別意識を持って生活しているのかな。ちょっとした衝撃だった。(竹) |
あ |
朝倉かすみ |
夏目家順路 |
2023
3/25 |
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学は無いが気の良い板金職人は、家族以外には人好きがして慕われていた。ところが、妻は男を作って離縁、二人いる子は独り立ちで一人暮らし。スナックで酒を飲んでいて突然亡くなり、年下の友人が見取る。一人の男の人生を親しかった人達が語る。同じような境遇の妻だったが、合わないのは仕方が無い。男は立派な人生を全うした。(竹) |
あ |
あさのあつこ |
Team・HK |
2017
4/13 |
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人見知りな普通の主婦がハウスキーパー会社に就職して、仕事先の問題を仲間と手探りで解決していくというミステリー小説。連作短編2編を収める。内容は仕事のノウハウがメインになる仕事小説かと思ったが、期待は裏切られ普通のライトノベル。深刻な話は無く、軽くてスイスイと1日で読了。これなら書く方としても頭の中だけでひねり出せる。(竹) |
あ |
朝吹真理子 |
きことわ |
2012
6/21 |
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海の別荘に遊びに来る幼い娘と管理人の娘の姉妹のような交流があった。幼い娘の母が死に別荘に来なくなって25年が過ぎた。読者を喚起する激しい感情も練った筋書きも反社会的なスパイスも無いが、適度な採光と適度な温湿度の爽やかな場所にいる感じを受けほっと安心してしまう。「エア」を読んだので尚そう思う。2010年下期芥川賞。(竹) |
あ |
芦原すなお |
わが身世にふる、じじわかし |
2020
1/4 |
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あ |
芦原すなお |
嫁洗い池 |
2019
9/28 |
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「ミミズクとオリーブ」の第二弾。前作同様東京郊外に住む作家夫妻の所へ友人の警部が尋ねて来て、滞った捜査を話しに来る。奥さんがいわゆる安楽椅子探偵で事件を解決する。連作短編6作収める。事件解決よりも三人の掛け合いや珍しい郷土料理が面白い。穏やかで達観したような妻と多くを望まずひょうひょうと生きる夫は理想的と思う。(竹) |
あ |
芦原すなお |
ミミズクとオリーブ |
2019
7/28 |
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東京郊外に住む小説家の奥さんが居ながらにして謎を解くという連作短編7編。殺人事件から離婚騒動まで、奥さんとしては他人の内情に踏み込んで解きたくない謎もあった。仕事では無いだけに葛藤がある。夫婦の境遇も絡んで、全体にホンワカしたムードで親しみ易く読み易い。自分の好み。続編もあるので間を空けて読んでみよう。(竹) |
あ |
東直己 |
消えた少年 |
2014
10/4 |
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ススキノ探偵シリーズ3作目。探偵が知り合った映画好きな少年が失踪する。その前に少年の友人が惨殺されていた。探偵は顔馴染みの暴力団にも捜索を依頼。チンピラ、警察、学校や歓楽街の関係者が入り混じる騒動。格闘場面が多く盛り上がる。題名が大人し過ぎるが正義?の悪漢バイオレンス和製ハードボイルドだ。シリーズ中で一番面白い。(松) |
あ |
東直己 |
バーにかかってきた電話 |
2014
5/2 |
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「探偵はバーにいる」シリーズ2作目。ススキノの根城のバーで受けた電話で、会って相手の反応を見るという仕事を依頼され危ない目に遭う。探るうちに地上げに絡む殺人事件に行き着く。前に読んだ気がしたが、これは以前に観た映画「探偵はバーにいる」1作目の筋書きだった。荒筋が分かるのが残念だが、日本に珍しい一級品のサスペンスだ。(竹) |
あ |
東直己 |
向こう端にすわった男 |
2013
2/2 |
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「探偵はバーにいる」系統の5編を収録する短編集。北海道つながりの中島みゆきの個人的で情のある歌詞を髣髴させる内容。日本で探偵といったらこういうスタイルも一つの形と納得させ実存感がある。探偵は狂言回しとなり札幌の風俗を紹介してくれる。が、誇張もあるのだろうな。「秋の終わり」は他人には解らぬ男女の仲を垣間見せて泣かせる。(竹) |
あ |
東直己 |
探偵はバーにいる |
2012
12/28 |
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札幌の歓楽街ススキノに、暴力団ではないが堅気でもない男が半端仕事や博打を糧に暮らしていた。ある時後輩からの依頼で人探しをする事になる。背景も筋書きも悪くないし、会話が良いし人物造形も良い。日本では珍しいレッキとしたハードボイルドだ。映画化されたものは観ていないが、原作に忠実なら主演の大泉洋はミスキャスト、華奢過ぎる。(竹) |
あ |
阿部和重 |
グランド・フィナーレ |
2008 1/5 |
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ある理由で妻と子と別れ仕事も辞め実家のある田舎にひき込んだ男の話。料理で言えば強い香辛料である「ある理由」を上手く調理して値段の取れる料理になっている。他に短編3編収録。今年40歳の作家の割には難しい漢字を多用していて、時に読めない字がある。これは意図したもの?その理由は?芥川賞2004下期(竹) |
あ |
安部公房 |
燃えつきた地図 |
2007 11/2 |
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主人公は興信所の所員で、失踪した男を捜す。男の妻やその弟、男の会社の部下、興信所の上司などが織り成す独特の世界は、時代が昭和の成長期という事もあり、懐かしい風景が目に浮かび、その当時の音や匂いがしてきそうだ。個人の存在を問うようなテーマでつかみどころが無さそうな感じは嫌いでは無い。(竹) |
あ |
新井素子 他 |
SF JACK |
2022
10/20 |
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12人の作家のSFアンソロジーのハードカバー。ファンでもある山本弘の「リアリストたち」はやはり好みが合う。面白いと思った事が無かった宮部みゆきだが「さよならの儀式」には泣かされた。瀬名秀明の「不死の市」だけは意味が汲み取れず楽しめなかった。他は多種多様のSFが面白かった。だから474ページで手強そうだったがスイスイと読めた。(竹) |
あ |
荒川洋治 |
ラブシーンの言葉 |
2023
2/11 |
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題名からは甘い言葉を連想するが、実際は多くの小説から取り出した性愛の言葉。高齢の自分もそういう心持になってしまうから、若年者なら尚更と思う。気の合った同じ相手となら性技を極める事が出来ると、それが夫婦だと、別の本で読んだ事がある。筆者の言葉は少ないが、これだけの本を読んだ博覧強記に脱帽。若い、経験前に出会いたかった本だ。(竹) |
あ |
有川浩 |
三匹のおっさん |
2023
3/25 |
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幼馴染の3人の還暦男の武勇伝。定年で嘱託となったゲームセンターでの事件から、町内の自警団を結成。それぞれ剣道や柔道、機械に強い3人が町内の悪を懲らしめ、胸がすく活躍を見せる。悪がはびこる世の中で、せめて小説だけでもスッキリしたい人にお勧め。ただ本の汚れがヒドイ。人気のある証拠だろうが、本を大事にしないヤツは許せない。(松) |
あ |
有川浩 |
海の底 |
2019
9/28 |
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横須賀の海から上って来た巨大なエビが人間を襲う。自衛隊基地へ逃げた子供達と逃げ遅れた隊員が潜水艦に籠もる。アクションは少なく、政府の自衛隊出動までの対応と潜水艦内の子供達同志の葛藤が主題。地味な題名だと思ったが自衛隊三部作の一つと知って納得。この小説のように本当に自衛隊の武器使用に時間が掛かるとすると問題。(竹) |
あ |
有川浩 |
塩の街 |
2017
10/8 |
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異星生物の侵略で塩と化す人間。人口が半分になった東京で暮らす訳ありの男。そこに飛び込んで来た少女との淡い恋の小説。SFとしての舞台設定は面白いのに、恋愛を主体にしているので、SFに力が入っていない。かといって恋愛小説としては平凡な感じ。文中に出てくるイラストはイメージの押し売りだし、恥ずかしい。それでも賞を取っている。(竹) |
あ |
有川浩 |
レインツリーの国 |
2017
5/30 |
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読書感想サイトの女性と気が合った男が押しの強さで会ってはみたが、女性が隠していた難聴を最悪のタイミングで気付き突然の別れ。ハンデを持つ女性と健常者の男の本音の言い合い、話し合いが互いに相手への思いやりを引き出しけれん味の無い恋愛小説になっている。あの「図書館戦争」シリーズにも鍵となる小説として登場しているという。(竹) |
あ |
有川浩 |
阪急電車 |
2016
8/6 |
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阪急今津線の8つの駅を舞台に往復16話の短編集だが、それぞれの話がまた次の話に波及していく構成。笑いあり涙ありで登場人物も老若男女で関西風人情話のてんこ盛り。先に映画で観たが簡略化されているので、やはり小説の方が読み応えがある。一つ一つのエピソードに共感出来て、もうページを繰る手が止まらない。1日で読んでしまった。(松) |
あ |
有栖川有栖 他 |
毒殺協奏曲 |
2017
10/8 |
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8人の作家による毒殺をテーマにした短編集(アンソロジー)。同じテーマなので、ありふれたものにしないよう、読者に先を読まれないように苦心している感じがする。あまり馴染みの無い作家ばかりだが、1作を選ばれるというので水準は高い。ただ小林泰三の「吹雪の朝」は筋に強引な部分があるし、人の感情がおざなりになっていてギクシャクした印象。(竹) |
あ |
有吉佐和子 |
恍惚の人 |
2021
6/1 |
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1972年に上梓された本書。老人に関する諸問題を提起してベストセラーになった。半世紀経つのに世の中の基本は変わっていない。介護に関しては少し手厚くなった程度に思う。本書では職を持っていても家族の中で女性が犠牲にならざるを得ない状況。もっと悲惨な状態も在り得ただろうが、ハッピーエンドと言える。有名な小説なのに始めて読んだ。(竹) |
い |
伊井直行 |
濁った激流にかかる橋 |
2016
12/3 |
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たった1本の巨大な橋が架かる街の右岸と左岸に住む人達の物語。9編の連作長編。現実にありそうな事をデフォルメして味を際立たせている。時代の流れも描き、年代記的な重みもある。混沌としている世界とともに生身の人間も過不足無く描かれて、一つの世界を作る事に成功している。読んでいると頭に映像が浮かぶ。映画化に向いている。(竹) |
い |
飯沢耕太郎 |
写真美術館へようこそ |
2005
5/7 |
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写真の生い立ちから、芸術としての進化、変遷を紹介している。長い時間の流れを少ないページ数で書いてあるので、一つ一つが物足りない感はある。そう思ったら自分で掘り下げて調べてみることだ。新潟県出身の牛腸茂雄のことも書いてある。長岡の県立近代美術館にも作品がある。 |
い |
飯野文彦 |
バッド・チューニング |
2015
8/27 |
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題名からナゼか経済小説と思っていたが、主人公の精神状態の事。最初のエログロはつかみかと思ったら全編そのまま。自称探偵が自宅アパートの知人女性の遺体を処理する。気持ち悪いから感覚を鈍らせて読むが、それなら読む価値が無い。しかし読んだと言う自覚を得たいから後半は飛ばし読み。一応ホラーなんだろうけど、ナゼこれを借りたか不明。(竹) |
い |
生島治郎 |
黄土の奔流 |
2014
6/7 |
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第一次大戦後の動乱期の中国で、日本人の青年が上海から重慶まで黄河を遡り高価な豚毛を仕入れに行くという冒険小説。筋が甘いので没頭出来なかった。動機や人材の調達と消耗の必然性や危険回避やサスペンス風味や戦闘場面まで甘い。決断の場面での日本的な人情も冒険小説には合わない。主人公の苗字も違和感がある。(竹) |
い |
池井戸潤 |
空飛ぶタイヤ |
2015
10/9 |
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三菱自動車の2度目のリコール隠しを題材にした小説。トレーラーからホイールごと外れたタイヤが歩行者を直撃した死亡事故で、整備不良と言われ窮地の陥った運送会社。整備は怠っていないと自負する社長は四面楚歌の中、真相究明と会社の存続に全力を傾ける。読者を引き付けて泣かせて最後には鬱憤を晴らすという作者の独壇場。面白い。(松) |
い |
池井戸潤 |
果つる底なき |
2012
12/28 |
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債務処理をしていた銀行の同僚が蜂に刺され死ぬ。その後を担当した男が不審な会計処理に気が付き調べるうちに怪しい男に狙われる。派閥や出世競争、融資の実態等の銀行の暗部を描く。「下町ロケット」で知った作者はこの作品ではサスペンス重視だが内容に新鮮味が無く筋書きも平凡であのハラハラドキドキ感も無い。第44回江戸川乱歩賞。(竹) |
い |
池井戸潤 |
下町ロケット |
2012
8/25 |
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国産ロケットの元研究者が家業のエンジン製造会社を継いでいたが、取引先の契約解除や訴訟に巻き込まれる。辛うじて乗越えて自分の夢を追う先には社員の離反が待っていた。一寸の虫にも五分の魂、勧善懲悪の気持ち良さ、章ごとに山場があり読者の気持ちを離さない。読み出したら止まらず寝不足。最近では一番の面白さ。2011年上期直木賞。(松) |
い |
池内紀 |
錬金術師通り |
2006
6/15 |
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ドイツ文学者である作者が旅した東欧の街の雰囲気を、かつて生きていた著名人の生活を膨らませて置いてみて出来た小説。短編集だが表題の作は無い。錬金術のような、胡散臭くて、おどろおどろしい魅力が少ないのが残念。表題に釣られてしまったが、ただの紀行小説と言ったら言い過ぎか。(竹) |
い |
池上彰 |
池上彰が聞く韓国のホンネ |
2020
8/16 |
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い |
池澤夏樹 |
砂浜に坐り込んだ船 |
2016
1/21 |
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2010年から2015年にかけて雑誌に発表した短編8編が収められている。死を別世界とし、隣り合わせである日常を穏やかに物語っている作品が多い。表題作は座礁した船を見に行って亡くなった友人を思い出し、独白のような形で心の整理をつけようとしている男の話。8編とも他人との葛藤を乗り越えた所で得られた清涼感のようなものを感じる。(竹) |
い |
池澤夏樹 |
バビロンに行きて歌え |
2014
1/11 |
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アラブゲリラの青年が追われ密航して東京で放り出される。やがて歌に才能を発揮する青年に、様々の日本人が関わった話を集めたオムニバス形式。夫々の設定やエピソードや人間がよく出来ているので色々な味を楽しめる。好きな作家だがこの作品を今まで読まなかったのが不思議。題は昔のイスラエル王国を滅ぼした国の都を東京と重ねているのか(松) |
い |
池澤夏樹 |
カデナ |
2010
9/18 |
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ベトナム戦争当時の沖縄が舞台。北爆に行くB52パイロットや、米空軍に勤める女性や、サイパンに行って戦争で家族を失った男や、沖縄のロックグループの若者達など本土人以外が主人公。それぞれが持つ心の傷がベトナム反戦へと導きグループとして活動する。沖縄と人の歴史が丁寧に書き込まれている読み応えのある小説。(松) |
い |
池澤夏樹 |
むくどりの巣ごもり |
2008 4/16 |
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作者が週刊朝日に連載しているエッセイ集。「むくどり通信」から始まり、もう五年目。旅の好きな作者の旅先での出来事から思う事を書いている。この本では国内が多く、特に沖縄には特別の思い入れがあるようだ。沖縄に行こうが北海道に行こうが、やはり都会人の視点で語っているのがお高くとまって見えるのはこちらの僻みか。(竹) |
い |
池澤夏樹 |
エデンを遠く離れて |
2007 9/28 |
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よく「われわれは」という言葉が出てくるが、読んでいる自分は疎外感を持つ。変だなと思って奥付を見ると、これは雑誌に連載されたものだった。それも都会の知識階級(自意識をくすぐる)向けの雑誌らしい。だから地方人には同感出来ない所が多い。それに20年前の雑誌に発表したもので、その意味でも今の世にそぐわないものが多い。(竹) |
い |
池澤夏樹 |
インパラは転ばない |
2007 8/9 |
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作者が色んな雑誌に書いたエッセイを集めたもの。鋭い部分もあれば、都会人のピントはずれの考えもある。エッセイは書く方にとって本当の自分を現してしまう。高倉健や所ジョージは好きだったがエッセイを読んで遠い人だと思ってしまい、以後心理的な距離をおくようになった。それはともかくエッセイを読むことは自分の批判精神を養う。(竹) |
い |
池澤夏樹 |
真昼のプリニウス |
2007
4/29 |
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女性火山学者の話。メキシコに行った写真家の恋人の仕事。地質学の講義。広告代理店の男とその構想。易の本質。みんな本当に思える。これを書くにはなかなかの知識が必要と感心。プリニウスとは昔の博物学者でヴェスヴィアス火山の噴火を見に行って死んだ人。主人公は確かだと思って信じてきた事が分からなくなり、不確かなものに賭けてみる。(竹) |
い |
池澤夏樹 |
南鳥島特別航路 |
2007
3/27 |
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雑誌「旅」の依頼で行った旅行記12編。表題にあるのもそのうちの1箇所。時間と金があれば行ける場所もあるし、時間と金があっても行けない場所もある。どこも日本人の昔から今を探る旅のようだ。この作家は最近知ったので、若いのかと思ったら自分より年上だった。好奇心で経験をして来た事が、作家になる養分となっているように感じる。(竹) |
い |
池澤夏樹 |
キップをなくして |
2006
8/19 |
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改札口から駅構内に入ってキップを無くした場合、駅の外に出られなくなるという設定で、キップを無くして集団生活をする子供たちの話。メルヘンチックな少年少女向けの話。この作家はまだ読み始めたばかりだが、多様な小説を書いているのでこの作家らしさが分からない。「マシアス・ギリの失脚」のような本が読みたいのにまだ当たらない。(竹) |
い |
池澤夏樹 |
スティル・ライフ |
2006
8/9 |
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中篇2作を納めるこの本で作者は芥川賞をとっている。話は村上春樹のような、淡々とした語り口で展開される。全体の感じはいいのだが、自分には筋の(ちょっとした)無理が感じられて、途中で楽しめなくなってしまった。この程度で難癖をつけていたら、芥川賞は誰もとるものはいなくなるのかもしれない。(竹) |
い |
池澤夏樹 |
マシアス・ギリの失脚 |
2006
5/13 |
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南太平洋の環礁に浮かぶ島と人々と、戦中戦後と日本に関係を持つ大統領の物語。人が土地が本当に存在するようで魅力的な世界。大国日本との付き合い方を探る大統領。人のいい独裁者が一人よがりになった時に天罰が下る。文庫本だが読み応えがある621ページ。久しぶりに面白い本を読んだ。(松) |
い |
池田香代子(再話) |
世界がもし100人の村だったら |
2004
11/28 |
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もともと自分は話題になった本を、話題になったときに読んでこなかった。それが良い面もある(と言い切りましょう)。この本は気付かない人に気付かせてくれる絵本。何を?って、まあ大したことじゃないんですがね(言っている事は大変な事だけど、だからどうしたって感じ)。 |
い |
池上永一 |
夏化粧 |
2004
10/21 |
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読後に印象の薄い小説。題と内容が関係ないことは無いが、かけ離れている。少なくともすっきりとした薄化粧の女が出てくるような小説じゃない。 |
い |
伊坂幸太郎 |
モダンタイムス |
2019
10/23 |
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3月に読んだ「魔王」の続編。システム会社の社員が、特定のワードを検索すると危険な目に遭う事に気付く。大量殺人事件が全く違う内容で流布していた。政治の中枢の、個人では無くシステムがそうさせるという。残酷な内容があり終盤は殺されそうになる夢を見た。結末は無理が無いと思うが、妻が謎。ハードカバー540ページを軽快に読んだ。(松) |
い |
伊坂幸太郎 |
魔王 |
2019
3/15 |
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野党指導者が憲法改正を叫び世論も大勢が傾きかける日本の近未来を描く。兄は不穏を感じ自らが備わった超能力を使おうとする。2編からなる連作中篇。最初が「魔王」で両親を早くに亡くした兄弟の兄が主人公。次が「呼吸」で弟の妻が主人公。今の時代背景に似ている。政治無関心の自分でも面白かった。続編の「モダンタイムス」も読みたい。(竹) |
い |
伊坂幸太郎 |
ゴールデンスランバー |
2018
4/26 |
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仙台で起きた首相暗殺事件の犯人にされた男の逃亡の経緯を綴っている。そのリアリティは、程度の差はあれ、今も権力に忖度する公務員が多いのが証明している。映画を先に観たが、それでも感動は色あせなかった。多少の時間を前後は良いが、20年後も中間にあるのは最後にした方が良いと思う。それと題名がピンとこない。それでも面白かった。(松) |
い |
伊坂幸太郎 |
死神の精度 |
2017
11/24 |
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死神組織には死を予定されている人間を調べて「可」にするか「見送り」にするかを決める調査部がある。そこに勤める男(死神)の物語。6編の連作短編。人と係わるものの感情は薄く飄々として自由で時間を超越して存在しているのに世事に疎い死神に好感が持てる。こんな死神になりたいとかこんな仕事をしたいと思って作った作品ではと深読み。(竹) |
い |
伊坂幸太郎 |
グラスホッパー |
2017
5/5 |
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妻を殺された男が、裁かれない犯人を追い悪辣な会社に就職する。その犯人は道路に飛び出して車に轢かれて死んでしまう。事故なのか故意なのか。男は押した者を追う。男は善良で普通の人間なのに悪人に伍して真相を追求出来るのか。人殺しが暗躍する東京は現実味が無いがぐんぐん興味を引かれ読み進める。筋だけなら西部劇のよう。(竹) |
い |
伊坂幸太郎 |
チルドレン |
2017
2/14 |
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お馴染みの仙台を舞台にした連作短編5編を収める。時間的に前後するが登場人物が同じで一つの長編と言ってもいい。筋や人物にひねりが効いていて面白い。主要人物の職業が家裁調査官というのも知らない世界が見えて面白い。著者の作品の中では好きな味付け。ある意味これも自分の好きな、春の陽気のような青春小説だ。(竹) |
い |
伊坂幸太郎 |
重力ピエロ |
2017
1/8 |
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他人の悪意に襲われ、ある選択をした若い夫婦。時が経ち男親と兄弟だけになった家族が新たな事件の渦中に。兄の視点の物語。放火と謎のいたずら書きがサスペンス調に展開する。ストーリーをはめ込もうとして不自然な感じもする。結局、親の選択は間違いだと思うが、個人情報がそんなに広まるのかとの疑問あり。今は事後避妊も出来るらしい。(竹) |
い |
伊坂幸太郎 |
陽気なギャングが地球を回す |
2016
11/22 |
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偶然出会った4人が銀行強盗を企て成功したかに見えたが、逃走途中で別の現金輸送車強盗に盗んだ金を横取りされる。殺人が起きるサスペンス劇だが悲壮感の無い喜劇に見えるのは登場人物の性格による。こういう小説もアリだが、いま一つ魅力に乏しい。全て平均点で、何か突出して優れた部分が無い。映画化されているが評価は平均以下。(竹) |
い |
伊坂幸太郎 |
ラッシュライフ |
2016
9/15 |
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傲慢な金持ちと従う女、芸術家肌の泥棒、新興宗教の男達、配偶者を殺そうとする男女。物語が混ざり合い時間もばらばらで分かり難いのは良いとしても、人物やエピソードがステレオタイプで深みが無いのは、作者は記号として配置してゲームのような小説を目指したのか。巻頭のアッシャーの騙し絵のように。だとしたら成功しているとは思えない。(竹) |
い |
伊坂幸太郎 |
オーデュボンの祈り |
2016
7/15 |
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仙台で強盗に失敗して誰も知らない鎖国の島に逃げ込んだ青年。未来が見え喋るカカシを筆頭に変な住民が住み色々な事件が起きる。こういう設定は科学的な実在性を持ち出すより情緒的な裏書で良いのだが。「アヒルと鴨…」は良かったので初期の作品を読んだ。筋が固く練りが足りないので及第とは言えないが、新潮ミステリークラブ賞受賞。(竹) |
い |
伊坂幸太郎 |
アヒルと鴨のコインロッカー |
2016
7/2 |
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地方都市の大学に入学したての若い男と同じ町に住む若い女、2年という時間を隔て交互に進行する筋書き。この映画を観たと思っていたので、読み進むにつれ「?」の連続。おぼえが無い。でも観たはずなのに。映画って原作と相当違っていましたか?それはそれとして新鮮な気持で充分楽しめました。だって、こういう小説が好きなんだから。(竹) |
い |
いしいしんじ |
トリツカレ男 |
2022
12/23 |
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色んなものに熱中する男と唯一の友人の喋れるネズミの物語のはずが、男はある女性に恐る恐る熱中する。町中から好かれて、今まで熱中した経験を生かした男は今回も突き進む。大人の童話。この前に「麦ふみクーツェ」を読んで面白いと思わなかったのに借りてしまった。同じ系統の話。全160ページと短いし、引っかかる物も無く読了。(竹) |
い |
いしいしんじ |
麦ふみクーツェ |
2017
5/5 |
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音楽の打楽器に厳しいおじいさんと数学の素数で頭が一杯のおとうさんに育てられた長身の男の子が主人公の寓話。大勢の人が登場するが悪人と思われるような人でさえどこか優しい。奇想天外な話のオンパレード。坪田譲治文学賞受賞だが、自分にはその面白さは分からなかった。子供の純粋さがあれば分かったのだろうか。(竹) |
い |
石井幹子 |
光が照らす未来 |
2011
8/11 |
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ビジネスとしての本当の景観照明や建築照明を日本で初めて手がけた人。しかも女性。少女時代から自分の将来をちゃんと考え、目標を見つけそれに向って努力した人の半生記。学生や後から続く人に対して書かれている。だから私生活については殆ど書いてないが、私生活を含めた半生を描けばもっと面白いと思った。それは引退後か。(竹) |
い |
石坂浩一・福島みのり |
現代韓国を知るための60章 |
2020
7/26 |
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い |
石田衣良 |
6TEEN |
2019
5/17 |
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東京の月島に住む16歳の4人の少年達の青春小説。10編が入った連作集で「4TEEN」の2年後の続編。それぞれのエピソードがいかにもありそうな話で平凡過ぎる。そして暗いのは、大人になって行く予兆なのかもしれないが楽しくない。主人公の少年をもっと活躍させるようにして小説の核となるものが欲しかった。直木賞を獲った前作には及ばない。(竹) |
い |
石田衣良 |
4TEEN(フォーティーン) |
2008 1/14 |
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東京月島に住む中学2年生男子(14歳)4人を中心に都会の青春を描いている。中学生とはいえ都会に住む子供を題材にすれば、いくらでもとんがった書き方ができたのにやっていない。大人になりかけの男達のさわやかな青春がある。東京都心の地図を見ながら読んだ。この世に神様がいるなら、もう一度青春をやり直したい。2003上期直木賞。(松) |
い |
伊集院静 |
いねむり先生 |
2018
10/12 |
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著者と色川武大(阿佐田哲也)との交友を描いたノンフィクションのようだ。著者が妻の死で鬱屈し小説が書けなかった時期に、知人から紹介され賭け事を通じて付き合う。こちらの知らない個人を称えるように書かれると嫌悪感を持ちやすく、題材も賭け事なので親近感が無いが、先生の描写が良いせいか厚手の410ページをスムーズに読めた。(竹) |
い |
伊集院静 |
東京クルージング |
2017
5/16 |
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ヤンキースに入団した松井秀喜のドキュメンタリー番組を作るテレビ局のディレクターと小説家(作者がモデル)の3人の交流から始まるが、途中から物語がディレクターが愛した女性の事になる。第2部は完全に違う小説。小道具のチェロの使い方も、結末も強引。短編を無理やりつなげたようで、題名さえも生かされていない。散漫な印象。(竹) |
い |
磯ア憲一郎 |
終の住処 |
2013
3/3 |
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第141回芥川賞の純文学作品。広辞苑に寄れば純文学とは純粋な芸術を指向する文芸作品。芸術作品となれば読む側の知識が必要となる。個々の言葉の裏やエピソードの隠喩、全体構造の方向などを汲み取らなければいけない。それに面白さを感じなければただ肩が凝る。内容は、男が結婚をして子をもうけ年月を重ねてある日気づく。他に1編。(竹) |
い |
一穂ミチ |
パラソルでパラシュート |
2022
11/12 |
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大阪在住だが東京出身の29歳女性。あと1年で失職する時に、興味も無かったお笑いの世界に足を入れる。自らお笑いはやらないが、芸人達のシェアハウスに住み、別の世界を知り、交友関係も広げ、自分も変わって行く。小説に出てくるお笑いのネタも、実際にありそうで面白い。大阪弁は苦手だがそれほど反発せずスムーズに読めた。(竹) |
い |
伊藤計劃 |
ハーモニー |
2015
11/5 |
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全世界的な大災禍が起き多くの人命を喪失。残った人間は人命を尊重する事を命題に健康監視システムを作り上げる。究極の厚生社会での自殺に失敗した少女は成長しWHOの監察官になる。大災禍の反省からの行き過ぎた社会に反旗をかかげる者達が現れ監察官の友人が死に捜査を始める。壮大なテーマをまとめているが結末はスッキリしない。(竹) |
い |
伊藤計劃 |
虐殺器官 |
2012
6/21 |
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世界各地で虐殺を扇動する男を米軍暗殺部隊が追う近未来軍事SF。汚れた仕事をするには主人公が繊細過ぎるが、それを生かすには作戦中の主人公をクールに描かなくてはいけない。それが出来ていないのでメリハリが無い。会話が長過ぎて冗長。ラスト前の終わり方がアッサリし過ぎる。全体にもっとクールにした方が面白さが引き立つ。(竹) |
い |
伊藤たかみ |
八月の路上に捨てる |
2007 11/25 |
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表題作の芥川賞中篇と短編1編が収められた本。離婚する男は自販機の飲料を補充するアルバイター。正社員で運転手で少し年上の女は離婚経験者。2人が組んで仕事をして何となく情(じょう)が湧くのが分かる。どこにでもある男と女の話。捨てたと思うものは、最初から無かったのかもしれないし、逆にそこらじゅうにフワフワしているのかもしれない不確かなもの。(竹) |
い |
伊藤秀雄 編 |
傑作短編集 露伴から谷崎まで |
2009/
2/19 |
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明治探偵冒険小説集の4。内容は表題通り明治期の今で言うサスペンス・スリラー系の短編集だが人と人の繋がり、義理人情も主題になっている。有名無名の作家の作品を厳選しただけあってどれも及第作。言い回しや単語が分かり難いが、そこにも時代を反映した面白味がある。昔から人情劇は人を引き付けるが、今でも通用する面白さがある。(松) |
い |
伊藤比呂美 |
女の絶望 |
2023
1/5 |
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地方紙での身の上相談の回答者として悩みを聞くうちに悟った真理をエッセイとしてまとめたもの。主に中高年女性の普遍的な悩みに対する回答がある。落語みたいな出だしで江戸っ子の口調で人生の厳しさを和らげている。女も男もいや、老若男女読むべし。自分には関係無いが他人の悩みは面白い。この本は愛され過ぎて汚れている。(松) |
い |
伊藤比呂美 |
とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起 |
2020 3/14 |
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い |
絲山秋子 |
海の仙人 |
2023
1/19 |
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敦賀の海に魅了され住み着いた男を巡る人と人じゃない存在の物語。短い人生なのに効率的には生きられない。ダメと分かっていても思いは断ち切れない男女の、釦の掛け違いのような恋愛。犠牲が無ければうまくは行かないのか。そもそも主人公にとって当った3億円とは何だったのだろう。平穏な生活を望んでも波に翻弄される主人公。次は、で幕(竹) |
い |
絲山秋子 |
エスケイプ/アブセント |
2022
11/12 |
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左翼活動家だった男は40歳、革命の後の自分の人生を京都で見つめる。100ページを超える程度の短い中に、主人公にまつわる様々な事柄を詰め込み、どれも進展はしない。気になるのは双子の弟。もっと短いもう一編が福岡にいる弟が主人公。結婚も近そうな同棲中の彼女がいる。どちらも何も起こらない。一つの人生の一場面の切り取り。(竹) |
い |
絲山秋子 |
ばかもの |
2022
7/21 |
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年上の女性に誘われて虜になった大学生が、突然の別れがあっても就職して恋人も出来て人並みの生活を送っていたが、少しずつアルコール中毒になり生活が破綻する。年上の女性にも不幸があり、長いブランクの末に二人は逢う。210ページという小品だが面白くて2日掛からず読んでしまったのは最近の読書では無い事。簡潔な表現が良い。(松) |
い |
絲山秋子 |
沖で待つ |
2007 12/5 |
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中篇というよりも短編2編が収まる薄いハードカバー。表題作は漁師の話では無く、作者が10年余り勤めていた住宅設備機器会社での同期入社の男女の話。といって色恋沙汰が無く、仕事での戦友という感覚。味付けよりも素材を生かした小説。悪い所は無いが、かといって良い所もこれといって無い。なんでこれが芥川賞、という気もする。(竹) |
い |
井上荒野 |
誰よりも美しい妻 |
2023
2/2 |
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著名なバイオリニストを夫に持つ妻。夫は次から次と浮気を繰り返す。妻に飽いているのではなく、妻を愛して依存さえしている。妻は夫の浮気を知っているが何も言わない。妻は夫を愛していて、一番望むのは夫が夫らしくいられる事。だから夫に悋気は起こさない。それが他人は不可思議と思う。読者としてはそういう夫婦もあるかと納得してしまった。(竹) |
い |
井上荒野 |
しかたのない水 |
2019
8/9 |
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プールのあるアスレチッククラブを舞台にして、集う男女の生活が6編の連作短編になっている。どの作の男女も普通とは違う暮らしをしていながら表面は普通の仮面を被っている。他人が見たら大変と思っても当人にしてみたら大した事が無いのだろう。生きて行くのだから大概の事は慣れてしまうのだろう。意外に破綻が無く途中の人生を送っている。(竹) |
い |
井上荒野 |
潤一 |
2018
11/28 |
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表題の若い男が様々な女性と関わりを持つ。女性毎に章に分かれている。ただ時系列ではないのと男の嘘で物語が絡み合い、味になっている。男の章もあり、善良だが尻が定まらない性分は生い立ちにあるようだ。それでも刹那的ではあるが女に幸せを感じさせている。悲しい物語だが、人生はなるようになるのだろう。流れていく感じが愛おしい。(竹) |
い |
井上荒野 |
グラジオラスの耳 |
2016
11/8 |
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5編を収める短編集。最後の「ビストロ・チェリイの蟹」だけは普通に生活の一部を切り取った小説で好感が持てるが、他は変に隠してしまう部分があって読者の想像に任せますみたいな感じは読むのに不便。そういう技巧もあるだろうが、それには内容が不足。ただ奇を衒っているだけのよう。題名負けもしている。この作家の中では出来の良くない方か。(竹) |
い |
井上荒野 |
切羽へ |
2010
9/5 |
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北九州の離島で暮す小学校の女性教諭が主人公。絵描きの夫や憎まれ口をきく老婆や色気過剰の女友達や新しく赴任してきた男教師、そして島の人達や子供達が丹念に描かれ季節のうつろいとともに情感のある風景を作り出している。過不足の無い叙述で人の死やちょっとした波風の日常を嫌味なく描き心にしみる。2008年上期直木賞。(松) |
い |
井上ひさし |
吉里吉里人(下) |
2018
12/22 |
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吉里吉里国は最先端医療でまずは世界中の富裕層を入院させ、日本を牽制していた。日本は金本位制の元となる金の隠し場所も探っていた。様々な国や組織が狙い吉里吉里国危うしとなる。小説家が狂言回しのようになり悪い方へと展開して行く。代々虐げられた庶民の逆襲で、日本への風刺に満ちた小説だがまだ言い足りないくらい。日本SF大賞。(竹) |
い |
井上ひさし |
吉里吉里人(中) |
2018
12/22 |
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出来心から万引きをして動物虐待の罪に負った小説家は吉里吉里の移動国会議事堂で裁かれる。一方独立を阻止したい日本の政治家は表立っては自衛隊、裏では秘密工作を進める。吉里吉里は性に対して大らかで、標準語だと際どくなるが吉里吉里語が柔らかくしている。ルビが振ってあり言葉に慣れてきて自分が考える時に東北弁が出てしまう。(竹) |
い |
井上ひさし |
吉里吉里人(上) |
2018
12/22 |
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東北本線の急行列車が岩手県一関近くでハイジャックに遭う。乗っていた全員が近くの村に集められる。これが吉里吉里国独立の発端。頼りない小説家を主人公として見た事聞いた事が語られる。ついでに小説家の生い立ちも語られる。いわゆる東北弁が溢れかえる。自分も知らない言葉では無いが読み進むのが難。ただこれが小説の味になっている。(竹) |
い |
伊吹有善 |
雲を紡ぐ |
2022
4/1 |
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自分を上手く表現出来ない女子高生。学校でも家でも居場所を無くし、父方の祖父が営む岩手県の染め織り工房に家出する。筋書きはありふれているし、ひねりも無い。章によって女子高生や父や母の視点になる。「父」とあっても女子高生の父なのか父の父なのか一瞬分からなくなる。それに一人称と三人称が混ざっているようで読み難い。(竹) |
い |
今江祥智 |
ぼんぼん |
2005
3/29 |
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戦前から戦中戦後にかけての、題名どおりの少年の物語。話としては焦点が定まらない。それは時代が急速に流れていくせいもあり、少年の力になる無法松のような人がいるせいもある。続編があるので全部読まないと評価は出来ないかも。 |
い |
伊与原新 |
お台場アイランドベイビー |
2013
9/14 |
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東京湾北部大震災後の東京。経済と治安が悪化し治外法権のスラム街が広がる。孤島化したお台場では…。元刑事が主人公の近未来サスペンス。主役の肉付けは及第点だが脇役の扱いが杜撰。出版に際し書き直したという筋もまだ甘い。結末に向かっては小さくまとめた印象で盛り上りも空振りの感あり。骨格は良いだけに残念。横溝正史ミステリー大賞。(竹) |
う |
上杉那郎 |
セカンドムーン |
2012
7/29 |
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2012年の日本。打ち上げたロケットが軌道に乗らずに自爆。故障ではなく何者かによる撃墜を信じる男は命を狙われる。セカンド・ムーンは異星人の武器?セカンド・ムーンを巡り各国が暗躍する。サスペンス性を強調して後半でも全体像が不明、強引で納得が行かない筋書きは不満。ヒロインにも魅力が無い。アイディアは平凡でストーリーは粗い。(竹) |
う |
上田早夕里 |
魚舟・獣舟 |
2013
2/16 |
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年間日本SF傑作選 結晶銀河でもこの本の解説でも絶賛していたが残念ながら自分はそれほど面白いと感じない。6編のSF伝奇中短編集だが、短編は表題作も含め小説としてのキモである人物描写が薄っぺらい。アイディアも飛び抜けるものでないし、味付けとなる専門知識も説明書のようで深みが無い。ただ、中編の「小鳥の墓」だけは佳作の出来。(竹) |
う |
上橋菜穂子 |
狐笛のかなた |
2022
8/24 |
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時代や場所が不詳で侍や化け狐がいて、ヒロインは人の心を聞く事が出来るという時代劇ファンタジー。自らの生い立ちもあり、国と国の争いに巻き込まれるヒロイン。SF的小道具が多いが、表題の狐笛もヒロインの人の心を聞く力も生かされていないので面白味が薄い。狐との愛も空回り。児童文学だから詰めが甘いのか。残念な読後感。(竹) |
う |
上原隆 |
喜びは悲しみのあとに |
2007 7/26 |
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ルポルタージュ・コラムという。いわゆる聞き書きでノンフィクション。事実は小説より奇なり、ではなく事実と小説の違いが不明。世間に在りそうな話で心に沁みいる。聞き書きだからこれを話した相手は生きている、良かったねと思う。この中の「インポテンスの耐えられない重さ」の中のセックスを開眼する所が、他人事ながら又良かったねと思う。(竹) |
う |
上原隆 |
友がみな我よりえらく見える日は |
2005
11/5 |
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石川啄木の短歌の一節を題名とするこの本はルポルタージュ作品です。ノンフィクションの短編集です。第三者から見れば、石川啄木の作品より生活破綻者のようなその生き方死に方が重く感じられるが、同じように現在の一井の者たちの生き方を物語る。現代の語り部のモノローグ。(竹) |
う |
内田樹 |
日本辺境論 |
2010
9/18 |
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かつて世界の中心は中国であって、その同心円状の最果ての地に日本があった。その辺境の地で日本が独自の文化を醸成した。日露戦争に負けたロシアが後に(今も)仕返ししたように、日清戦争に負けた中国が現在の経済発展をテコに日本に圧力をかけていると思う。それにしても、もっと平易な熟語やカタカナ語を使ってもらえればさらに読みやすい。(竹) |
う |
宇根豊 |
「百姓仕事」が自然をつくる |
2005
8/18 |
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目からウロコ。農業ばかりが補助金を貰って恵まれていると思っていた。農家が正しい「食」を担っているだけでなく日本の風景を、自然を支えていたなんて(殆どの赤トンボは田んぼで生まれていた)。しかも無償で。新しい日本を考えるきっかけになる本。農業に関係のある人だけでなくみんなに読んで貰いたい。(竹) |
う |
沖方丁 |
天地明察 |
2013
6/5 |
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江戸中期に囲碁の名家に生まれ幾何学や天文学に興味を持ち、改暦を苦難の末成し遂げた渋川春海を描く。歴史上の人物が多く出てくるので調査に多くの時間を使った事が想像出来る。それぞれに性格付けし史実にそったエピソードを作り上げる。まさに労作。題材も良いが作者の手腕が発揮されている。本屋大賞をとっただけあってSF作品より面白い。(松) |
う |
冲方丁 |
マルドゥック・スクランブル−排気 |
2008 5/11 |
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3部作の完結編。前半がカジノでのブラックジャックの勝負では、未来世界でのアナログのゲームを本当らしくみせるのに苦心したようだが、多少のアラが見えた以外はまとまっている。巻末の最後の戦いも迫力があった。しかし、表面的にひねくり回しているだけで人間が描けていない。2003年日本SF大賞受賞。(竹) |
う |
冲方丁 |
マルドゥック・スクランブル(燃焼) |
2007 12/15 |
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殺し屋から辛くも逃れた少女の逆襲が始まる。殺人を依頼した男の証拠をつかむ為に仲間と共にカジノに潜入する。未来世界のカジノなのにセキュリティが緩すぎる気がするが、これも主人公が活躍するためか。これは3部作の2。前編(圧縮)の最後にも思ったが、全編は最後のページに「to
be continue」をカッコよく表示する為の振りか。(竹) |
う |
冲方丁 |
マルドゥック・スクランブル(圧縮) |
2007 11/18 |
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作者の名前は読めない(なのにネット上では使える漢字)し、英文訳みたいなルビが気取っていると思いながら読み始めたが、これが結構面白い。SFヒロイックアクション物。悪者に利用され殺されかけた少女娼婦が、命を取り留めるためにサイボーグまがいの身体になり悪者に復讐する序編。難は手術前まで普通だった少女を奉りすぎ。日本SF大賞。(竹) |
え |
江國香織 |
号泣する準備はできていた |
2009
5/17 |
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今ならアラフォーと呼ばれる女性達を主人公にした短編集。生活の場面場面を切り取って見せる一つ一つがよく出来ている。映像的でも過剰な演出にならずに、しかも心の深い所を表現している。自分の心にも迫ってくるものがあった。2004年直木賞。(松) |
え |
江戸川乱歩 |
孤島の鬼 |
2013
8/1 |
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筒井康隆の「漂流」によると影響を与えられた本という。大正・昭和の推理小説家の巨匠の作品。前半は密室殺人、後半は伝奇小説。今読んでも題材のおどろおどろしい感じは新鮮で、人物の陰影による深みで、小説が引き立っている。流すような結末はあっさりし過ぎて不満で、ここだけ古い感じがするが、これが当時の王道のスタイルなのだろう。(再読)(竹) |
え |
榎本まみ |
督促OL 修行日記 |
2020
5/16 |
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|
え |
榎本まみ |
督促OL コールセンターお仕事ガイド |
2019
11/12 |
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通販の注文とか、商品のクレームとか、クレカ使用の未入金の督促とか、世の中には様々なコールセンターがあるものだと知った。中身は4コマ漫画もあって読み易い。自分は知らない人と話すのは苦手で、実情はもっと厳しいだろうが、何故かこの仕事に魅力を感じる。未知の業界を表面だが知る事が出来る啓発本でもある。「修行」も読んでみたい。(竹) |
え |
円城塔 |
バナナ剥きには最適な日々 |
2015
12/11 |
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SFのような幻想のような小説が9編収納。自分には極めて分かり難い。不明の単語の意味を辞書で引いても理解出来ず、その解説の中の単語を更に引く始末。同じ場所を行きつ戻りつ読み進むがワカラン。中の1,2編だけなら雰囲気を味わうが、殆ど全部となると飛ばし読みになる。理解出来ない自分が悪いのですね。自分はもう降参です。(竹) |
え |
遠藤周作 |
生き上手死に上手 |
2005
5/7 |
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キリスト教の信者の著者が書いた生きる指針になる本。なんて言うと、説教を聴かされるのは沢山だ。と思ってしまうが、それも人による。この人の言い方は全然、抹香臭くない。キリスト教でも仏教でも当てはまる普遍的なことが書いてある。人生に無駄は無い、失敗も失敗ではないということがやさしく書いてある。 |
お |
大岡玲 |
黄昏のストーム・シーディング |
2008 4/16 |
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中篇2編。表題作は、妻がいるもう若いとはいえない男が都会から瀬戸内の島に失踪してくる。島の養豚場で働くうちに、その経営者から天気を制御するという不可思議な教えを受けることに事になる。ユーモアと解説にあるが、自分にはぬるい印象。メリハリが欲しい。もう1作は家庭崩壊を描く青春小説。1989年三島賞。(竹) |
お |
逢坂剛 他 |
決断(警察小説競作) |
2012
3/2 |
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TVでは警察ドラマが全盛のようだが、小説でも書き手が沢山いる事を知った。複雑なパーソナリティや人間関係を描いて小説の深みを出している。長編の番外編のような短編もある。日本作家に関しては低い評価をしていた自分の目を覚まされた。ただ、あまりリアリズム過ぎて生活臭くて華やかさが無いのが難だ。短編なので仕方ないか。(竹) |
お |
大崎梢 他 |
隠す アンソロジー |
2017
12/21 |
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11人の作家の短編集。テーマが「隠す」なのでミステリー仕立てが多いが、小手先でひねくり回したような不自然さを感じる。中では永嶋恵美の「自宅警備員の憂鬱」と加納明子の「少年少女秘密基地」が好み。女性作家のアンソロジーだと思ったが男性作家がいるのはゲストとの事。それぞれの作品に共通の「なにか」が隠されているが読めば分かる。(竹) |
お |
大崎梢他 |
アンソロジー 捨てる |
2017
5/30 |
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「捨てる」を主題にした女性作家のアンソロジー。300ページ程度に9作を収納なので短く、それぞれを気軽に読み易い。中でも松村比呂美の「蜜腺」が好み。仕事でも家庭でも恵まれない中年女性なのに、図太さと鋭さが表現され、この先もしっかり生きて行くのだなと思えて安心した。他にも別の主題のアンソロジーもあるようで次には読みたい。(竹) |
お |
大沢在昌 |
毒猿 新宿鮫U |
2015
1/25 |
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新宿署の一匹狼、新宿鮫シリーズ2作目だが読むのは初。日本の暴力団に匿われた台湾の大物を追って殺し屋が潜入する。それを追い台湾の刑事も来る。1991年作で描かれる風俗が古いのは仕方が無いが、主役の正面過ぎる立ち位置が好みでは無い。斜に構えて力の抜けた主役が好き。但しアクションもあり、飽きさせない筋運びは妙味がある。(竹) |
お |
大島真寿美 |
渦 |
2020
5/27 |
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お |
大島真寿美 |
あなたの本当の人生は |
2019
11/23 |
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過去にジュブナイル小説をヒットさせた女流作家の元へ駆け出しの女性が弟子に入る。女性作家の秘書や元亭主や編集者がからんで味わいのある作品になっている。読む前は何故かもっともっとシリアスで暗い作品かと思って躊躇していたが、読み始めると、どんどん興味が湧いて来て先へ先へと進んだ。結末がホンワカしているがもっと劇的が好き。(竹) |
お |
大島真寿美 |
ツタよ、ツタ |
2017
9/24 |
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明治時代に結婚と共に台湾に移り、夫の失職とともに本土に転居。離婚して書いた始めての小説を誹謗中傷され、筆を折った沖縄出身の女性を知り、知られていない部分を想像で補った小説。殆ど事実だというから小説より奇なりだが、そういう激動の時代だったのだろう。終盤は70代に一気に飛ぶが世間的には幸せな生涯を得たと思うと安心。(松) |
お |
大塚己愛 |
鬼憑き十兵衛 |
2020
5/27 |
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お |
大庭みな子 |
寂兮寥兮(かたちもなく) |
2005
11/26 |
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この装丁は誰がしたのだか分かりませんが、型押しされた題名が見難いです。目にもスキャナーにも見難いです。内容は題名ほど面白くありません。隣同士の幼い時から知り合いだった男女(たち)のお話。これが純文学と言うものでしょうか。(竹) |
お |
大原まり子 |
ハイブリッド・チャイルド |
2023
1/5 |
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軍の最終兵器として開発されたサンプルB群。生体と機械の身体を持ち遺伝子からどんな生物にもなれる。それが自由意志を持ち脱走。遠い未来を描く本格SFの連作三編を収める。二編は短編で読み易かったが、三話目の長編は話が入り組んで情緒的で自分の好みでは無い。素材もステレオタイプで進行もスムーズではない。でも星雲賞。(竹) |
お |
大原まり子 |
メンタル・フィメール |
2005
2/3 |
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日本SF界の第一人者らしい。日本のSFも向上したと言う雰囲気があるが、ただ世界の変化に付いて行っているに過ぎないのでは?日本の、いや最近のSFには疎い自分なのではっきりは分からない。好き嫌いで言えばこの短編集の中では一作しか好きなものはなかった。 |
お |
大道珠貴 |
しょっぱいドライブ |
2008 4/29 |
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女性が主人公の恋愛短編3話。表題作は気のいいおじいちゃんと恋愛?関係にある三十路女の話。恋愛もセックスも仕事も生きていく事さえもこだわりの無い淡白な女性。世の中を斜にかまえている訳でも、絶望している訳でも、開き直っている訳でもない。フワフワと生きている感じが自分と同じと身につまされる。芥川賞2002年下期。(竹) |
お |
大森望 編集 |
NOVA 1 |
2021
6/1 |
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SF好きだが海外も国内も(殆ど)面白い作品に出会わない。大森望責任編集のNOVAを知る。書き下ろしのアンソロジーとある。1をまず借りて読む。知っている顔ぶれが並んでいる。そうだこれがSFだ。山本弘は間違いない。近年で一番のSF作家だ。逆に円城塔は面白味が分からない。NOVAは図書館に10冊以上あるから金脈を掘り当てた感じ。(竹) |
お |
大森望 他編 |
年刊日本SF傑作選 結晶銀河 |
2013
1/19 |
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2010年の傑作SF短編を収録。アルジャーノン風の文学調のものや、ダイナミックな宇宙建設もの、SFサスペンスものなど多彩。好みは「完全なる脳髄」上田早夕里で続編を読みたい。日本のSFは進化していると実感。海外での翻訳も進んでいるという。まさにクールジャパンだ。巻末の解説も重要で読むべき魅力的なSFを紹介してくれ今後の参考になる。(竹) |
お |
大森望 他編 |
年刊日本SF傑作選 量子回廊 |
2012
8/12 |
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2009年日本SF年間傑作選。編者の努力により読者の自分は努力せずに美味しいSFにありつけるのは有り難い。読み始めからSFと分かる作品。はて、これはどこからSFになっていくのかと思う作品。かと思うとこれがSF?と思う作品。種々雑多な色合いのカラクリ玩具のよう。マンガの「日下兄妹」は良かった。それと皆川博子は改めて読んでみたくなった。(竹) |
お |
大森望 他編 |
年刊日本SF傑作選 超弦領域 |
2012
6/8 |
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2008年日本SF年間傑作選。日本のSFをしばらく読まないうちに色々な進化を遂げたと確認出来る短編集。自分は文系のSF読み(頭悪いの同義語)なので、数学系の話にはついて行けない。だから、これぞSFという「青い星までとんでいけ」は感動。川崎在住の方も、この短編集を手掛りにまたSFを読んでみたらどうですか。(竹) |
お |
大森望 他編 |
年刊日本SF傑作選 虚構機関 |
2012
5/11 |
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年間日本SF傑作選とあるように、SF作家(でない人もいる)の短編、ショートショート、漫画を集めたもの。これは2007年のもの。日本のSFについては、初期のものを読み漁ってからは一部の作家以外は何十年もご無沙汰で日本SFの進化を見逃していた。今後の参考になる作品集。実際面白い作家を発見した。田中哲弥の「羊山羊」は好み。(竹) |
お |
岡愛子 |
私のピーターパン |
2013
10/3 |
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70年以上前に15歳の少女が妹に聞かせる為に書いた童話。一時「赤い鳥」に連載され戦後に出版もされたが廃版になっていた。周りの勧めで現代に合うように書き直しをして1996年に出版されたもの。内容はピーターパンを下敷きにして作り上げたお話。えぐみが無くてホンワカした所が良い。話を作って聞かせるという事を昔の少女はよくやっていたものだ。(竹) |
お |
岡崎久彦 |
戦略的思考とは何か |
2005
9/7 |
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題名通りの内容で決して何かの例えでは無い。日本の国家戦略の話だが堅そうな話の割りには分かりやすい。現実を認識した啓蒙書ではあるが20年前の時点の話。現在はどうなのか知りたいと強く思った。実を取った国防なら簡単なのにね。アメリカ、太平洋戦争で蹂躙した国々、日本国民の考え、他にもファクターがある。(竹) |
お |
岡田智彦 |
キッズ アー オールライト |
2011
3/9 |
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地方の不良高校生の非現実的なバイオレンスタッチの話。歯を折ったり肋骨を折ったり指を切断したり首を切ったり殺したりと不可逆的な暴力の話が続く。だが、殺伐としているのに変な潤いもある。不良高校生の他に暴力団や警察が登場する。東日本大震災から3日も経っていない今は読むのが苦しい。2002年第39回文藝賞。(竹) |
お |
岡本かの子 |
老妓抄 |
2019
4/13 |
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作者の名前は知っていたが作品は初めて読む。大正から昭和初期の人で古臭いと思い、評判から食わず嫌いだったのかも。これは9編の短編集。読んでみて現代物にしても時代は感じるが古さは感じなかった。親子でも男女でも他人でも交情の太さ暖かさを感じた。食に囚われる題が多いが食欲こそが自分に正直になれるのかもしれない。(竹) |
お |
小川一水 |
青い星まで飛んでいけ |
2022
11/25 |
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SFはアイディア勝負で短編は特にそう思う。収められた6編は其々違って、其々秀逸な出来だ。今年読んだSFの中でも一番の面白さだ。設定も背景となるスケールの大きさも、主人公となる人格も申し分ない。自分好みのSFだ。表題作も良かったが「占職術師の希望」の天職を見抜ける能力というのは世相を反映しているようで共感した。(松) |
お |
小川一水 |
美森まんじゃしろのサオリさん |
2021
5/14 |
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山間の村が合併して出来た町に住み着いて何でも屋をして生計を立てている若い男と、村に詳しい訳ありの若い女が問題を解決する。鄙びた村の話かと思ったら、まだ実用化されていない製品が出て来て近未来の設定だった。まんじゃしろは美森の神社で卍社、サオリは女性の名で詐織。詐とは性格を現しているが、親がこんな悪い字をつけるかな。(竹) |
お |
小川一水 |
天涯の砦 |
2020
1/4 |
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お |
小川一水 |
老ヴォールの惑星 |
2018
8/17 |
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SFは読み始めた50年前の素朴なものとは違い様々なものが付け足されて来た。それが個人的に邪魔になる時は読むのが苦痛になる、特に長編の場合は。だからSFは短編を読むのが無難。これは4編が入る短編集。372ページに4編なので割合長い短編。「幸せになる箱庭」が結末を予測出来ないので良い。誰が良いと言っても結局好みに尽きる。(竹) |
お |
小川一水 |
フリーランチの時代 |
2016
10/7 |
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異生物との初接触、高度医療、宇宙に拡散する人々、不死の世界、時空を超えた戦いの各テーマを収めた短編集。それぞれレベルが高く、久々にSFを楽しんだ。孤独な宇宙船乗りを描く「Slowlife
in Starship」は好みだ。それに「時砂の王」のスピンオフに興味を引かれたが、元の小説は読んでいたのに全く忘れていた。その程度だったのかも。(竹) |
お |
小川一水 |
煙突の上にハイヒール |
2016
6/7 |
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現在から近未来にかけて起こりそうな出来事を背景にした5編の短編集。携行型の飛行具、猫に取り付けるカメラ、自立型ロボットと操作型ロボット、変異性インフルエンザ、と有り得そうだ。だからアイディアとしては優れているものでは無いし、かと言って技巧的にも優れているものでもない。長所は嫌味が無く読み通せる所。エグイ小説の後に良い。(竹) |
お |
小川一水 |
妙なる技の乙女たち |
2012
7/10 |
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軌道エレベーターが実用化され赤道直下のインドネシアの島は宇宙への入口として多くの関連産業とその人々で湧きかえっていた。様々な職種で働く女性達の短編集。軌道エレベーターがある世界を作りあげられていて、その中で個人の生活を描いている。現実とは違う世界の中での庶民の生活を描くのは馴染みやすいし面白い。こんなSFが好き。(松) |
お |
小川一水 |
第六大陸2 |
2012
5/2 |
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月の結婚式場には世界中の大金持ちから予約が来る。ところが想定外の部品のトラブルから予定外の行動をする事になりそれが計算ミスで大きな事故を招き共に苦労してきた仲間が死んでしまう。その事故から資金難となり計画の達成が難しくなる。作者のさじ加減で困難を作っていると思える場面もあるし、娘の目的の謎も大した事ではなく、そこは残念。(竹) |
お |
小川一水 |
第六大陸1 |
2012
4/22 |
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近未来の日本で、月に商業施設を造るという計画が新興の特殊建設会社に持ち込まれた。主人公は建設会社の若い社員。施主は大金持ちの老人と孫娘。その目的には謎がある。ライバルとして老舗のNASAも参入、日本作家のハードSFとしては上々。データとしての数字は飛び交うが、どちらかというと中間小説的な読み易さがある。(竹) |
お |
小川一水 |
時砂の王 |
2011
7/24 |
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26世紀に地球は宇宙からの侵略に遭い壊滅する。太陽系の外側に逃れた人類は時間を遡って侵略者と戦う。その中で3世紀の邪馬台国がキーポイントとなる。SFらしいSFであるし、筋も悪くはないが、小説としての肉付けが足りない。例えば人物描写が平板だ。日本のSFの欠点でゲーム性はあるがエンターテインメント性がない。(竹) |
お |
小川糸 |
キラキラ文具店 |
2022
5/1 |
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鎌倉が舞台の代書屋の日常を描く「ツバキ文具店」の続編。人との繋がりが発展して、店主の女性は子連れの男と結婚する。義理の娘と係わって女性は幸せを感じる。今回も様々な代書が直筆で登場する。SNSが蔓延する世界だからこそ手紙は貴重。書く方と受取る方の温度差があっては伝わらない気がするが、それこその代書屋の腕の見せ所。(竹) |
お |
小川糸 |
サーカスの夜に |
2018
6/26 |
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両親と別れ祖母と暮らす少年は、病気の後遺症で成長しない身体を持つ。13歳になって将来を考える時、幼い頃に見たサーカスを思い出す。少年がサーカス団に入り、コックの手伝いとトイレ掃除から、自分を見つめ出来る事を探す成長物語。場所や年代は特定していないが、日本では無い。ストーリーは平凡。長い物語の出だしのような感じ。(竹) |
お |
小川糸 |
ツバキ文具店 |
2018
3/23 |
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鎌倉で文具店を営む若い女性。祖母の後を次いで代書屋もしている。珍しい職業だが、現代らしい様々な思いを込めた手紙の依頼が来る。相手の身になって書体や文体を考える。主人公の行動は鎌倉の名所めぐりにもなっている。ただ自分は軽井沢の八百屋で嫌な目にあっているのでプライドの高い観光地は苦手で、物語にもすんなり入れない。(竹) |
お |
小川糸 |
にじいろガーデン |
2018
1/26 |
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偶然のような出会いで結ばれたシングルマザーと女子高生。やがて女子高生は前の彼氏の子を生み、山村で4人で暮らす。徐々に地域にとけこみゲストハウスを営業する。同性カップルの家族の成立ち変遷を描く。世間から白い目で見られがちな同性カップルだが、生活も仕事も子供の学業にしても比較的スムーズに描かれている。問題は病気か。(竹) |
お |
小川糸 |
リボン |
2016
12/13 |
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鳥好きのおばあさんと同居する女の子。おばあさんが鳥の卵を拾い孵化させる所から2人と1羽の濃密な生活が描かれる。中盤はオカメインコが共通となる連作長編のようだ。終盤は年月が経過して成人した女の子がおばあさんの人生を振り返る。おばあさんが明るくて湿っぽくないので、弱った時が余計胸に迫り涙を誘う。身につまされる。(竹) |
お |
小川糸 |
さようなら、私 |
2016
11/1 |
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新聞日曜版のエッセイで見かけ読みたくなった。表題の小説は無いが、フォルダの名のようにこれがくくりとなる中短編3編を収納。主人公は全部女性。これまだ続いて来た澱のような生活から、或いは突然の不幸から立ち直る再生の物語、と言ってはカッコ良過ぎか。「おっぱいの森」に「悲しみの背比べをする場所ではない」とあるがむずかしいなと思う。(竹) |
お |
小川糸 |
ファミリーツリー |
2013
11/17 |
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穂高で生まれた泣き虫の少年と親戚の少女の成長の物語。ひいおばあさんが核となり、物語の柱になっている。田舎のしっかりした親戚の結び付きは良い時代の日本を思い起こさせる。読みながらもみんな幸せになって欲しいと願わずにいられなくなるほど感情移入してしまう。歳と共に人も移ろって行き、変わってしまうのがどうしようもなく哀しい。(松) |
お |
小川糸 他 |
スタートライン 始まりをめぐる19の物語 |
2013
5/28 |
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表題のように19人の作家による短編集。220ページの本に19作なので1編が短く気軽に読み始められる。一人の作家の短編集より多彩な所が良い。殆どが読んだ事の無い作家で、宮木あや子の「会心幕張」のエロい言葉に惹かれて長編も読みたくなった。色んなスタートラインを読んで、60歳になった時の自分もスタートラインに立っていたのだなと思った。(竹) |
お |
小川糸 |
あつあつを召し上がれ |
2013
5/3 |
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ごちそう≠主?役にした7作の短編集で表題作のものはない。うち6作は「旅」という雑誌に掲載されたものという。そのせいか泣かせる場面を抑えてライトな感じで作られている。「親父のぶたばら飯」に出てくる、しゅうまいとふかひれのスープとぶたばら飯も、小食の自分でも全部食べれそう。食欲という欲望は老若男女誰にはばかる事が無いので良い。(竹) |
お |
小川糸 |
喋々喃々(ちょうちょうなんなん) |
2013
1/19 |
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題は自分が子供の頃に大人が男女の仲を揶揄する時に使った記憶があり、何だか卑猥な印象がある。今話題の谷根千界隈に住む和服の古着屋を営む女性が、客の男と相思相愛になるがなかなか進展はしない。でも、深い仲になる前から男に下の名前を呼び捨てにさせるのは女からのフォーリンラブの宣言か。東京下町案内も兼ねていて面白い。(竹) |
お |
小川糸 |
つるかめ助産院 |
2012
4/14 |
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失踪した夫との思い出の南の島にやってきた若い女性が妊娠に気づかされた助産院で様々な人達に助けられ出産するまでの物語。周りの女性たちの生き方を知りこの女性も成長する。生んでもらって、生きてきて、自らも子を生む。女性の根源のようなストーリー。ユーモラスな題名だが内容はシリアスが勝っている。ただ、この結末は好きではない。(松) |
お |
小川糸 |
食堂かたつむり |
2011
8/11 |
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恋に破れた若い女料理人が帰郷する。女丈夫のオカンとやさしい隣人の協力で1日1組限定の食堂をオープンさせる。料理の腕が良すぎるのと本人の恋が失恋だけなのは残念。オカンやブタの結末もここまでしなくてもと思う。故郷の人々との交流も良いし終始ほんわかした小説に仕立てた方が良かったのではないかと思う。他に番外1編収める。(竹) |
お |
小川洋子 |
寡黙な死骸 みだらな弔い |
2016
11/22 |
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死をモチーフにした連作短編11作。おどろおどろしいホラーというよりシュールレアリズム的に乾いていて恐ろしさは薄く驚きも無い。抽象的な絵を見ている様な感じを持つ。適切でない物を使っている場面もあるがこれはそういうフワッとした感じを狙っているのかもしれない。何と言って良いのか分からないが面白くは無い。(竹) |
お |
荻原浩 |
海の見える理髪店 |
2021
10/2 |
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この題名に惹かれて借りた本。しかし長編でも連作短編でも無く、色合いの違った6作を収めた短編集の中の一つだった。作品としては最後の「成人式」が好み。逆にこの題名には惹かれない。全体としてストーリーも題材も平凡。この題名の短編も意外性は無いが、連作で幾つも作れば全体として相乗効果で深みが増して面白い作品になると思った。(竹) |
お |
奥田英朗 |
延長戦に入りました |
2022
9/2 |
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小説と思って借りたらエッセイだった。しかも自分には興味の無いスポーツに関するもの。仕方なく読んだが個人の考えが出るエッセイは自分と違うとちょっと許せなくなる。小説だと作り物だと思うから許せてしまうのか。という訳で何とか読んだが面白く無いが面白く無いとも言えない。どうでも良いような事が書いてある。この人の小説は好きだが。(竹) |
お |
奥田英朗 |
マドンナ |
2021
7/22 |
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5編を収める短編集。全て業種は違うが大会社に勤める中堅サラリーマンが主人公。自分には関係ない人生だが分かると思わせる。表題作は異動して来た女子社員に密かに恋する。部下とのさや当てもあったが本命が現れて終る。その他でも、男と女の働き方、古い社風の改革、その中で振り回される男達。男の哀愁としぶとさを感じて面白い。(竹) |
お |
奥田英朗 |
最悪 |
2019
8/9 |
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青息吐息で小さい鉄工所を経営する社長と、男社会の銀行で鬱屈する日々を送る女性行員と、親に見捨てられかつあげとパチンコで生きる若い男が登場する。こんな破滅に向うような小説はイヤだと思いながら止められない。後半に3人の軌跡が交わってから怒涛のような終盤に向う。文庫本でも600ページを越える大作だが淀みなく面白く読めた。(松) |
お |
奥田英朗 |
ウランバーナの森 |
2018
10/12 |
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ジョン・レノンが家族で軽井沢で過ごしていた時のドキュメンタリー風のフィクション。創作活動をせず主夫まがいな生活をしているうち、深刻な便秘と悪夢に悩まされ、悔いたい過去の亡霊に出会って謝って心の平安を得るまでの物語。外国の有名人を主題にした小説というのが意外。これまで読んできた筆者の作風からしても意外。でも面白かった。(竹) |
お |
奥田英朗 |
サウスバウンド(下) |
2018
8/9 |
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住んでいた借家を追われ、一家は父親の故郷の沖縄の離島に移り住む。見違えるような父親の働き者ぶりもつかの間、リゾート開発の波に巻き込まれ権力に抵抗するようになる。上巻の方が父親の破天荒ぶりが際立っていたが、この下巻は父親の生き生きした働きぶりが際立つ。表題は南の島に魅了されたとでも言うのか。上巻とは違う面白さ。(松) |
お |
奥田英朗 |
サウスバウンド(上) |
2018
8/9 |
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東京の繁華街に住む小学6年の男子が主人公。母は喫茶店を切り盛りし父は無職。どうやら二人とも昔は左翼の過激派だったらしい。男子に不良の魔手が伸び、父母にも怪しい人間が現れる。子供から見た大人の評価と限界が見えて来る。男子の自我の成長と恋の芽生えもある。文句無く面白い。つい読み過ぎて、読了したら日が変わっていた。(松) |
お |
奥田英朗 |
家日和 |
2018
4/17 |
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6編を収めた短編集。最初が「サニーデイ」ネットオークションにはまった主婦の話で、皮肉な結末になったらイヤだなと恐る恐る読んだがホッとした。次が「ここが青山」で少し安心して読み始めた。突然の会社倒産で立場が逆転した夫婦の話だが、お互いを労わっていて気持が温まる。こんな女性なら結婚したいと思った。こんな小説ならもっと読みたい。(松) |
お |
奥田英朗 |
ナオミとカナコ |
2018
3/1 |
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親友の二人、片方が夫の暴力に曝され、もう片方も親のDVを見て来た。夫から逃げる事は出来ないと悟り、二人して夫を殺す。よく考えたはずの完全犯罪が段々破局して行く。あるサイトでは、この作者の作品の1位となっていただけあって、後半の畳み掛けるようなサスペンス度は高い。殺人者であっても彼女達に共感し逃げ切れる事を願っていた。(竹) |
お |
奥田英朗 |
空中ブランコ |
2009/
7/12 |
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不真面目で破天荒な精神科医のもとに通う患者達の物語。患者毎の短編集。治す努力をしない医者と私的にも付き合ううちに何故か直ってゆく。色々な職業の患者の問題が世相批判になっている。しかし、そんな事はさておいて読み始めれば面白い。笑って(泣いて?)スッキリ出来る小説。精神的な処方箋となる。2004年上期直木賞。 |
お |
奥田英朗 |
イン・ザ・プール |
2009
6/7 |
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自分は水泳が趣味なので題名に引かれ借りた。内容はハチャメチャな精神科医に通う患者達の物語。表題は、水泳依存症になった男が診療に来るが、この先生は治すどころか自分も一緒になって水泳を始める。バカのような先生に付き合っているうちに患者は治癒していく、って事は天才か。患者ごとの読み切り短編。軽く明るい感じが良い。(竹) |
お |
押川春浪 |
押川春浪集(明治探偵冒険小説集3) |
2008 2/13 |
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明治時代(1903年頃)の冒険小説の中、短編集。巻頭の「銀山王」は今の昼メロにありそうな内容。舞台も登場人物もヨーロッパや中近東なのに地名も人名も漢字。そのせいか日本風や中国風の印象。西洋人なのに漢字の名前は変。当時はその方が馴染みやすかったのか?新聞小説のような細切れの章編成は読みやすい。(竹) |
お |
尾辻克彦 |
雪野 |
2011
3/20 |
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題名から冬の野原を想像したが、これは主人公の友人の苗字。絵の上手い小学生の頃から中学高校そして上京して美術学校に入りアルバイトに明け暮れるまでの友人との交遊をつづっている。貧乏を理由にして盗みを働く場面が何度かあるが、読んでいて恥ずかしい。若いからなのかその傲慢さが読んで苦しく感じた。1983年野間文芸新人賞。(竹) |
お |
乙川優三郎 |
生きる |
2008 5/11 |
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時代小説短編3作。表題作は江戸時代の小藩の藩主が病没した後の追い腹(後を追って死ぬ事)を描いている。読んで一日して頭の中で反芻した時に、「ああ、面白い番組だった」とTVで見たように錯覚して思い出した。人生の岐路ともなるような大事が起こった後の事を描いている。他の2作も秀逸。(松)2002年上期直木賞。 |
お |
小野正嗣 |
にぎやかな湾に背負われた船 |
2009/
1/4 |
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大分県の漁村の物語。警官である父親の転勤で越して来た女子中学生の目線から語られる、小さな漁村の本音の生活。現代から第2次大戦頃までを遡って、現在の生活に及ぼしている土着の濃い血の因果関係を描いている。と言うと題材としては重くなりがちだが、狂言回しのような人達がいて軽快感がある。2002年三島賞。(竹) |
お |
恩田陸 |
ドミノ |
2016
5/26 |
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締切間際の保険会社社員、ミュージカルを目指す少女、俳句のオフ会に集う男達、別れ話の男女、爆弾を仕掛ける過激派等々、それぞれが主役の物語が最終的に東京駅を舞台にして大団円を迎える変わった趣向の小説。その様相をドミノ倒しになぞらえたとは言わずもがなの事。スピード感があってライトな感覚は読む方にも涼感を感じさせる。(竹) |
お |
恩田陸 |
ネバーランド |
2016
4/10 |
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伝統ある男子高の冬休み、学生寮に居残る事を決めた3人+1人の高校生の7日間。主人公はそのうちの平均的な男子生徒。ゲームによる告白から自分よりも過酷な人生を知る。未熟と老成がないまぜになったような青春グラフティ。ほぼ男だけの世界を女性作家が描いているが、がっしり骨太でけれん味無く読ませる。ページを繰る手が止まらない。(松) |
お |
恩田陸 |
六番目の小夜子 |
2015
11/28 |
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ある高校に代々伝わる3年に一度の学園祭での行事。「サヨコ」になった者が秘密で演劇を実行すれば、その年の大学受験も成功するというもの。そこに沙世子という名の女学生が転校して来る。ミステリー仕立ての青春小説としては悪くは無いが、沙世子が転校してくる経緯から沙世子の神秘性を表す出来事など疑問のまま残ったのは気持ち悪い。(竹) |
お |
恩田陸 |
雪月花黙示録 |
2015
5/17 |
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近未来の日本は帝国主義となるが、ミヤコと呼ばれる治外法権地帯も存在した。古の精神世界を具現するミヤコで活躍する少年少女に新しい波が襲い掛かる。7編からなるジュブナイル短編集。着想は良いが筋書き一つ一つが荒っぽい。小説世界がキチンを構築されていない。SFとしてのホントらしさが薄い。前回読んだもので期待したがガッカリ。(竹) |
お |
恩田陸 |
夜のピクニック |
2014
12/30 |
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24時間をかけて80kmを歩くという高校の歩行祭を舞台にした青春ロードゴーイング小説。父親が同じという繋がりを秘密にしていた男子と女子は、3年生となり最後の歩行祭に心に期するものがあった。周りには嫌な人もいるし親友もいる。これぞ青春という主題を真っ向から書き上げた。こういうのが大好き。自分だったらと考えた、歩く方の意味ですが。(竹) |
か |
か |
快楽亭ブラック |
快楽亭ブラック集(明治探偵冒険小説集2) |
2008 7/6 |
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作者は幕末に日本に来たオーストラリア生まれの英国人。講談などで高座に上がった外国人タレントの草分け。内容は講談を口述筆記して探偵小説風にしたもの。舞台はイギリス、フランスだが人物の名前は日本人。筋も単純化されて明治の庶民の為に馴染みやすく分かりやすくなっている。読んでみると結構面白い。(竹) |
か |
垣根涼介 |
ワイルド・ソウル |
2015
2/27 |
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戦後アマゾンの奥地に偽りの言葉で送り込まれた大勢の開拓民はその努力も虚しく病気や怪我で亡くなっていった。生き残って口を噤む人もいるがこの元凶となった外務省や国を反省させたい一心で東京でテロを企む者がいた。社会派で骨太の筋書き、人物構成も優れている。500ページを越えるボリュームだがエグ味が無くすいすい読める。(松) |
か |
角田光代 |
キッドナップ・ツアー |
2019
10/23 |
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夏休みに、家出した父親に誘拐された小五女子。冗談のような始まりで甲斐性の無い父親との二人旅は所持金が減るにつれ悲惨になって行く。それでも楽しんで、終いには一つ大人になった女子。父親の目的は分からなかったが、何日も風呂に入らないで着た切りで放浪するのも、逆に爽やかに感じる。習慣や常識から外れる生活もたまにはイイ。(竹) |
か |
角田光代 |
対岸の彼女 |
2009
9/13 |
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会社を立ち上げ未婚の彼女と、結婚し子供がいる彼女が出会う。同じ大学を出て30代の彼女達が立場が違いながらも新しい仕事で共に奮闘する。少女時代のいじめや事件を通して人の残酷さや優しさを描いている。他人の心の中を分かろうする気持ちが絆を作ると言っている。遅咲きの青春小説か。2004年下期直木賞。(松) |
か |
角田光代 |
エコノミカル・パレス |
2004
10/13 |
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30代同棲女の話。自分が女じゃないせいか、後に残らない話。今はそういう生きかたもある。そのへんにざらにあるだろう話。自分としては少年漫画なら読んだけど少女漫画はちょっと、という感じかな。勿論これは小説ですよ。 |
か |
梶尾真治 |
サラマンダー殲滅 |
2007 10/20 |
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刑務所惑星で犯罪者によるクーデターが起き、強大なテロ組織が生まれる。その組織に夫と子供を殺された女が復讐に立つ。第12回日本SF大賞受賞作。ハードカバー2段525ページは面白くなければ飽きる。全部で3章うちの最初の章「飛びナメ」が一番良かった。その良い点がプロットなのが残念。全体に人間が描かれていない。(竹) |
か |
鹿島茂 |
レ・ミゼラブル百六景 |
2006
7/1 |
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「レ・ミゼラブル」というよりも「噫無情(ああむじょう)」という名の方が馴染みがあるヴィクトル・ユゴーの小説の挿絵付きの解説書。巻頭に在るようにこの小説の名前は知っていても全部読んだ人は少ない。自分も小学生の時に昼の放送用に抄訳の少年少女文庫を朗読させられて嫌だった思い出がある。やっぱり波乱万丈の物語だった。(竹) |
か |
鹿島田真希 |
六○○○度の愛 |
2009/
1/18 |
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子供がいて真面目な夫がいる女が、自殺した兄の記憶に引きずられるように長崎に来る。孤独な若い男と出合い話し、お互いに惹かれるものを感じる。原爆のイメージを持つ長崎に女は死に場所を探しに来たのか。登場人物は少ないが内省的なものが溢れ隙間の無いびっしりした小説。独特の文体による効果もある。2005年三島賞。(竹) |
か |
片岡義男 |
坊やはこうして作家になる |
2004
12/15 |
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あのバイク小説の片岡義男のエッセイ集。退屈な文も多い。その中で、真珠湾が原因で広島が結果だというのは、アメリカの言い分をそっくり真似ているだけだ。歴史の中でアメリカの都合のいい部分だけを切り取って出すやり方は、日本人として納得出来るものではない。 |
か |
門井慶喜 |
銀河鉄道の父 |
2021
10/21 |
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宮沢賢治自身と家族、特に父の物語。岩手県花巻の質屋の家に生まれた賢治。恵まれた環境で勉強も出来たはずの賢治は大学に進まなかった。祖父は質屋に学問は要らないという。父とは対立しながらも賢治は自由だった。悩みながらも残した詩と童話は自然の中で生み出された作品。37歳の若さで亡くなり、死後世間に認められた。直木賞。(竹) |
か |
金城一紀 |
GO |
2008/
11/18 |
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在日韓国人の高校生男子が主人公。差別の中の差別や日本の歪などの社会的問題提起もあるが、本質は正当な青春小説。当然恋愛も友情もある。この主人公の若者がカッコイイ。自分は寝る時間を忘れて一気に読み終えてしまった。自分の好みで、久し振りの気持ち良い小説。2000年上期直木賞は当然の結果。(松) |
か |
金原ひとみ |
蛇にピアス |
2008 2/1 |
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スプリットタンを見た少女が強く惹かれ、自分も舌にピアスをして舌を二股にしようとする。生きる背景に家族や社会が無く、自分の望むまま好きなように生きる若者を描いている。それは昔からあった若者の生き方で新しくは無い。とんがった題材を21歳の女が小説にしたというのが高評価?結末は弱いが2003年下期芥川賞とすばる文学賞を受賞。(竹) |
か |
鎌田敏夫 |
29歳のクリスマス〈下〉 |
2005
10/30 |
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主人公の典子が愛するようになる木佐という男が最後まで自分の中では輪郭が描けなかった。血の通った男というか人間として自分の頭の中に像を結べなかった。そこはTVドラマとしては問題なかったのでしょうね。役者が演じるのだから。(竹) |
か |
鎌田敏夫 |
29歳のクリスマス〈上〉 |
2005
10/30 |
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10年前のフジテレビのトレンディードラマの脚本を、作者自身がノベライズしたもの。流行に背を向けるという自分の性格から見なかったドラマでした。今小説として読んでみると小道具を現代に変えるだけで成り立つドラマだと思う。最近も同じようなドラマを見た気がする。(竹) |
か |
神家正成 |
深山の桜 |
2019
11/23 |
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南スーダンで活動中の自衛隊で不可解な事件が起こり、それが身内からの脅迫につながる。探って行くと他の国の軍隊と違い、自衛隊の特異性が現実に合わない現状から、内部でも不満が高じての事件。ただステレオタイプの在りそうな主題と筋だ。人物も魅力を感じられず退屈な作品。このミステリーがすごい!で優秀賞を獲っているのが不思議。(竹) |
か |
川上弘美 |
神様 |
2022
9/2 |
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9編の短編を収めた200ページに満たない文庫本。割合と作者が好きで時々読んでいるが、読み散らかし状態。表題が作者の最初の小説という。人みたいなくまと河原に散歩に行く話。他の短編でも人では無い存在が当たり前のように現れ主人公と交流する。割合と陽気な話が多いのでスイスイ読んでしまうので続けて読まないようにしていた。(竹) |
か |
川上弘美 |
古道具 中野商店 |
2021
9/22 |
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三十歳を過ぎた女性がアルバイトする古道具店。店主の他にもう一人若い男がいる。繁盛しているようでも無いのに二人もアルバイトがいるのは東京らしい。女性の恋と、店主の愛人や姉、常連が繰り広げる人情模様。自分の描く理想的な東京の生活だ。こういう人に恵まれれば考え方も変わったかも知れない、と思うのは甘えだな。ホンワカした小説。(竹) |
か |
川上弘美 |
七夜物語(下) |
2021
4/1 |
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下巻は五夜の続きから最後の七夜まで。現実に戻っては夜の世界へ行く二人。学校の備品や文房具が生きている世界で戦い、2極化した子供のいる世界で戦い、最後は自分たちの分身と戦い、負ける事無く現実の世界へ戻る。色々な事を気付かせてくれる教訓的な意味合いもあるストーリー。終わりは別れで戦った事も忘れてしまうのはちょっと悲しい。(竹) |
か |
川上弘美 |
七夜物語(上) |
2021
4/1 |
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主人公は母と住む女の子と、おばあちゃんと父と住む男の子。小学四年の二人は目立たない性格だが、不思議な世界に迷い込み経験して現実でも成長する物語。低学年向きのようだが朝日新聞に連載されたもの。「ななよものがたり」と読む。小さい挿絵が付いているが、洋風なタッチで合わないような気がする。お話は穏やかでスムーズに読める。(竹) |
か |
川上弘美 |
椰子・椰子 |
2020
9/2 |
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か |
川上弘美 |
ざらざら |
2019
12/11 |
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23編を収めた短編集。それでも215ページで薄い。それでも1編1編に確かな芯があって、その3倍を読んだかのような読み応えがあった。若い人が出てくる小説は余裕があるね。終わりの無い人生のように感じる。何て思って作者の歳を見ると自分より7歳若いだけなのだ。今より8年前に出版された本だった。若い気持を持ち続けて書いているのだね。(竹) |
か |
川上弘美 |
ニシノユキヒコの恋と冒険 |
2019
3/15 |
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様々な女から見た一人の男の連作短編集。激しくは無い静かな恋も、或いは恋でも愛でも無くても人を好きになるのはイイナと思わせる小説。こういうフツーの恋愛小説を求めていた。「侍女の物語」を読んだ後なので尚更そう思う。口直しになったと言ったらどちらにも失礼か。でも良かった。現実に自分にも欲しいと思ったが、ムリだろうとも思った。(竹) |
か |
川上弘美 |
これでよろしくて? |
2018
11/7 |
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新婚で専業主婦の若い女性は元カレの母とバッタリ会って不思議な同好会に誘われる。それは小さな洋食屋で、数人の女性が世間の問題を話し合う会だった。他人の悩みを考え、自身の様々な問題を問い直しながら成長(と言うのだろうか)をする女性を描くやさしい小説。女性の問題に深く感情移入しなくても楽しめた。ただページが少し汚れている。(竹) |
か |
川上弘美 |
パスタマシーンの幽霊 |
2018
9/11 |
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和菓子ミックスという様々なお菓子が入った一袋のような短編集。女性の恋や人生の悩みが美味しく感じられるのは、無くしたものを懐かしむ気持からか。なかでも「きんたま」は優秀な姉の、他人には見せない弱さを見て、自分のやりたい事に挑戦しようと思う妹の健気さを爽やかに感じた。読み進むうちに、無くなっていくお菓子のように残念に感じた。(竹) |
か |
川上弘美 |
センセイの鞄 |
2017
8/29 |
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居酒屋で出会ったご老体は三十路女のかつての国語の先生だった。親密だけど淡い関係を逡巡しながらも時間が近づかせる。恋愛小説と言われれば違うような気がする。女と男のさらりとした心地良い関係を描いている。それが高齢者と年齢差のなせる技なのかもしれない。道具立ても良く、背景も下世話にならずにすっきりしているのが良い。(松) |
か |
川上弘美 |
ゆっくりさよならをとなえる |
2004
10/21 |
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川上弘美が最近少し(少しだけね)気に入って、読んでいる。そのエッセイ集。題名がいいね。内容もいいけどね。毎日少しずつ読んでいく、新聞のコラムみたいにね。読書のヒントもある。 |
か |
川上未映子 |
乳と卵 |
2009
12/20 |
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東京に住む妹の元に大阪から姉が豊胸手術の為に娘と共にやってくる。姉は離婚し一人で娘を育てている。それぞれに悩みを抱えてそれぞれに孤独に生きている。結末でも何も解決はしないが関係は少し進展する。エピソードが独特で面白い。短編小説の見本のような作品。他にもう一編収録。2007年下期芥川賞。(竹) |
か |
川越宗一 |
熱源 |
2021
10/2 |
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北海道や樺太のアイヌが武力を持つ日本やロシアの間で翻弄される。土地を後から来た者に奪われ土人と蔑まれる。白人種以外は劣る人種と蔑まれる。日本は一等国になる為に多大な犠牲を出し戦争をした。明治から昭和にかけては世界的にも激動の時代で仕方が無かった。物語は視点を広げ過ぎ、一人だけを追ったストーリーの方が分かり易い。(竹) |
か |
川崎草志 |
崖っぷち町役場 |
2020
8/16 |
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か |
川崎草志 |
署長・田中健一の幸運 |
2018
7/15 |
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警察の若きエリートが地方の署長として赴任する連作短編集の2作目。今回は北陸が舞台。妻あり子は無く、趣味がプラモデル作りで、警官としての自覚や技量が無い。でも何故か事件に巻き込まれ他力で解決するのに、本人の実力と思われてしまう。似た小説に「0係」があるが、こちらは現実離れした荒唐無稽のユーモア小説。軽過ぎる。(竹) |
か |
川崎草志 |
署長・田中健一の憂鬱 |
2017
10/22 |
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若い警察エリートが署長として赴任した四国の地方警察で、閑職を利用して趣味の艦船プラモデルに没頭しようとしているのに、何故か事件を解決してしまうという連作短編集。ご都合主義のユーモア小説だが気持がほっとする。読んでいて楽しいのは一番だと思う。ミステリーの作家だというがそちらは読んでいない。読めばガッカリしそうな気がする。(竹) |
か |
川瀬七緒 |
賞金稼ぎスリーサム! |
2020
9/2 |
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か |
川本三郎 |
今日はお墓参り |
2005
1/12 |
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亡くなった人たちのお話。亡くなった人たちは漫画家、作家、俳優、画家と多岐に渡る。実際に遺族と会ってお墓にもお参りしている。「好い人でした」という調子は過剰ではなくほのぼのとさせるもの。亡くなって本当に残念です、という気持ちが現れている。 |
か |
神林長平 |
敵は海賊・海賊版 |
2015
11/28 |
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未来のコンピューターが書く宇宙海賊の小説という体。海賊と刑事がパラレルワールドに引き寄せられ、混迷する惑星王国で繰り広げるドタバタ喜劇。筋がステレオタイプで人物描写も浅く、シナリオ的な著述は臨場感が無い。結果退屈で面白く無い。海賊も刑事もコンビでそのキャラが立っていなくてしかもダブルで存在するので読んでいて分かり難い。(竹) |
き |
貴志祐介 |
新世界より(下) |
2013
11/1 |
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時は過ぎ少女は26歳に。人間を神と崇めていた変異生物が下克上、集落は窮地に陥る。下巻となり今までの疑問が噴出。人間は変異生物の進化を許すのに何故自分達は進歩しようとしないのか、安定した基盤に立ってはいないのに。何故種が絶える程の殺人者の出現を研究しないのか等々。結末への盛り上りも陳腐。ご都合主義の筋に堕ちている。(竹) |
き |
貴志祐介 |
新世界より(中) |
2013
11/1 |
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仲間が自分の呪力を抑えられなくなり処分される。少女達は自分達の記憶が改変されている事に気付く。17歳までは人間とは認められず異常があれば殺される。それは若年の殺人鬼の呪力で大勢が殺されたから。肝心な所を子供任せにしたり、自分を守る呪力は使えたはずなのに殺された等、不審な所はあるが、全体としては及第。脇役の魔物も良い。(竹) |
き |
貴志祐介 |
新世界より(上) |
2013
11/1 |
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神を敬い風習を守る閉鎖的な田舎の集落に住む少女が主人公。この環境は人間と超能力者との戦いの結果だった。段々と呪力が上達するようになった少女達は課外活動で集落の外に出る。そこで真実の歴史を知り、さらに魔物同士の戦いに巻き込まれてしまう。出だしは上々だが、小説よりもマンガ化した方が面白そう。第29回日本SF大賞。(竹) |
き |
北野勇作 |
どろんころんど |
2013
2/24 |
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少女型アンドロイドと亀型ロボットは本来の仕事をする為に目覚めたが、そこはすでに人間がいなくなった世界だった。泥人間とともに珍道中の出張に出る。2001年に第22回日本SF大賞をとった「かめくん」を読みたかったが無かったので代りに借りた本。ファンタジーというか挿絵もあっておとぎ話という感じ。筋書きも背景も登場人物も淡白で面白みが無い。(竹) |
き |
北村薫 |
鷺と雪 |
2012
10/19 |
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昭和10年の良家の子女が主人公。相談役のお抱え女性運転手に助けられ、ささやかで個人的な問題を解決する人情サスペンス、という形式だがそれ以上に第2次大戦へと進んで行く当時の世相が主題のように思える。個人の意見はさらりと述べられているが緊迫した様子が伝わってくる。短編形式で3編収める。2009年上期直木賞。(竹) |
き |
木下古栗 |
ポジティヴシンキングの末裔 |
2012
9/8 |
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場面場面を切り取って貼り付けたような自由な小説。前後の辻褄が合わない。結論がない。何が言いたいのか分からない。区切りがあるが短編なのか章なのかも不明。意味は通じる平坦な文章だが小説の形を逸脱しているので、全体の意味を汲み取ろうとすると難解。読んでいてもそれほど退屈ではないが、面白さは平凡。(竹) |
き |
木山捷平 |
鳴るは風鈴 |
2018
5/16 |
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初めて読む作家。ユーモア小説選とあるが、読み始めたら「玉川上水」で太宰治の自殺の前後の時代の話。これがユーモアと思って読んでいると、ジワッと感じるものがあった。悲惨な状況でも飄々と生きて行く強さを感じた。没後30数年、あとがきは奥さんで、当時の男女の風潮を思うと苦労が偲ばれる。文庫化されているのでファンも多いのだと思う。(竹) |
き |
Q.B.B |
中学生日記 |
2004
10/13 |
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中学生の兄弟が書いた漫画。現実の中学生の出来事なんだなぁ、と笑える。そうだよな、中学生って(特に男子は)こんなにガキっぽかったよな、と共感できる。たった3年間だったけど、もっと長くいたような気がする。そして、1年の差が大きな差だったな。 |
き |
京極夏彦 |
オジいサン |
2020
11/4 |
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|
き |
京極夏彦 |
厭な小説 |
2019
1/5 |
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連作短編7作を収納。「厭」をテーマとは分かるので読むのを躊躇したが、開き直って読み始めるとそれ程でもない。人それぞれ嫌悪感は違うのだろうから仕方ない。厭な気分にならなかっただけでも良しとしよう。各短編に共通する人物が最後に出てくるが期待した程でなかったのが残念。物足りないと思う人は解説に取り上げられた小説がお勧め。(竹) |
き |
京極夏彦 |
後巷説百物語 |
2008 3/23 |
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明治維新前に日本にあった怪しい話を体験し収集して歩いた老人がいた。明治になって不思議な事件を解決する為に相談にくる若者に自分の体験談を話した。仕事として怪談を演出する者達がいて、怪談の見かけと真実が解る。版は小さいが781ページあり厚いので開いて読み難い。強引な落ちの部分もあり好みでは無い。2003下期直木賞。(竹) |
き |
桐野夏生 |
だから荒野 |
2017
7/19 |
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誕生日にまで家族から軽んじられた46歳の主婦が突発的に車で家出する。旧友に応援され昔の男が住む長崎まで行ってしまう。主婦の側と夫の側からと交互の章になっている。旅では人に騙され、助けられ、感動する。虐げられた中年女の逆襲というプロットに惹かれて1日で読了。取っている新聞小説だったが読まなかった。少しずつ読むのは苦手。(竹) |
き |
桐野夏生 |
柔らかな頬 |
2009/
3/4 |
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不倫同士がそれぞれの家族を連れて別荘に来た時に子供が失踪する。子供は行方不明のままで手掛かりも無く4年が過ぎる。ガンで余命の無い刑事が事件に興味を持つ。色々な人物が登場するが人物描写は良い。子供が死んだのかさえも判らない母親と突然人生から引退を宣告された刑事のやり切れなさが伝わる。1999年上期直木賞。(竹) |
く |
草上仁 |
くらげの日 |
2014
5/14 |
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ハードでもなくエロくもなく情感も薄くサラッとしてライトユーモアSFという感じの短編集。星新一の線に似ているがアイディアも筋書きも光るものがない。「サクラ、サクラ」は他と違い、人間に少し踏み込んで書いてあるがまだ不十分。題名も大事なので一考の余地あり。最近は日本も海外も面白いSFに当らない。ハズレが怖くて厚い本には手を付けられない。(竹) |
く |
鯨井あめ |
晴れ時々くらげを呼ぶ |
2020
12/5 |
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く |
久世光彦 |
1934年冬―乱歩 |
2006
7/15 |
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江戸川乱歩の小説製作の過程を描く小説。作中作があり凝っているし、作者も嫌いじゃないし、江戸川乱歩も好きだし、山本周五郎賞受賞だし、でもいまひとつ乗れなかった。その証拠に読むのに一週間もかかってしまった。TVドラマで一世を風靡した作者なので映像にしたらもっと楽しめるかもしれない。(竹) |
く |
窪美澄 他 |
黒い結婚白い結婚 |
2021
2/13 |
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女性作家の作品7編を収めるアンソロジー。結婚の暗部を描く「黒」が4編、明るい部分を描く「白」が3編。全て女性が主人公。「黒」を読んで暗澹たる思いになり、「白」は文字が見えないほど泣けるものもある。どれも筋に凝っていて、中でも森美樹の「ダーリンは女装家」が一番好き。シリーズ化出来そうだ。そんなにハッピーエンドではなくても「白」が良い。(竹) |
く |
窪美澄 他 |
あなたを奪うの。 |
2020
9/13 |
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く |
窪美澄 |
やめるときも、すこやかなるときも |
2019
1/18 |
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女性にだらしない家具職人と男性に引け目を感じる女性の結婚への序曲。男女にはそれなりの理由がある。それを乗り越える努力をする二人。理解し合うには話し合うしかないが、そのタイミングがズレれば別れになる。恋愛の成就は運が大きく左右すると思う。好きな作家だが、この作品では女の側の家族に囚われる理由が納得出来ない。他は良い。(竹) |
く |
窪美澄 |
すみなれたからだで |
2018
11/18 |
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8編を収めた短編集。老若男女の様々な家族の形が描かれている。男の主人公は正直望んでいなかった。「バイタルサイン」はエロ小説なら読める筋だが、最初で躓いてしまって読む進むのが気が重かった。最後は落ち着く所に落ち着ち付いた。人は誰も悲しみを抱えて生きているのだと思った。読むだけで別の人生を体験出来るのは有り難い。(竹) |
く |
窪美澄 |
アカガミ |
2018
5/27 |
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2度目の東京オリンピックの先の日本。若年の自殺が増え、若者は結婚せず、セックスにも興味を持たない。そこで国がデータから相手を選び同棲させる。そのプロジェクトが「アカガミ」。申し込んだ若い女性がメインの語り手。番いとかまぐわいとか古い言葉が出てくる。表題も先が予想出来るが知らない人が多いのだろうか。作者にしては物足りない。(竹) |
く |
窪美澄 |
さよなら、ニルヴァーナ |
2017
6/7 |
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幼女を殺して首を切断した少年A、幼女の母親、月日が経ち青年となった少年Aを崇める少女、小説の題材として調べる小説家の卵。それぞれの項でそれぞれの物語が進む。読むのでさえ気が重くなる内容を、突き詰めて考え、調べて小説として完成させた作者の力量はスゴイと思う。ただ結末はささやかでも、可能性としてでも、救いが欲しかった。(松) |
く |
窪美澄 |
水やりはいつも深夜だけど |
2017
3/1 |
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花の名のつく編の短編集。4編は若い夫婦を描き、妻と夫が交互に主人公となり優しい筆致で描かれ心が温かくなる。最後の一編は複雑な家庭で育ち大人びた女子高生が主人公。終盤に傍観者的な立場から家族の一員になるエピソードがある。ここも優しい。この作の花はサンカヨウ。山で見かける地味な花だが、濡れて透明になると始めて知った。(竹) |
く |
窪美澄 |
雨のなまえ |
2017
1/22 |
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5編収納の短編集。表題の「雨のなまえ」は最初の臭うような性愛の描写が苦手で読むのを一旦止めたが、後はそんな事も無く読めた。他でも主人公の会話などでイメージした像は、後に他人の言葉で変わる事もあった。男も女も頑張って生きているが色々なものを取捨選択していると実感。全ての結末はなかなかハッピーには終らない、それが人生?(竹) |
く |
窪美澄 |
よるのふくらみ |
2015
5/17 |
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都会の小さな商店街には様々な人が良い事も悪い事も共有して暮らしている。小さい頃から身近にいた女性と愛情を持つようになる兄弟の話。主人公が交代しながらストーリーが進む連作短編集。小さな環境は生活の狭さが息苦しさにつながる面もあるが、その優しさや包まれ感は得ようとしても得られない。自分には無くしたもので、郷愁を誘われた。(竹) |
く |
窪美澄 |
晴天の迷いクジラ |
2014
8/30 |
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デザイン会社勤務の青年と社長は夫々に苦難の家庭環境から抜け出し東京で働いている。会社が倒産の危機に陥り覚悟の逃避行に出る。現地近くで訳ありの少女を乗せクジラを見に行く。それぞれの生い立ちや宿を提供したおばあさんの経験が読む者の心をかき乱し感情が引き出される。皆幸せになって欲しいと願いながら読む。山田風太郎賞。(松) |
く |
窪美澄 |
アニバーサリー |
2014
5/27 |
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東日本大震災当日に東京で出会った75歳と30歳の女性。それぞれの生い立ちから女性の立場で日本の来しかたを思い行く末を思う。この場合のアニバーサリーは大きな大きな災厄を記す日。あれから3年良い方に向っているとは思えない。昭和史ともいえる75歳女性の生き方の叙述は力強いし共感も出来る。今年読んだ中で最高の出来。(松) |
く |
窪美澄 |
クラウドクラスターを愛する方法 |
2013
12/28 |
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同名の中編ともう一編の短編を収容。題名で内容が分かる小説もあるが、これは何だろうと考えさせる。これはパソコン用語かと思ったら違った。家庭に恵まれない女性のその頑なな気持ちが少しずつほぐされる話。主人公の周りの人たちによって主人公に深み出来ていて良い。ただ物足りない部分もあるので、もっと書き込めばもっと良くなったと思う。(竹) |
く |
窪美澄 |
ふがいない僕は空を見た |
2013
6/5 |
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高1の少年と、少年と不倫をする主婦と、少年に恋する少女と、少年の級友(男)と、少年の働く母を主人公にした5編の連作長編。それぞれがどうしようもなさの中でもがいている。ハッピーエンドにはなっていないが時間が解決しそうな気配で終る。軽いネット小説のような題名(連作集名)だが、内容は骨太でしっかりした小説。大好きの部類。間違いなく面白い。(松) |
く |
熊谷達也 |
邂逅の森 |
2009/
2/1 |
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秋田マタギの若者が恋人と一緒になれずに村を追われ銅鉱山で働く。一人前になり山形の鉱山に移る。ここでの熊獲りを見てマタギの血が甦る。西会津出身の自分は文中の東北弁に親しみを感じる。マタギや鉱山の事をよく調べてある。なかなかダイナミックで涙誘われる話。ただ後半はチマチマとまとめ過ぎの感あり。2004年上期直木賞。(竹) |
く |
栗本薫 |
翼あるもの(下) |
2006
3/2 |
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下巻で登場人物も重複するが、全く別の小説。上巻の主人公の話がメインならこの話はサブ。書かれた時期もずっと後になるらしい。女である作者がゲイの小説を書いたのはその当時恋愛には稚拙だった作者自身とは遠いものを書きたかったらしい。和洋のロックの題名を取った短編集。(竹) |
く |
栗本薫 |
翼あるもの(上) |
2006
3/2 |
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ロックシンガーの美少年を取り巻く男たちの物語。巻頭に作者がエクスキューズを入れているが、作者が言うほど悪い出来ではない。作者のSFのグイン・サーガシリーズのほうによっぽど冗長なものがあるが、これはきっかり書けている。携帯こそ出てこないが20年以上前に書かれたものとは思えないほど現在にも合っている。(竹) |
く |
車谷長吉 |
漂流物 |
2009
4/19 |
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私小説の短編集でシュールな作品もあるが、実話風な作品の方が筋が立って面白い。作者が放浪する中での濃い体験がのちに小説をつくる種になったのか。現代とは違う言い回しや、凝った漢字の使い方をするので、自分よりニ世代くらいは前の人かと思ったが同じ世代の人だった。久しぶりの私小説らしい私小説。(松) |
く |
黒岩涙香 |
黒岩涙香集(明治探偵冒険小説集1) |
2008 4/29 |
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作者は明治以前の生まれ。明治時代の口語体で味があるし自分には読み難くはない。「幽霊塔」という長編は外国作家の翻案で、イギリスを舞台にしているが人物が日本名というのが当時の世相を反映している。江戸川乱歩風のサスペンスと思うのは逆でこの作者が乱歩たちに影響を与えた。古さが面白い。(竹) |
く |
呉勝浩 |
ロスト |
2022
5/14 |
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通販を受け付けるコールセンターにセンター職員を誘拐したという電話。一億円を用意して100人の警察官が指定時間までに全国の指定場所に行かなくてはならない。スケールは大きいのだが、それに比べて結末は貧弱。読み終えた今も何故こんな事件が起きたのか分からない。少数精鋭の登場人物でキリッとしたサスペンスが読みたい。(竹) |
こ |
呉勝浩 |
道徳の時間 |
2021
2/13 |
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近畿の田舎に移住した男は葬式に参列。他殺も考えられる死だった。男は昔の殺人事件のドキュメンタリー作品のカメラマンを頼まれ、最近の死との関連性が出てくる。江戸川乱歩賞だがストーリーが煩雑で分かり難い。ミステリーとしてのドキドキするような進行が無い。文庫化されていないようだ。日本作家のミステリーでは面白いものに出会わない。(竹) |
こ |
小池真理子 |
水無月の墓 |
2005
6/2 |
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ホラー短編集。どの作品も人が殺される。ホラーだから当たり前か。何篇か読み進むと結末が自然と予想されて身構えてしまう。ホラーというより悲しい話。中でも「私の居る場所」は人が殺されるという訳でもないし、こんな結末は自分でも体験したい。 |
こ |
小泉吉宏 |
ブッタとシッタカブッタ |
2011
7/24 |
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今回の3冊は毎日新聞の2011年課題図書の記事に出ていたもの。いわゆるジュブナイル系だが大人でも読むに値すると思われる高学年のものを選んだつもり。これは恋愛のメンタリティを解説したものだが、4コママンガだったのでガッカリ。字を読みたかったのだ。内容はマジメなもの。重い事を軽く書いて読み(見)やすくなっている。(竹) |
こ |
河野多恵子 |
赤い唇 黒い髪 |
2022
10/20 |
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全250ページに満たないボリュームに7編の短編の文庫本。やつれた古い本を予想したが意外にキレイだった。でも濡れた指でめくったような跡もあった。あまり読んだことの無い作家だが評判を聞いてエロチックなものを期待したのに、せいぜい擽り程度と思う怪しからぬ読者の自分。何気無い言葉のやりとりからの小説の展開が勉強になる。(竹) |
こ |
河野多恵子 |
幼児狩り・蟹 |
2022
2/19 |
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六編の短編集。どれも倒錯的な思いに囚われる人物を描いている。1960年代作品で、現在に比べれば表現は抑え目。筆名は知っているが異常性愛を恥ずかしがったのか若い時には通って来なかった小説家。収める「蟹」で芥川賞。山田詠美の日曜小説に記述があり読んでみた。思考の間があり静かな場面は読んでいて内省を促す、なんてね。(竹) |
こ |
児玉清 |
寝ても覚めても本の虫 |
2006
8/27 |
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アタック25だけでなく、BSで本の番組の司会もする作者の本の遍歴を記した本。次回の自分の読書の指標となるもの。紹介されているのはサスペンス物が多い。自分も好きなジャンルだがそれだけに好き嫌いもあるので、作者の好みと合うかどうかは読んでみないと分からない。(竹) |
こ |
後藤明生 |
しんとく問答 |
2017
11/5 |
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大阪に単身赴任の大学教授が史跡を巡る時に出会ったもろもろの事を語る。普通に読むとエッセイだが本人は小説と称しているので、連作短編になる。雰囲気が渋い為か昭和初期の私小説のようにも思えるが、「写ルンです」も出てくるので現代には近い。話の流れとしては「身毒丸」へ行き着く。折口信夫が小説を書いていたとは知らなかった。(竹) |
こ |
後藤明生 |
首塚の上のアドバルーン |
2017
2/14 |
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新聞の書評にあった「挟み撃ち」を読みたかったが無くて、借りたこれはエッセイだった。最初は、筆者の引越先の幕張の近所探訪だったが、次第に「太平記」や「平家物語」の世界に入っていった。知識の無い自分には理解出来ない部分が多々あって、最初は調べながら読み進んだが興味が湧かないので最後は文字を追うだけになってしまった。(竹) |
こ |
小林恭二 |
カブキの日 |
2008 7/27 |
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未来の歌舞伎の世界の話。名門の出で歌舞伎界を牛耳る名女形と、家という後ろ盾の無い若手実力者との戦いを描く。その中で重要な駒となるのが15歳の少女。この本で黙阿弥の「三人吉三廓初買」の筋を始めて知る。フィクションだが教養小説をもっと前面に押し出した方がより面白かったのでは。表紙の日本画も良い。1998年三島賞。(竹) |
こ |
小松左京+谷甲州 |
日本沈没 第二部 |
2010
3/16 |
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日本沈没から25年を経過し日本人は世界に散らばる。日本政府は外国に間借り。故郷を無くした日本人のアイデンティティーがどうなるかを期待して借りたが、余計な部分が多い。しかも人物が薄く記号的。映画のシナリオならまだ良いが小説としては面白くない。小松左京と谷甲州を含めたブレーンが討論してそれを谷が書き上げたという。(梅) |
こ |
近藤史恵 |
歌舞伎座の怪紳士 |
2022
11/2 |
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心労を患った為に、家事を任されて引きこもり気味の次女が主人公。祖母から仕事を頼まれた仕事が、貰ったチケットで歌舞伎を観て内容を報告する事。そのお陰で多少は外向的になる。観劇中に小さな謎に出会い、初老の紳士と解く。歌舞伎という知らない世界を少し覗け、興味が湧いてすらすらと読み進めた。題名ほどのミステリーではない。(竹) |
こ |
近藤史恵 |
カナリヤは眠れない |
2018
2/14 |
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ビルの屋上のプレハブで営業する売れない整体師が、身体の変調から精神的な疾患まで言い当ててしまう凄腕の持ち主。訳ありの受付嬢姉妹も絡んで物語は展開する。雑誌編集者とサスペンスの主人公の人妻の両方から語られる。ソフトなミステリー。作者はシリーズ物を多く書いているがこれもその一つ。初回のせいか整体師の登場は控えめ。(竹) |
さ |
さ |
西條奈加 |
金春屋ゴメス |
2017
6/21 |
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現代の日本の関東から東北にかけて存在する江戸国。江戸時代の生活様式を良くも悪くも踏襲する。しかも鎖国。日本から難関の審査を潜り抜けた若者が入国する。身請け先は捕り方の下働きで疫病を探索する。軽い江戸ミステリー。ストーリー的には見る所は無いが、やはり設定が良い。題名は奉行のあだ名。日本ファンタジーノベル大賞。(竹) |
さ |
彩藤アザミ |
樹液少女 |
2016
5/26 |
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山にある陶芸作家の家に向った青年が遭難寸前を助けられる。やがて家は雪に閉じ込められ、中では殺人事件が起きるという典型的な謎解きミステリー。内容は、人が死んでいるのに緊張感が無いし、説明的な会話が多いし、動機の必然性が感じられないし、登場人物の肉付けが薄くて感情移入もし難い。小手先のアイディア倒れ。要は面白くない。(梅) |
さ |
斎藤綾子 |
ハッスル、ハッスル、大フィーバー!! |
2007 8/4 |
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他の本でもパチンコ好きな事を言っていたし、題名からも内容が想像ついた。自分はまったくパチンコをしないので、台の名前とかメーカーとか攻略法とか言われても残念ながら分からない。破滅型の自分にとってパチンコは、スルためにやる事になりかねない。こんなものとは距離を置こう。内容は30代半ばの時の作者の私小説モドキ。(竹) |
さ |
斎藤綾子 |
欠陥住宅物語 |
2007 6/24 |
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斎藤綾子の自伝的な小説。小説とはいえ真実も少なからず混ざっていると思う。どんな小説にもポルノを入れるのはこの人の特色。「お嫌いですか?」「お好きですぅ」。寡作家なので少しづつ大事に読んでいきましょう。内容は表題にもある通り、家を出てから転々とした住家と、世間のしがらみで係わりあったやっぱり住家の物語。(竹) |
さ |
斎藤綾子 |
ヴァージン・ビューティ |
2007
4/19 |
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男と女(或いは女と女)の繋がりは、愛があろうが無かろうがセックスと言って憚らない(と思う)斎藤綾子の短編集。性に淡白な自分としては、小説の中の話が実際に自分の生活にあったら(あるわけが無いが)鬱陶しい気もする。人間の欲望の中の普遍的なものなので、これだけを追い求めて人生を終えても、全うしたと言える。そういうもの。(竹) |
さ |
斎藤綾子 |
フォーチュン クッキー |
2006
8/19 |
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性に関するショートショート。この厚くもない本の中の二十六篇の話の一篇一篇に斎藤綾子らしい直截的な性描写がこれでもかと盛り込まれている。もうお腹いっぱいと思ってしまう。小説とはいえ作者の経験を元に作ったものだと思うが、こんなにも性に貪欲になれるエネルギーは凄いものだと思う。(竹) |
さ |
斎藤綾子 |
ルビーフルーツ |
2006
8/9 |
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表紙の切絵は騎乗位。だから、これはエロ本。自分は男なので、巻末の解説のような深読みは出来ない。ただただ卑猥な言葉や表現にいちいち反応しているだけ。だが過激なものはいずれ慣れる。自分としてはそのあとにこの作者の評価が出来るのかもしれない。だから、まだまだ、読み続けるつもり。(竹) |
さ |
斎藤綾子 |
結核病棟物語 |
2006
3/15 |
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今では少なくなった結核という伝染病に冒されて入院した先は婆さん爺さんばっかりの病棟だった。二十歳そこそこの作者の青春が、作者自身による挿絵にも伺える。セックス大好きな作者が隔離されるが、直るにつれて我慢出来なくなる。セックス話と病院話がミスマッチで面白い。(竹) |
さ |
斎藤綾子 |
愛より速く |
2005
12/21 |
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この短編集は作者の体験談という。いわゆる素人の女にしては桁外れのセックスの話ばかり。ドンファンのような感覚で豪放磊落にセックスを楽しんでいる。言うせりふが面白い。セックスに関しては倫理的な歯止めも躊躇も無さそう。世間とのすり合わせは出来ているのか人事ながら心配。他の本も読んでみたい。(松) |
さ |
斎藤聖美 |
そうだ!社長になろう |
2007
6/14 |
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最初は「キヨミの挑戦」が面白かったMBA卒業の才媛の本。その後、大企業を辞め起業してからの事が書いてある。凄い事なのに淡々と書いてあるのは作者の性格か?ここまでしかも何度もベンチャー企業を立ち上げるパワフルさに脱帽。自分は10分の1の収入でいいから気楽に生きて生きたい。共感は出来なかったが面白い。(竹) |
さ |
斎藤聖美 |
キヨミの挑戦 |
2005
10/18 |
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ハーバードの経営大学院に入った日本女性の物語。本人が書いている所に真実味と面白味がある。こういう物を読むときは自分と引き比べてはいけない。純粋に読み物として読むべし。慶応を出て就職して結婚して離職して離婚してHBSに入る。凄いバイタリティの持ち主。そんじょそこらの小説より面白い。(松) |
さ |
佐伯一麦 |
ア・ルース・ボーイ |
2008 5/24 |
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高校を中退した少年が、昔好きだった少女が出産したあと駆け落ちをする。新聞配達のシーンと電気工事のシーンが、浮いてしまうぐらいリアルで痛々しい。表題作は、先生からルーズと烙印を押された少年が、ルーズには自由と言う意味もある事に気付き、自由に生きようとする。1991年三島賞。(竹) |
さ |
坂口三千代 |
クラクラ日記 |
2005
2/3 |
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新潟県出身の坂口安吾の唯一の妻が書いた、坂口安吾行状記。確かだいぶ前にTVドラマにもなったと思う。まるで、自分を消耗させる事と引替えに作品が出来るような安吾とその妻の物語。妻が何で別れないかは分かる様な気もする。「生きがい」があったのだろうと思う。 |
さ |
桜庭一樹 |
私の男 |
2010
8/17 |
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25歳の男が家族を亡くした遠い親戚の9歳の女の子を引き取る。女の子は男と身体の関係を持ちながら成長する、という気持ち悪くなる変態小説。他に気持ち悪い小説はあるが、このようにエピソード自体は他愛ないのに、根底にあるたちの悪い気持ち悪さは初めて。洗っても取れない汚れのよう。何故か2007年下期直木賞だが自分は嫌いな小説。(竹) |
さ |
佐々木譲 |
ベルリン飛行指令 |
2008 9/17 |
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第二次大戦初期にナチスドイツからゼロ戦のライセンス生産を打診され、サンプルとして2機のゼロ戦がインド、イラク経由でベルリンまで飛ぶ事になった。当時の混乱した世情や裏方の努力などが緊迫感あるサスペンスを醸し出している。筋書きはノンフィクション風に作られているので冒険小説のような面白さは少いがリアリティがある。(竹) |
さ |
佐藤愛子 |
幸福の絵(下) |
2006
2/4 |
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男に怒る昭和の女というイメージの作者だが、この中の自身の恋愛は侘しさに満ちている。どうしようもなく怒ることが侘しさに落ちていく。例えば待ち合わせをして相手の男に来て欲しいという半面、相手の男に来て欲しくないという深層心理があるように見える。何故なら怒りたいから。怒りは作者の原動力か。(竹) |
さ |
佐藤愛子 |
幸福の絵(上) |
2006
2/4 |
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お年寄り向きの大活字本。長岡市立図書館にはこの本しか無かった。小さい字に慣れていると意外と見やすくない。慣れないせいかぱっと見た範囲が狭いので全体の意味の汲み取りが遅くなるようだ。これも大人の恋愛小説。作家が主人公なので私小説か。最近の小説に無い難しい漢字が多かった。(竹) |
さ |
佐藤賢一 |
王妃の離婚 |
2008/
12/21 |
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1498年のフランス王の離婚裁判を題材にした歴史小説。王が王妃と別れるために起こした裁判で、王妃の為に奮闘する弁護士を描いている。欧米を題材にした小説を日本人が書く事に違和感があった(食わず嫌い)が、豊富な知識や調査で面白い小説になった。直木賞らしいエンターテインメント小説。直木賞1999年上期。(竹) |
さ |
佐藤正午 |
月の満ち欠け |
2021
4/15 |
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生まれ変わりがテーマ。自分の小学2年の娘が突然大人びる。何故か昔の事を知っている。ところが娘と妻は交通事故で亡くなる。時間は前後して多く人が出るので分かり難いし、前世で愛した人に会いたいという執着となる熱が感じられない。生まれ変わったとしても新しい人生を歩めばよいと思う。このストーリーに共感出来ない。だから面白く感じない。(竹) |
さ |
佐藤多佳子 |
しゃべれども しゃべれども |
2018
2/3 |
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本業もイマイチな二ツ目落語家の若者がひょんな事から口下手な4人を集めて落語教室を開く。本人も含め様々な悩みを抱えた5人。他人の悩みを考える事で連帯感が生まれる。落語が題材の割には滑らかさが無く、先が読めないゴツゴツした感触がある。それが生の感じが出て良いのかも知れないが、もう少し温かみが欲しかった。結末は予定調和。(竹) |
さ |
佐藤多佳子 |
聖夜 |
2012
1/3 |
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牧師を父とし母とは生き別れた男子高校生。キリスト教系高校のオルガン部に籍を置く。クリスマスの発表会に向け練習。家庭の事情や音楽との係りあい、思春期の不安定な心情が綴られている。去年夏の課題図書に選ばれているだけあって確りとした作りで読ませる。読み始めて止まらなくなった。欲を言えばラストの感動がもっと欲しかった。(竹) |
さ |
佐藤友哉 |
1000の小説とバックベアード |
2009
9/13 |
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小説化志望の青年が主人公。小説家にはなれなくて、片説家という集団で個人の為に物語を書く仕事につくが解雇される。捨てる神あれば拾う神ありで小説を依頼され書いているうちにバックベアードという組織?に拉致される。「ヤミ」とか「日本文学」とか意味不明なものが出てくる不思議な物語。小説のポエムか?2007年三島賞。 |
さ |
佐藤れい子 |
越後百山 |
2007
3/23 |
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水泳の教本や、山のガイドブックは借りてもここには載せないが、これはガイドブックというよりも紀行文。日本山岳会越後支部で選定した新潟県の百の山が載っている。自分とはレベルが違うので、登る参考にはならない山(自分には無理)も多いが、山の厳しさ面白さを改めて教えられた。最近はやりの言葉では「元気をもらった」と言う。(松) |
さ |
里見 ク(とん) |
極楽とんぼ |
2005
3/29 |
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世間に縛られないで生きてきた、大正の男の話。金持ちの家に生まれたからこそ好きなように出来た事。金があれば好きなように生きられるのか、好きなように生きるのはその人の幸福なのか。軽い筆致で読むほうも気楽に読める。他のもう一編も面白い。 |
し |
椎名誠 |
アド・バード |
2007
1/28 |
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この人がSFって、と非常に意外。読むと筒井康隆の小説を連想してしまったのは、どちらの作家にとっても失礼か?ずっと未来のというより異世界の大戦後の荒れ果てた日本らしきものが舞台で、ローテクとハイテクが混在し、まだ戦いが続いている。誰と誰が戦っているの?それにしても自立する宣伝媒体という世界は目新しいものではない。でも面白い。(松) |
し |
椎名誠 |
岳物語 |
2006
1/28 |
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この作家の本は結構読んでいるが、この本には何回も出合いながらも今日まで縁が無かった。この岳(がく)というのは作者の息子のこと。勉強よりも喧嘩が強く、釣りに目覚める小学生までの「亭主元気で留守がいい」という家庭の親と子の成長日記。(竹) |
し |
重松清 |
ポニーテール |
2022
9/28 |
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母を亡くした小学校4年生女子が主人公。父親が6年生女子を持つ女性と再婚。期待したいけど失望したくない。相手を思いやるからギクシャクする。以前の記憶にも捕われる。新しい家族になろうとしている人たちの葛藤を描く。読んでいると突然の涙もあるから公共の場では要注意。でも読み易い。今回も3冊借りたが1冊は読んだもので割愛。(竹) |
し |
重松清 |
ゼンメツ少年 |
2020
10/3 |
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し |
重松清 |
きみの町で |
2020
1/21 |
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し |
重松清 |
娘に語るお父さんの歴史 |
2019
4/2 |
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1963年(昭和38年)生まれのお父さんが自分の過去を振り返って、その歩んだ歴史を中学三年生の娘に語る体裁になっている。お父さんは図書館で調べ、結局は現状を肯定し未来への希望にたどり着く。良い事も沢山あっただろうが、悪い事もあった。例えば熊本の水俣病も、大学から指摘されすぐに対応していれば新潟の水俣病は無かっただろう事も。(竹) |
し |
重松清 |
赤ヘル1975 |
2018
9/26 |
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1975年の広島に転校してきた男子中学生と地元の少年少女の交流を軸に、原爆の惨禍や広島カープの優勝を描く623ページの大作。前半は青春小説で、後半は広島カープがメインになり野球が好きではないので飽きそうになるが、好きな作家なのでしっかりと読んだ。歴史の流れはドキュメンタリーだが創作の部分でハッピーエンドが欲しかった。(竹) |
し |
重松清 |
一人っ子同盟 |
2018
7/5 |
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小学1年から同級の男子女子も6年生になる。男子は兄を亡くした一人っ子、女子は親の離婚で一人っ子のまま。男子の住む団地の階下の老夫婦に小4の男子が来て、女子の母親が再婚して連れ子の4歳児も来る。優しい男子と乱暴な女子が周りの変化に戸惑いながら成長して行く。幼年期の終わりの感傷を味わう。丁寧な作りですらすら読めた。(松) |
し |
重松清 |
幼な子われらに生まれ |
2018
2/3 |
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再婚同士の夫婦で妻の連れ子がいる4人家族。夫は37歳で今度は家族を大事しようと上司から苦情を言われても仕事をセーブしている。妻の妊娠が分かってから長女が反抗的になり家族の絆が危うくなる。大人なら多少の事は飲み込んで生活を続けるが子供はそうはいかない。登場人物がしっかり描かれていて、悩ましい題材ながらスムーズに読めた。(竹) |
し |
重松清 |
青春夜明け前 |
2016
8/28 |
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中学から高校へかけての、性に目覚めた男子の学校生活を描く7編収容の短編集。多分作者の自叙伝的なもので、だから全て山口県(本州の西の端とある)の田舎におけるものであって、かの地は性の発露がそんなに激しいものなのかとも思う。自分は陰に篭っていたなぁと思う。7編全てが悲しく切なく面白い表題通りの物語。この作者も自分は好き。(竹) |
し |
重松清 |
十字架 |
2015
2/14 |
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中学2年にいじめで自殺した少年の遺書に書かれ親友とされた少年と好意を持たれた少女の苦悩を描く。亡くなった少年の家族に振り回され理不尽な思いもするが、見殺したという負い目もある。心情を抉り出すようなムチと寄り添うようなアメのジャーナリストも登場。この作者ならではのしっかりした骨格の作品。死に方により残された家族の懊悩は違う。(竹) |
し |
獅子文六 |
獅子文六全集 第九巻 |
2017
7/19 |
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「七時間半」「箱根山」「可否道」を収納。いずれも週刊誌や新聞に連載した小説。全集の一冊なので小さい字の600ページ越えなので読み出はある。昭和43年発行で傷みは許すとしても汚いのは閉口。「箱根山」は当時の箱根を巡る企業の争いの中で右往左往する老舗旅館を描いていて面白い。戦時中の外国人疎開の様子も興味深い。(竹) |
し |
篠田節子 |
田舎のポルシェ |
2022
9/16 |
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短編3作を収める。表題作は岐阜から東京近郊へ軽トラで米を取りに行く30代男女のドライブの顛末。駆動方式が同じ軽トラをポルシェに例えている。軽トラもポルシェも色々あるけどね。他もドライブが舞台の作品。知らないもの同志が、様々な結び付きで知り合う世の中って面白いなと思う。みんなハッピーエンドになれば良いのにと思う。(竹) |
し |
篠田節子 |
聖域 |
2016
10/7 |
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蝦夷征伐後の東北の地に宗教を広めに下った若き僧の体験が滔々と綴られていた未完の小説を発見した編集者は失踪した作家を探し奔走する。小説の中に小説のある二重構造になっていて、どちらもサスペンス性があり引き込まれる。ただ編集者の言動が稚拙で興醒めする。結末はもっとハッキリした形になった方が良かったように思うがどうだろう。(竹) |
し |
篠田節子 |
ゴサインタン |
2016
2/3 |
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旧家の跡取り息子がネパール人の妻を迎える。親が相次いで亡くなり、神がかりとなった妻は旧家の財産を人に分け与える。宗教集団が出来て妻が神通力を使う所は圧巻。山本周五郎賞を取るだけあってダイナミックな筋書きで引き込まれる。主人公にとっては全てを捨てる後半生になり、筋がスムーズでないのは仕方ないか。結末は予測出来た。(竹) |
し |
篠田節子 |
愛逢い月 |
2015
12/30 |
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「小説すばる」に掲載された六編の短編集。すべて都会の女と男の話。不倫はもう普通の話として出てくるが昔ほど嫌悪感は無い。慣らされたせいだろう。歳のせいか小説でもハッピーエンドを望む自分がいるが、なかなかそうはいかない。その中でも「内助」は一つのハッピーエンドと言えるのかもしれない。「仮想儀礼」を超える面白い長編を読みたい。(竹) |
し |
篠田節子 |
変身 |
2015
6/25 |
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スポンサーがいて金銭的に恵まれたヴァイオリニストは、もう若くは無い歳になり、一流に成り切れない自分の技量と将来への展望について不安を抱いていた。女性の生き方や恋というメインストーリーが弱く、サイドストーリーとなるクラシックの音楽業界や高額な楽器の事情も物足りない。それにこれといったクライマックスもなく淡々としている。味が薄い。(竹) |
し |
篠田節子 |
死神 |
2015
5/28 |
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8編の短編集。福祉事務所に勤める職員達が主人公で短編毎に職員が替わる。生活保護を受ける人達は第2の主人公で、色々な不幸があるが陰惨というほどの描き方はされていない。時にユーモアがあり救いになるが、人生の暗い面が題材になっているので悲しい事は悲しい。TVの2時間ドラマになりそうな内容だ。もうなっていたりして。(竹) |
し |
篠田節子 |
夏の災厄 |
2012
7/29 |
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東京近郊で奇病が発生し、ウイルスから日本脳炎と診断される。ところが今までの日本脳炎とは違う症状や高い致死率が明らかになってくる。何も出来ない大学病院や高級役人を尻目に現場の看護師や保健センターの職員が命を賭けて奔走する。末端の者が活躍し過ぎで現実味が少ない。もう少し上の立場の者を主人公にした方がしっくり来たと思う。(竹) |
し |
篠田節子 |
カノン |
2011
9/9 |
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平凡な生活を送っていたアラフォーの女に、昔の男が自殺した知らせが届き、忘れていた学生時代のひと夏の思い出が甦る。遺書のようなヴァイオリンの音楽テープが女を惑わす。超常現象のスリラーか種があるサスペンスか戸惑う。人物の演技も台詞も硬いし、筋の展開の面白みもない。自分の好みでもないので良い所をくみとれない。(竹) |
し |
篠田節子 |
ハルモニア |
2010
10/9 |
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精神療養施設の女性の教師としてチェリストの男が来る。女性は男よりチェロが上達する。女性は嫌がると周りに危害を与える超能力を発揮するようになる。男がのめりこむ女性の魅力が表現されていないし現実離れした超能力を入れた点が納得出来ない。SFではなく現実的な骨格を作って、その上で登場人物に魅力的なの肉付けをしたら良かった。(竹) |
し |
篠田節子 |
斎藤家の核弾頭 |
2010
8/28 |
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2075年の超管理社会の日本で不要とされ虐げられた人々の、官僚に対する戦いを描くSFドタバタ小説。筋書きは粗いし結末も中途半端だが、力強い運びは長いページ数ながらスイスイと読ませる。ドタバタらしくスカッと突き抜けるような結末が欲しかった。作者が色々な小説に挑戦しているのだなとは分かるが、これは今ひとつ。(竹) |
し |
篠田節子 |
贋作師 |
2010
8/4 |
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大学では絵画の優秀な技術を持った男と女は、独自性が無かった為に男は大家の弟子になり、女は絵の修復師になった。男が死んだ後に女は大家の絵を修復して男が代作をしていた事を知る。筋がピリッと締まらないのは伏線が曖昧過ぎるから。ミステリーに仕立てる小道具も適切性に欠ける。この表題にするなら結末に別の展開が欲しかった。(竹) |
し |
篠田節子 |
絹の変容 |
2010
7/16 |
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八王子の繊維業の二代目が虹のように輝く古布を発見した事から、蚕を改良して同じような布を作ろうと、マッドサイエンティストの女性と金儲けを狙う企業家と手を組む。ところが、改良された蚕が思わぬ事件を引き起こす事になる。作者初期の作品で筋も人物描写も甘い。現在の緻密な作品からは想像出来ない。第3回小説すばる新人賞。(竹) |
し |
篠田節子 |
仮想儀礼(下) |
2010
1/14 |
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企業を取り込んで大きくなった教団がその企業の支援が無くなり元の小さい教団に戻る。残った信者は家族から逃げてきた女性達で、家族の奪還攻勢が教団を揺さぶる。その残った信者は先鋭化しオカルト化し男の手に負えなくなる。最初の設立理由の、ビジネスとしての宗教どころではなくなる。筋はスピード感が衰えず最後まで進む。(松) |
し |
篠田節子 |
仮想儀礼(上) |
2010
1/14 |
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都庁職員だった男がゲーム本の原作で名を成そうとして失敗し仕事も家庭も失い、ビジネスとして新興宗教を始める。教団が次第に大きくなり注目され、やがて男の良心が問われる事件が起きる。さて、男はどうするのか?で上巻終了。一種の成功物語。主題が新鮮で物語が気持ちよいほど次々展開して行くので読む手が止められないくらいだ。(松) |
し |
篠田節子 |
女たちのジハード |
2005
10/7 |
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ジハードって言葉は、今は宗教色が強くテロを連想させ大げさで、この小説には合わない。題名はともかく、一つの会社で出会った女たちの男を当てにしない孤独な戦いを描くオムニバス小説。計算高くもしたたかに生きる女たち。計算しながらも情に流れる女たち。(竹) |
し |
司馬遼太郎 |
幕末 |
2005
4/12 |
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やたらと人が殺される。幕末は暗殺の歴史。その暗殺した側の人間が明治政府では爵位をもらい高官になった。結局はどうあろうと徳川幕府を滅ぼすことを目的とした長州、薩摩、土佐。尊皇攘夷なんてただの口実。徳川の後をそのまま引き継いだ新政府。政治家のダブルスタンダードは昔から。 |
し |
島田雅彦 |
ニッチを探して |
2021
1/13 |
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銀行副支店長が上司の不正を許せず大金の融資先を変え、他に1億円を自身の安全保証の為隠す。その後は真実が公になるのを期待して逃げる。所持金は少なく、すぐにホームレスになる。ニッチは居場所、更に言えば生存出来る場所。主人公が正義を振りかざす割には妻には誠実ではない。男ってそういうものですか、自分には分からないけど。(竹) |
し |
島田雅彦 |
虚人の星 |
2018
7/29 |
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母子家庭で育った少年の成長の話と、2代続いた総理大臣の家系の男の話が交互にあり、ついには二人はスパイと総理大臣として出会う。読む前に政治小説と分かっていたので手強いかと思ったが、現実の日本の政治状況を分かりやすく解説されて共感も出来て面白かった。一種の職業小説。戦乱を望んでいないなら憲法を守らなくてはならない。(松) |
し |
島田雅彦 |
優しいサヨクのための嬉遊曲 |
2007 12/15 |
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「彼岸先生」を書いた作者が大学在学中に発表した作品。他にもう1編収録。1980年頃の大学生のソフトな左翼活動の様子を軸に主人公の生活が描かれている。脇役が主役を引き立たせている。時代は少し違うが庄司薫の「赤頭巾ちゃん気をつけて」を思い出した。1983年に発表した作品を2001年に文庫化したのは何故?(竹) |
し |
島田雅彦 |
彼岸先生 |
2007 8/21 |
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姉の愛人である作家にひかれ、弟子として付き合ううちに深入りして作家の深い部分であるニューヨークでの日記を読むことになる大学生。ドン・ファンでプロの嘘つきを自称する作家の本当の姿とは?ユーモア小説かと思ったら案外重い。92年の泉鏡花文学賞受賞。自分の読解力では結末あたりの意味が分からない。だから、(竹) |
し |
島村麻里 |
地球の笑い方ふたたび |
2006
3/15 |
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「地球の笑い方」の続編。海外旅行の達人たちの話で、意味も無いことを競って、上には上がいる。年間複数回も海外に行くという人達は自分には遠すぎる。旅行という、あとには形として何も残らないものに命(大げさではなく)を懸ける人達の面白悲しい話。図書館にはこの前編がないので読んでみたい。買ってくれ。(竹) |
し |
島本理生 |
ファーストラヴ |
2021
4/29 |
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心理療法士の女性が、出版社から父親殺しの22歳女性の半生を本にする依頼を受ける。審理前の女性の曖昧な供述は着地点が見えず不安を感じる。弁護士は知人で、女性の家庭環境や交友関係が物語を複雑にする。裁判を検察や弁護以外の視点で見せるのには成功。題名は内容からは遠いように思う。劇的な部分が無い淡々とした小説。(竹) |
し |
清水杜氏彦 |
うそつき、うそつき |
2016
7/15 |
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首輪型の嘘判別機を国民に付けさせる国でその首輪を外す仕事をする少年。アイディアとしては特に良いものでは無い。真実味を出す為の設定が中途半端で引っかかる。それに技術を必要とされる仕事を少年がするのに疑問。当然少年は稚拙な訳で小説自体が薄く感じる。これがアガサ・クリスチィ賞(日本の)というので驚く。自分の好みでは無い。(竹) |
し |
清水義範 |
上野介の忠臣蔵 |
2019
5/6 |
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赤穂浪士の忠臣蔵を、悪者とされた上野介の側から描く。主君の仇を討った義士とされ、名誉の切腹で終わる赤穂側に対して、悪人の汚名を着せられ徳川から処罰までされた吉良家が可哀相。結局は浅野内匠頭一人の暴挙が大勢の人間を死に追いやり路頭に迷わせた。現代なら一人の運転士により何百人も亡くなった鉄道事故を思い出す。(竹) |
し |
清水義範 |
愛と日本語の惑乱 |
2019
1/18 |
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42才のコピーライターの男が国営放送の放送用語委員会に出席する所から始まる長編小説。日本語の変化や難しさ、脳中枢での位置など知識欲を刺激されて面白く読めた。堅苦しい話ばかりでは無く、男自身も自らの愛人により影響される所が表題に合う。先月、何十年振りかで短編集を読んだが、こういう長編の方が面目躍如で読み応えがある。(竹) |
し |
清水義範 |
バールのようなもの |
2018
12/8 |
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パステーシュの作家の短編集。何十年ぶりに読む。パステーシュとは作風の模倣をいって、パロディと違い批判する目的は無いらしい。既にある小説の作風に似せて面白味を出そうとするユーモア小説と捉えているが、なかなか深い作品もある。「山から都へ来た将軍」は膨らませれば大河小説になりそうだ。肩の凝らない読み易い小説であるのは確か。(竹) |
し |
下川博 |
弩(ど) |
2010
6/2 |
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南北朝時代の農民の意外と自由な暮らしを描いた時代劇。豊かになった農民がついには武士(悪党)に対抗して傭兵を雇い武器を取って立ち上がる。主人公が荘園の代理人と農民の代表で並立し、読む方の意識がブレる所や、筋に若干一貫性の無い所が気になったが、スラスラ読めて面白いエンターテナー作品。江戸時代ではない時代劇が新鮮。(竹) |
し |
朱川湊人 |
花まんま |
2009
10/3 |
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大阪での少年時代の思い出語りの短編集。どの作も不思議なものが出てくるが、物語に溶け込んでいる。表題作の「花まんま」は泣ける。生まれ変わりを主題にした兄妹の話。それにしてもこの作品集には人の死ぬ話が多い。あの世こそが現代でもあやふやで理詰めで考えられないから小説としての面白みを持っているのだろうと思う。2005年上期直木賞。(松) |
し |
笙野頼子 |
ひょうすべの国 |
2017
2/2 |
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ひょうすべとは「表現がすべて」の事(新潟県に流れる東京電力のCMみたいなものだな)で、地方の妖怪?の事では無い。中身はにっほんの先行きを具現化したファンタジー小説。作中で一番憂慮していたTPPはアメリカのバカのフリをした大統領のお陰でお流れになりそうだが、油断してはならないと後書きにある。小説としては面白くない。(竹) |
し |
笙野頼子 |
二百回忌 |
2008 7/6 |
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4作の短編を収める。表題作は代々続く旧家で二百年ごとに行われる法事で、死者がよみがえり生者と語らう。その時時間と空間が歪み日常が非日常へと変わるところをマジメに描いている。この設定は好きだが純文学を崩したような感じで、筒井康隆のような突き抜けた面白さが無い。エロさが足りないか。他の作品もメタフィクション。1994年三島賞。(竹) |
し |
笙野頼子 |
居場所もなかった |
2006
1/15 |
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私小説というか、オートロックマンションのルポというか気の弱い小説家(売れない)の転居騒動記。大学卒業後に小説の新人賞を取っても、小説だけで生活していくのって難しいのですね、という感想がまず出てしまう小説。女で、定職がなくて、地元が関西だと東京でアパートを探すのは困難を極める。その困難を理解してもらうのがもっと困難なよう。(竹) |
し |
白石一文 |
一億円のさようなら |
2021
2/27 |
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妻に48億円の資産があると聞かされた夫。知られた妻は黙っていた理由を話し、1億円を夫に渡す。夫は会社も子供達も思うように行かず、退職して遠い地に移り一人で生活をやり直す。人間が多くストーリーが散らかった印象。流れもスムーズとは言えない。ハードカバーで500ページ超だが読み進め易かった。1億円は生きていないが設定の面白さはある。(竹) |
し |
白石公子 |
もう29歳、まだ29歳 |
2005
11/5 |
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今の女の曲がり角は29歳なのか。この作品は一昔(12年)前に書かれたので、現在なら30代前半になるのか。ターニングポイントは段々高く(年齢が)なる。男なら結婚しても大して変わらない人生も、女は結婚で変わる。結婚すれば変わるし、結婚しなければ環境が厳しく変わるし、どっちにしろ変わる。女は大変だ。(竹) |
し |
神護かずみ |
ノワールをまとう女 |
2020
11/4 |
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し |
神護かずみ |
人魚呪 |
2020
2/1 |
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し |
真藤順丈 |
宝島 |
2020
4/10 |
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し |
真藤順丈 |
地図男 |
2012
11/1 |
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関東地図帖に様々な物語を書き付けて出没する地図男。その地図帖をメディア関係者の「俺」が読ませてもらう所から物語は始まる。色々なエピソードのおいしい所だけを俎上にあげ勝負する小説。取っ付きやすくそこそこ面白いが余韻が無く読み足りない。ハードカバーだが138ページと短く難解ではないからすぐ読了。第3回ダ・ヴィンチ文学賞大賞。(竹) |
し |
新野剛志 |
優しい街 |
2017
3/12 |
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都会の探偵がコンシェルジュを通して依頼されたのは宿泊客の娘を探す事だった。ツイッターの裏垢を手掛かりに捜査する探偵。突然の娘の死で、お定まりの暴力団の係わりと警察の介入となる。スマホを持たない自分にはツイッターが分からない。筋の運びがもたもたして結末も説明的で、探偵物なら単純明快でスピーディなものが欲しい。(竹) |
し |
真保裕一 |
ダーク・ブルー |
2022
9/28 |
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海洋冒険小説。日本の深海調査船がシージャックに遭う。犯人は東南アジアの少数民族で沈んだ宝の引き上げを狙っていた。調査船はダイオウイカの襲われ、犯人の仲間割れや、台風の接近もありサスペンス度は上る。母船への侵入や日本人の反目などストーリーが甘い。それと宝の正体も。細かい所だがそこをキチッと仕上げて欲しかった。(竹) |
し |
真保裕一 |
連鎖 |
2021
12/9 |
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輸入食品を調べる検疫所の職員に、友人が自殺を図ったと連絡がある。友人の妻との不倫が原因か。調べるうちに輸入品の横流しや密輸で暴力団が絡んでいるのが浮かび上る。サスペンスとしてはストーリーが無駄に複雑過ぎるのと、他殺を自殺に見せかけるトリックも納得出来ないし、最後の謎解きも説明的。素材は良いが調理が良くない。(竹) |
し |
真保裕一 |
デパートへ行こう! |
2021
4/29 |
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夜の老舗デパートに様々な人が潜り込み、それぞれの思いを遂げようとしていた。デパート側も警備だけでなく何故か社長まで居て対応する。リアルな表現よりも、登場人物のちょっと在り得ない関係性のもつれた糸を解くユーモア小説。人物が多くそれぞれのエピソードが薄味になった。期待して読み始めたが、結末も予定調和で面白味が無く残念。(竹) |
し |
真保裕一 |
おまえの罪を自白しろ |
2019
12/21 |
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国会議員の孫が誘拐され、犯人の要求は金では無く議員自らによる罪の自白。議員の秘書の次男がメインで筋は進行する。自白の会見時間が迫る中での政治家同志の陰謀が渦巻く。政治が嫌いなので我慢して読んだが、期待を外された結末にはガッカリ。そうなると誘拐までする動機が薄いし、筋が甘い。要するに自分には面白く無かった。(竹) |
す |
須賀敦子 |
本に読まれて |
2006
4/11 |
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今回の自分の毒書の指標。この中で取り上げているものからリストアップして読む予定。何故この本からという理由はない。本棚にあってつい手に取ってしまったのだ。自分の親ぐらいの年の人だし、大学教授をしていたし、読書の好みは合うとは思えないがこれも一期一会。言われるままに読んでみましょう。(竹) |
す |
菅浩江 |
誰に見しょとて |
2014
11/1 |
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近現代に化粧と医療の融合を考え、娘の協力と技術の進歩により巨大企業に発展させた女性が芯となる物語。オムニバス形式になっていてそれぞれに化粧(変身)を考える女性が主人公。化粧の根源と発展と女性(人間)の本質を太古の時代から近未来に至るまでを描いたSF小説。結末は無理にまとめた感じがするが、アイディアが斬新で面白い。(竹) |
す |
杉山由美子 |
恋と仕事には本が効く |
2005
9/7 |
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女性向けの本の案内書。次の自分の読書の指針となる本。女性作家を余り評価していない自分としては不安。この人自体も知らないので好みも合わないかもしれない。だから気に入る本は少ないかも、でもここから新たな展開があるかもしれないという希望はある。自分にとって
パンドラの箱となるか。ちょっと大げさ?(竹) |
す |
鈴木清剛 |
ロックンロールミシン |
2008 8/7 |
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コンピュータ関連会社に勤めて漠然とした不満から会社を辞める。友人がインディーズブランドの洋服屋を立ち上げ、それを手伝う事になって物づくりの面白さを知り始めるが…。組織の中に入ってその中で生きる若者もいれば、自分のやりたい事を追求する若者もいる。同世代でも違う若者の生き方をサラッと描いている。少し淡白。1999年三島賞。(竹) |
す |
鈴木成一デザイン室 |
ぬっとあったものと、ぬっとあるもの |
2004
12/28 |
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住居ではない大きな構造物についての色々な人の話をまとめたもの。中にある写真は本当に日本なの?合成写真じゃないの?と思うようなものもある。富田林のPL教団の塔はまるで東京タワーに上からコンクリートを流してそのまま固まったようで不思議な形だ。あのガウディを思い起こさせる。 |
す |
砂原浩太郎 |
いのちがけ 加賀百万石の礎 |
2021
3/20 |
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織田信長の時代から前田利家に仕えた男の少年から老年に至る記録。侍は未成年でも戦場に出され老成していたと感じた。戦国時代の歴史は様々なメディアで知っているので食傷気味。流れが分かってしまうので新鮮味が無い。でも時代の傍流にいた人の家臣からの目なので期待したが、やはり面白味が少ない。時代小説は全く知らない人が良い。(竹) |
す |
諏訪哲史 |
アサッテの人 |
2009/
7/4 |
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兄弟同様で育てられた叔父が変人の度合いが増し、終には失踪する。甥が、一緒に住んでいた時の記憶や残された日記から風狂と化していった叔父を小説として表現。特殊な言葉に囚われてしまう叔父を描いているが、言葉や漢字の選び方が硬く、小説として線が細く内容が薄く面白みが少ない。2007年上期芥川賞。(竹) |
せ |
瀬尾まい子 |
夜明けのすべて |
2022
2/19 |
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PMS(月経前症候群)とパニック障害の女と男。病気の所為で前職を辞めた二人は小さな会社で同僚になる。登場人物には人の優しさと気遣いが溢れハッピーになれそうな予感がする。人を見かけだけで判断して、一度の出来事で決めてしまう。自分はそうだな。でも優しくなれないのは仕方無い。せめてお話の中だけでも優しい気持ちになる。(竹) |
せ |
関口雄祐 |
イルカを食べちゃダメですか? |
2015
5/28 |
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イルカの行動学を研究する筆者が、和歌山県の太地町でイルカの追い込み漁の調査などで取材したノンフィクション。最近WAZA(世界動物園水族館協会)が追い込み漁で獲ったイルカを使う水族館への締め付けを行い日本のJAZAはそれに従った。イルカやクジラに対する欧米人の感情論は独りよがりの押し付けでそういう事が紛争を生むのだが。(竹) |
せ |
瀬山士郎 |
形と曲面のひみつ |
2011
8/2 |
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位相幾何学と約されるトポトジーの世界を平明に説いている。子供用の本だが高学年向けなので数学が苦手な大人にもピッタリ。メビウスの輪とかクラインの壺は雑学として知っていたが成り立ちの経緯を初めて知った。図形の新しい考え方を知り、少し頭が柔らかくなったが、ここらが限界だ。(竹) |
た |
た |
高樹のぶ子 |
哀歌は流れる |
2013
4/19 |
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恋愛短編小説6編。しかも連作になっていて前作の脇役が次作の主役になり、時間も順列で経過しているので大河小説のようで続けて読みやすい。表題の小説は無いが、これが全編の基調になっている。自分は「画家の庭」が好みで、何故か川端康成を思い出すのは似た小説があったか。短編集は1編読むと一旦休むが連作だとつい連続して読んでしまう。(竹) |
た |
高樹のぶ子 |
光抱く友よ |
2011
10/22 |
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女子高生は自分に物足りないものを感じていた時、先生に叩かれていた同級生を見て衝撃を受ける。その同級生の考え方や真摯さに惹かれ友情を感じるようになり、その境遇から現実を理解し大人になる事を知るようになる。心情を押さえた台詞や仕草の中にも青春の激情が感じられてとても良い。芥川賞受賞作。他2編は普通。(松) |
た |
高樹のぶ子 |
霧の子午線 |
2011
6/18 |
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熱情の学生運動から20年後、ひとりの男の恋人でもあった女二人は今も友人同士。一人はその男に知らせずその男の子供を生み育て、一人は持病を抱えて一人で生きていた。それぞれの人物の描写が過不足なく出来ていて、それぞれの恋愛のかたちが納得できる。だいぶ前の小説だが映像を意識して書かれたか、テレビドラマっぽい。(松) |
た |
高樹のぶ子 |
トモスイ |
2011
5/10 |
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作者の最近の短編集で新聞の書評で知り読んだ。アジア各地を訪れそこで得た着想で小説を書くというプロジェクトから出来た短編集。技巧的を感じ、作られたつまらなさを感じた。紀行文なら納得か。「トモスイ」は特別で、底流に漂うエロさと、引かれながらも感じる気持ち悪さが混ざり小説としてよく出来ていると思う。川端康成文学賞受賞。(竹) |
た |
高樹のぶ子 |
波光きらめく果て |
2006
1/28 |
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不倫を繰り返し周りを苦しめる女の話。人を好きになるのは悪い事ではないが、誰もが行く所まで行く訳ではない。結果が判る事をやってしまうのは、破滅的な性格か恋愛中毒。不倫という調味料は恋という料理を美味しくする、なんて知ったかぶりです。こんな恋愛小説はヤッパリ苦手です。(竹) |
た |
高田大介 |
まほり |
2022
5/14 |
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社会学の大学生が幼馴染の力を借りて、関東北部に伝わる伝承を調べる。それには個人的な理由もあった。男子中学生の視点の章もあって時間差の物語かと思ったら、後に繋がる。悲惨な歴史の伝承部分の記述が漢字だけでも大変な労作。表題の意味が終盤で明らかにされる。結末は予想出来たが衝撃。492ページの大作。面白かった。(竹) |
た |
高殿円 |
メサイア 警備局特別公安五係 |
2014
9/23 |
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国が軍隊を放棄する超軍縮をした近未来の世界。日本のスパイ校で卒業試験を前にした若者二人の活躍、と言いたい所だがサスペンスらしいクールさが無い。アイディアは良いが、平板な人物、唐突な筋運び、冗漫な会話、強引な謎解き等小説の出来が悪過ぎる。サスペンスじゃないとしたら作者はどういう線を狙ったのだろう。残念な作品。(梅) |
た |
高殿円 |
上流階級 |
2014
5/2 |
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副題に「富久丸百貨店外商部」とあるように、神戸の百貨店でお金持ち相手にお屋敷に出入して商売をするバツイチアラフォー女性が主人公。上昇志向の女性の成長物語。お金持ちの世界が繰り広げられるが庶民がみても嫌味が無く面白い。主人公以外の登場人物も魅力たっぷりの人が多く、気持ちよくスイスイと読める。続編も期待したい。(松) |
た |
高殿円 |
トッカン 特別国税徴収官 |
2014
3/29 |
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税金滞納で特に悪質な事案を担当するのがトッカン。その下で働く女性が主人公。自らの実家も税金滞納で差し押さえを受けた経験を持つが安定を求め公務員を目指した結果、皮肉にも税務署に勤める。小説の素材は良いのであとは作者の腕の見せ所だが、細かい表現力では三浦しをんには及ばない。脚本さえ良ければ面白いTV番組にはなる。(竹) |
た |
高殿円 |
剣と紅 |
2014
2/11 |
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戦国時代に井伊家当主の子として生まれ、成長するにつれ凶兆が見えるようになった娘の数奇な運命を描く歴史時代小説。今川という大大名の家来であるために受ける理不尽な仕打ちを乗り越え家名を残そうと耐える姿は痛ましい。史実であるために作り込みが制限され山場が少ないのが小説としては不満。女の大河TVドラマにすれば面白そう。(竹) |
た |
高野文子 |
おともだち |
2014
12/18 |
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作者は寡作の漫画家。新聞のコラムで最近の作品を評論家が褒めていたので図書館を検索。その作品はあったが貸出中で他にはこれだけだった。昭和初期の少女漫画の風情。題材の幼さの中にピリッとしたものを込める。空想世界を外した「トトロ」のような感じ。この人そんな古い人だったのか。悪くは無いが子供の世界なので好きな部類では無い。(竹) |
た |
高橋源一郎 |
優雅で感傷的な日本野球 |
2008 3/4 |
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七つの章からなる短編集のようなもの。表題を意味するのは最後の章だけ。あとは野球をテーマとさえしていない気取った文章。途中までは意味が分からず眠くなる。この小説のようなものは「始めチョロチョロ、中パッパ、赤子泣いてもフタ取るな」で野球を語っている?要するに小出しして最後ドバッて感じ。ドバッてとこは面白い。1988年三島由紀夫賞。(竹) |
た |
高橋源一郎 |
君が代は千代に八千代に |
2004
11/16 |
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短編集だが、色んな味があり一冊で色々(エロエロ)楽しめる。SFもあるが、自分でも書ける気がするような物だけどね。この人って火宅の人なんですか。同い年なのでうらやましい。 |
た |
高橋秀実 |
はい、泳げません |
2005
7/29 |
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全く泳げない作者が泳げるようになるまでの苦労の話。これを読んでも同じような泳げない人の参考になるとは思えない。女の先生のグループレッスンなのだが、とても理不尽で水泳が嫌いになるような教え方だ。自分だったらすぐ辞めてしまうだろうなと思った。(竹) |
た |
田口ランディ |
オカルト |
2019
10/10 |
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表題ほどのアヤしさは無くて、小説かと思うとエッセイのようで、大体一つが短くて文庫本の261ページの中に43編もありショートショートかと思うとSFのようでもある。定義しなくても良いのでしょう、面白ければ。自身を語っていて賛同出来るものも出来ないものもある。みんな生きているのだね。小説を読みたかったのだが、こういう風な文も良い。(竹) |
た |
武田泰淳 |
森と湖のまつり |
2007 9/2 |
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昭和30年代の北海道北部のアイヌを素材として、都会の女流画家が否応無く体験する物語。アイヌを今は今はウタリというらしいが、底には日本人によって絶滅させられかけた北方原住民の歴史がある。文庫本だが細かい字で591ページのこの物語は結構ボリュームがある。だが、意外にその重さを感じずに読み進めた。(竹) |
た |
武田泰淳 |
わが子キリスト |
2006
6/3 |
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キリストの復活を描いた表題作の中篇と、中国近代の混乱期を描いた短編2編を収める。平たくて、句点の多い文は読みやすいのだろうが格調が無い。歴史小説に現代用語(カタカナ=外来語)が出てくるのは違和感がある。自分は日本の近現代を描いた小説のほうが好きだ。この作者を読むのはまだ2冊目なので語るのはまだ早い。(竹) |
た |
武田泰淳 |
ひかりごけ・海肌の匂い |
2007
3/16 |
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前は純文学も結構読んでいたのだが、出会わなかった作家。200ページをきる、薄い文庫本の短編集。この人の奥さんを知り今回始めて読んでみた。まじめに、人が生きるという事を書いている。久しぶりに読んだ純文学に感情を揺り動かされてしまった。中上健次の小説を思い出す。戦時中の食人事件を扱った作品は衝撃的。(松) |
た |
武田百合子 |
犬が星見た ロシア旅行 |
2006
11/5 |
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筆者が夫で作家の武田泰淳や思想家の竹内好と船や列車や飛行機で旧ソ連邦とヨーロッパを旅する話。この人らしい下世話な視点から見た1969年当時の国際的な世相が分かる。時々鋭い冷たい見方もあってヒヤッとする。旧ソ連邦内はパック旅行の一員だが、中でも錢高老人は面白い。珍道中記。(竹) |
た |
武田百合子 |
富士日記(下) |
2006
7/15 |
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富士五湖地方の地図は必要。百合子さんの別荘の位置や行動範囲が分かる。夫で作家の武田泰淳の作品は読んだ事が無いのでこれを機に読んでみたい。今は武田泰淳も百合子さんもこの世には無い。娘で写真家の武田花は自分の誕生日の九日後に生まれている。それだけ年代に差がある。下巻は昭和44年7月〜昭和51年9月まで(途中中断あり)。(松) |
た |
武田百合子 |
富士日記(中) |
2006
7/15 |
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内容は今で言えばブログそのもの。日記なので簡潔な文章で淡々と書いているが、百合子さんや夫や娘や、周りの人の輪郭がハッキリと見えて、感情移入してしまう。泣いてしまう。百合子さんの感受性の豊かさの現われと思う。それにしても、この頃は交通事故が多かったのだな、と改めて思う。中巻は昭和41年10月〜昭和44年6月まで。(松) |
た |
武田百合子 |
富士日記(上) |
2006
7/15 |
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前からあちこちの書評で評判が良く、存在は知っていたが(上)(中)(下)とあり、長いのがネックになってなかなか取り掛かれなかった。今回覚悟を決めて読む。作家の一家の富士山麓での生活の日記と聞いて、晴耕雨読の清廉な文章を予想したが全く違って、俗で生々しくてエピソードが面白い。上巻は昭和39年7月〜昭和41年9月までの日記。(松) |
た |
竹中労 |
鞍馬天狗のおじさんは |
2005
7/12 |
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今はもう、知っている人も少ない「嵐寛寿郎」の聞書き一代記。聞いた人はこれも知っている人は少ない「竹中労」。アラカンを全く知らない人でも、聞書きとして表されているしゃべり言葉により、その人となりを感じることが出来る。映画と映画人の黎明期の記録でもある。(竹) |
た |
嶽本野ばら |
下妻物語 |
2006
3/29 |
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この小説も深田恭子と土屋アンナの映画が話題になり(見ていない)、読む気になった。ロリータ女(今はどうなった?)とヤンキー女の成長物語。まるでマンガ(劇画?)のように面白い。読んでいても深田恭子の顔が浮かんできて映画を見ているようになった。ファッションは門外漢なので尚更映画を見てみたい。(松) |
た |
立川談志 |
新釈落語咄 |
2005
4/26 |
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立川流家元の落語の解説。従来の落語の組織と別れ家元と名乗り、冗談みたいな立川流落語のトップ。今で言えば一本筋の通った爆笑問題の太田ってところかな。最近TVで見ないねぇ。前に見たときは、あまり回りとかみ合っていなかったなぁ。でも本では元気のようですね。 |
た |
立花隆 |
インターネット探検 |
2005
8/18 |
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この本の初出が1996年。約10年前の内容です。記述は古いけど基本は今と変わりません、多分。自分はネットをやっていると言っても狭い範囲です。この本に啓発?されて始めてアダルトページをネットサーフィンしました。10年前より有料が増えても、無料モロ出しはありました。でも無料のレベルは低い、と初心者の評。(竹) |
た |
田中慎弥 |
切れた鎖 |
2009
12/17 |
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山口県旧家の三代続く女系当主の現実と回想の物語。夫は隣の新興宗教の女と逃げ、母親はそれを口汚く非難する。娘は孫を押し付け色んな男と遊び歩く。自分と母親と娘のエピソードが時間を超えて一人の女の人生のように絡み合う。宿命感じさせる物語。他に2篇の短編を収めているが、この表題作だけが良い出来。2008年三島賞。(竹) |
た |
田中哲弥 |
猿駅/初恋 |
2012
7/10 |
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自分の読書歴ではこういう作品は、つい筒井康隆と比べてしまう。筒井康隆のハチャメチャ部分をより現代的ナイズしている。スカトロ、エロス、カニバリズムにしてもそう。その中でも、やっぱり「羊山羊」は傑作だ。涙とエロが同時に湧き上がる感動がある。そう言うと人格を疑う人がいるかも知れない。寡作家の作者の貴重な10作の短中篇が収録されている。(松) |
た |
田中哲弥 |
やみなべの陰謀 |
2012
5/25 |
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解説者が著者の執筆数の少ない事を挙げて、天才だが惜しいと褒める。実際に読んでみると確かに文句無く面白いが、筒井康隆と比べるとそれほどでもない。内容は短編仕立てでそれぞれが繋がるタイムトラベルSF。海外物にありがちな無駄にページ数を稼ぐ事もなく簡潔に仕上がっている。これがもっと読みたい気にさせるのは確か。(竹) |
た |
田中啓文 |
ミミズからの伝言 |
2013
3/29 |
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7編収容するホラー短編集。表題と同じ短編は、アイディアだけのように思える。小説としてしっかりしていなければ深みが無く面白さが無い。短編なので人物像はなかなか作りこむ余地が少ないだろうが論理や筋道も大事にして欲しい。他は色々な題材を料理したコミックホラーでまずまずの出来。怖さを上段に掲げてくるものよりユルイ感じが好き。(竹) |
つ |
千野境子 |
紅茶が動かした世界の話 |
2020
2/13 |
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つ |
月村了衛 |
機龍警察 |
2013
2/24 |
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近未来警察小説。乗用ロボットが戦闘に使われるようになり、テロリストにも流れる。そこで警視庁では特捜部を設立し新型機「龍機兵」を導入し傭兵と契約する。警察に取材しその機構、裏側も描いているのは話に深みがある。しかし、話の筋としてのスパイスだろうが、一般の警察と特捜部を必要以上に対立させているのが気になる。シリーズ化している。(竹) |
つ |
辻原登 |
許されざる者(下) |
2010
4/6 |
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主人公の医師も日露戦争へ行く。戦争が苛烈を極め森宮(新宮)から従軍した男達はそれぞれに傷を負って帰ってくる。戦争に勝ってもロシアから賠償金を得られず多くの日本人は落胆し暴徒となる。森宮でも社会主義運動と結びついた暴動が起きる。表題は医師の許されない恋を意味する。大河ドラマにもなりそうな豊かな内容の歴史小説。(竹) |
つ |
辻原登 |
許されざる者(上) |
2010
4/6 |
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熊野灘に面する南紀を舞台にした歴史小説。時は日露戦争を前にした明治。森宮で医師をする男を主人公に様々な人達が織り成す人間模様。日露戦争という国を挙げての大事業に否応無く巻き込まれる人達を描く。南紀といえば中上憲次の「枯木灘」を上げられるが、その骨太さには及ばないが同じ風土を題材にした味は似ている。(竹) |
つ |
津島佑子 |
葎の母 |
2022
6/25 |
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表題作を含む6編を収める短編集。母子や夫婦が描かれ、幻想的なシーンもある作品集。どの作品も悲しさや寂しさが溢れていて、私小説を読んでいるようだ。40年前の作品で本自体が色褪せて更に古臭く感じる。表題の「葎(むぐら)」とは雑草の事で、雑草が蔓延り荒れ果て貧しい様をいうようだ。今の自分には共感したくない雰囲気。(竹) |
つ |
津島佑子 |
光の領分 |
2012
8/12 |
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連作短編集。夫と別れ幼い娘と生活する女性の精神的、肉体的、物質的、対人的、困難を描く。私小説的でユーモアは少ない。女一人で収入を得て子供を育てる難しさは分かるが、情に流れすぎていると男の自分は思う。最近になって育児の大変さによる事件が報道されるが、それは状況が同じなら昔も変わらない。1979年野間文芸新人賞。(竹) |
つ |
筒井ともみ |
食べる女 |
2014
3/15 |
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おいしい食事といとしいセックスは人を幸せにするという宣言が巻頭にある短編集。女性が主人公で本当に悪い奴は出てこない。その代わり料理がこれでもかと出てくる。美味しい料理は食べたいが自分で作るまでには至らない。料理が自分のこれからの目標になるかもしれないと思うような読後感だった。ただ本が汚いので読書熱が冷める。本を大切に。(竹) |
つ |
筒井康隆 |
愛のひだりがわ |
2022
7/30 |
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一番好きな作家と言えばこの人と思っていた。何十年も前がピークだった。図書館で未読の本を見つけたので借りた。近未来の荒れた日本。母は死に、父は行方知れず。小学生女子が父を探しに犬と一緒に働かされていた親類の食堂を出る。ジュヴナイルとしてのストーリーのご都合主義的な緩さは仕方無いか。世の中も変わったから。(竹) |
つ |
筒井康隆 |
秒読み 筒井康隆コレクション |
2022
3/5 |
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昔耽溺していた筒井康隆の作品の編み直した短編集。多分家の本棚にあるはず。だから全て覚えがある作品。「走る取的」の理不尽な恐怖、「遠い座敷」の子供の時に経験したような叙情性、「熊の木本線」の民芸的な郷愁などは懐かしい。戦争による終末を扱った表題にもなっている「秒読み」は2022年現在にロシアが起こした戦争にも通じる。(竹) |
つ |
筒井康隆 |
ビアンカ・オーバースタディ |
2017
12/21 |
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生物研究部の美少女高校生が生殖の実験結果を持って未来に行き巨大化した害虫を退治する話。作者のファンなので借りたが、ライトノベルという分野の作品だった。作者はジュブナイルという分野も書いていたが、ライトノベルは挿絵もあり内容ももっと軽く、エッチな所は良かったが全体に読み応えが無い。作者の本当の小説が読みたい。(竹) |
つ |
筒井康隆 |
聖痕 |
2016
7/26 |
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5歳で性器を切断された事を秘密にして生きる男の半生。男は性衝動に囚われない自由さを得るが、美男子だけに女や男からのアプローチが煩わしい。男は食に生きがいを見つける。性に囚われた普通の人間との対比が面白い。新聞連載だけに題材ほどエグイ所は無いが、難しい言葉が後半に増えてくるのには辟易。でも2日で読み終える。(竹) |
つ |
筒井康隆 |
漂流 本から本へ |
2013
7/7 |
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幼年期から近年に至る筆者の読書歴。最終章にもあるが、まさに「筒井康隆のつくりかた」。後に経験する事を「夢にも思わなかった」という口癖と、自慢が所々に顔を出すのは筆者のユーモア。少年期から役者指向があり、どちらになるかは紙一重だったようだ。お陰で読みたい本が何冊か出来たが、「トンネル」他、古い本は長岡市の図書館には無いのが残念。(竹) |
つ |
筒井康隆 |
巨船ベラス・レトラス |
2012
3/27 |
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昨今の小説家と出版業界を虚構と真実をないまぜにしたメタフィクション。小説世界は心地よい広がりがある。小説家世界の内幕を紹介して読者ののぞき趣味的な気分を満たし、言葉狩りをやんわり批判し、最後には自分自身を登場させて著作権侵害事件を語らせている。現実から少し離れたようなフワフワしたこういう雰囲気が好きだ。(竹) |
つ |
筒井康隆 |
ダンシング・ヴァニティ |
2011
2/10 |
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作者得意のハチャメチャを少しづつ変化させながら繰返し、時に場面を変え或いは元に戻り、美術評論家の男の半生を描いている。夢を夢と認識しながら行動しているような世界。作者は、いろいろな実験的な小説を発表するが、自分は独特の世界を繰り広げるSFのほうが好きだ。(竹) |
つ |
筒井康隆 |
アホの壁 |
2010
10/19 |
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養老孟司のベストセラー「バカの壁」の名前に似ているので筒井さんの事だからパロディかと思ったらちゃんとした教養書。内容は何故人間は分かっていてもアホ(筒井さんは関西人)な事をするのかという検証。「バカの壁」をパロディにした方が面白かったのではと思うが、肝心の「バカの壁」はまだ読んでいないので、この際だから読んでみるか。(竹) |
つ |
筒井康隆・選 |
人間みな病気 |
2009
11/6 |
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筒井康隆選の表題の意を持つ短編集。書かれた年代も書いた作家もバラエティに富む。想像で書いたものと事実に即して書いたものとがあるが、「事実は小説よりも奇なり」の言葉どおり私小説には凄みがある。いろいろな人達がいて生活をおくっているが、小説はその表面的な殻を破って真に迫り伝えるという事で、興味深いし自分の慰めになる?(竹) |
つ |
筒井康隆 |
くさり(ホラー短編集) |
2008 4/6 |
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筒井康隆は天才だと思う。多岐にわたって面白いものを提供してくれる。下記の、そうそうたる海外の作家達の作品集に勝るとも劣らないない。この短編集も編集し直したもので、前に読んだ作品が多いが充分楽しめた。これが初の出会いなら(松)だったが…。(竹) |
つ |
筒井康隆 |
佇むひと(リリカル短編集) |
2008 1/22 |
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リリカルとは叙情的という意。筒井康隆の叙情にどっぷり浸かれる。舞台設定はSFでも何でも人間の感情を巧みに表現している。実に多種多様な小説を書く作家だが自分が一番好きな作品群だと再確認。だが、一つの範疇のものだけを読ませるのは題材が感情だけに食傷するかもしれない。多彩な小説群の中にあってこそなお光るように思う。(松) |
つ |
筒井康隆 |
夜を走る |
2007 12/22 |
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副題はトラブル短編集。このハチャメチャな感じはもっとも筒井康隆らしい所。30年前の作品を編集し直した短編集。自分としてはすでに読んだ作品で衝撃が薄いが、始めて読む人には衝撃だと思う。当時は筒井康隆の文庫本を買う事は自分の数少ない楽しみの一つだった。一編一編をいとおしむように(変?)読んでいたのを思い出す。(竹) |
つ |
筒井康隆 |
如菩薩団 |
2007 11/11 |
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副題がピカレスク短編集。悪党が主人公の小説集。世相を小気味良く切り込み、エライ人達を引きずりおろしみっともない真似をさせるのは胸がすく。作者が刃を向けるのはエライ人達だけでなくオロカな庶民にも向けられる。オロカな庶民はオロカな事が罪となり悲惨な目に遭う。勧善懲悪という言葉はこの作者の小説には無い。(竹) |
つ |
筒井康隆 |
陰悩録 |
2007 10/10 |
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リビドー短編集と副題にあるように、性に関する短編集。自分はこの作家の性的な「くすぐり」が大好き。ただ前にも読んで(覚えて)いるのが殆どだし、今の性風俗氾濫の中では衝撃度は少なく感じる。自分はたった今までリビドーをリピドーと覚えていたどこで間違って覚えたのだろう。(竹) |
つ |
筒井康隆 |
壊れかた指南 |
2007 9/13 |
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筒井康隆の断筆をきっかけに読まなくなってしばらくたち、図書館から借りることで再度読み始めたが、今までは再編集されたすでに読んだものだったので感激は少なかったが、これは全部始めて読むものなので、本屋に入り浸り文庫の新刊が出るたびにワクワクして買って、読み終えるのが勿体無いと思いながら読んでいたあの頃を思い出す。(松) |
つ |
筒井康隆 |
銀齢の果て |
2007 9/2 |
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「バトル・ロワイヤル」のシルバー版。老人が多くなり過ぎ、町内ごとに期間を決めて老人達たちだけでお互いを殺すよう政府が法制化した。殺し合いに残った一人が生き残れるという法律。人間(老人)の命の重さが軽く考えられる事へのアンチテーゼ。他の筒井康隆の小説には、定年になった者を家族親戚一同で食べるという強烈な短編もある。(竹) |
つ |
筒井康隆 |
驚愕の曠野 |
2007 8/9 |
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自選ホラー傑作集2。「定年食」は衝撃的だし、「遠い座敷」は数十年前の自分の少年時代の1ページ(そんな田舎に住んで居た)を蘇らせる作品。表題作の「驚愕の曠野」は始めて読むが、起承転結が無くても楽しめるという筒井康隆らしい作品。洋の東西を問わずこんな作家は他に知らない。居たら教えて。(竹) |
つ |
筒井康隆 |
ポルノ惑星のサルモネラ人間 |
2007 8/4 |
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自選グロテスク作品集。筒井ファンにとってはこの短編集が特にグロとはいえないが、始めて筒井作品を読む人にとっては筒井康隆を好きになるか嫌いになるかの分岐点になるかもしれない。これも再編集されたものなのですでに読んでいるが忘れているので面白い。「レッド・マーズ」の口直しに借りてみた。気を抜いて読めるので正解。(竹) |
つ |
筒井康隆 |
ヘル |
2007 7/1 |
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「ヘル」とは地獄?天国ではないもう一つの場所に死んだ人間達が集う。時間を越えて、空間を越えて、存在する人間達(霊魂?)。自分が今生きているのか死んでいるのか夢の中なのか分からなくなる。死ねば煩悩からも解き放たれ、恨みも欲も無くなる、らしい。筒井康隆ワールド満載。ハチャメチャドタバタなんでもありの長編小説。(竹) |
つ |
筒井康隆 |
懲戒の部屋 |
2007 6/24 |
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筒井康隆の自選ホラー傑作集1。ホラーは好きでは無いが、この短編の殆どを覚えていた。女達から男への暴力、職務上の権力を持った人間(国鉄)の自由業(小説家)への暴力シーンは、真性M以外はまともに読めない。ホラーとはいえない短編もあり、メルヘンチックで現実とほんのちょっと違った世界を味わえる。そんな筒井康隆の世界が好きだ。(竹) |
つ |
筒井康隆 |
傾いた世界 |
2007
6/14 |
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筒井康隆の自選ドタバタ傑作集の2。残酷で助平でハチャメチャな作風で、誤解されやすく差別されやすい作家。普通じゃなく当たり前じゃない所が良い。これも改めて編集し直した短編集なので全部呼んでいるはずだが、全部は呼んだ記憶が無いので又楽しめた。筒井康隆を読み始めた頃なら自分の評価は高いが、読み過ぎたので今は辛い。(竹) |
つ |
筒井康隆 |
最後の喫煙者 |
2007
5/24 |
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筒井ファンには普通の作品だが、好むかどうかは人による。もし合わない人に勧めて、勧めた自分の神経を疑われる事になったら怪我をするので、やたらとは勧めないし筒井ファンとも公言しない。これは作者自身が選んだ短編集。書いたのはどれも古いので読んだ事があるはずだが、すでに忘れているので新たなものとして楽しめた。(竹) |
つ |
筒井康隆 |
天狗の落し文 |
2007
5/10 |
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これはショートショートというには題名も無く短すぎる。まるで小説のネタ帳みたいで、こういう風に披露するのがもったいなく思える。色々な小説に膨らませる事が出来そうだから。あるいは小説の一シーンに使う事も出来そうだ。筒井康隆はこんな小説を書いています、という見本。断筆以前までは殆ど読んだ自分だが、これは始めて読む作品。(竹) |
つ |
筒井康隆 |
エンガッツィオ司令塔 |
2007
4/10 |
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平成8年頃の断筆解除後の短編集。これぞ筒井康隆という作品は下品でスケベでエネルギッシュで軽くて訳が分からないまま何処かに連れて行かれる感じ。最初は未読と思ったが前に読んだ事に気付いた。断筆前の筒井作品はジュブナイルと戯曲以外は殆ど読んでいるが、忘れてもいる。別の名前の短編集で読んだのだろうか?(竹) |
つ |
筒井康隆 |
満腹亭(アナーキーなレストラン)へようこそ |
2007
3/20 |
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食をテーマにした作品を収集し直した短編集。だから今までに読んだことのある作品がある。この作家の断筆宣言のあたりから(多分)、出版社の変更や、短編集の再構成があった。読んだ作品を又読むというのは、オチを知っている落語のようで読者にとっては嬉しくない。或いはオチを知っていても楽しめる古典落語のようになったのか?筒井康隆は。(竹) |
つ |
筒井康隆 |
怪物たちの夜 |
2007
3/8 |
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30年前の自分の楽しみは、この人の文庫本の出版と、中島みゆきのLPのリリースだった。文庫本にしては大きな字で読みやすいショートショート集。自選とあるように前に出版したものからチョイスしたもの。初期のものが多い。面白いがショートショートでは物足りない。筒井康隆さんは長編で、せめて短編でじっくり読みたい。(竹) |
つ |
都築響一 |
TOKYO STYLE |
2005
10/30 |
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東京の本当の生活を写真で紹介するもの。殆どが都心に住む人の狭い部屋の写真です。人は出てきませんがその生活が伺えます。第一刷は8年前です。自分も10年程前に1ヶ月位大田区の荏原製作所の寮の三畳一間に住んでいました。そして毎日京急で大鳥居から浅草橋の営業所まで通っていました。なんか寂しい生活でした。(竹) |
つ |
恒川光太郎 |
雷の季節の終わりに |
2021
1/31 |
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異界の里は冬と春の間に雷の季節があり怪しげな現象が起きる。現代日本とも繋がりがあり、選ばれた者だけが行き来している。両方の世界でストーリーは進み、後に合わさって行く。和風ホラーファンタジー。好きな小説では無いが間違って借りてしまった。嘘であっても理論的に成り立っているSFの方が理解し易いから好き。ファンタジーはあやふや。(竹) |
つ |
恒川光太郎 |
夜市 |
2012
10/19 |
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異界のものどもが店を開く「夜市」。入りこんだ者は何かを買わなければ出られない。幼い日に迷い込み出る為に弟を売って野球の才能を買った兄がまた訪れる。世にも奇妙な物語的な雰囲気。もう1編の「風の古道」の方が好き。人間には見えない道が日本全国に広がっていて人間以外が通る。宮崎アニメにありそうな話。第12回日本ホラー小説大賞。(竹) |
つ |
坪田譲治 |
子供の四季(坪田譲治童話全集第12巻) |
2014
11/15 |
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昭和13年新聞連載の作者の代表作。親類の讒言で勘当された娘とその夫は二人の子をもうけ故郷に戻り牧場を経営していた。最初は無邪気な子供の世界を描いているが、段々と大人の世界が入り込む。害をなす悪人が見事過ぎて行く末がどうなってしまうのかと読むのが苦しくなる。当時の世相も反映。自分は戦後生まれだが子供時代を思い出した。(竹) |
つ |
津村記久子 |
八番筋カウンシル |
2020
2/1 |
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つ |
津村記久子 |
アレグリアとは仕事はできない |
2014
8/17 |
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中編2作収容。表題作は、事務の女性が扱うプロッター(大型の複合コピー機のような物)が思うように動かないので擬人化して起こる(怒る)悲喜劇。アレグリアはプロッターの商品名。擬人化というより頑固なロバを動かそうとしているようにも見える。機械相手の「あるある」だなと思いながら感情移入していく。またもオイシイ小説を頂きました。(竹) |
つ |
津村記久子 |
婚礼、葬礼、その他 |
2014
5/27 |
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表題作のP83の中編ともう少し少ない「冷たい十字路」を収納。表題作は友人の結婚式の最中に会社の上司の親の葬式に引っ張り出され、理不尽な思いをしながらも凝縮した時間を過ごした女性の話。もう一篇は高校生の暴走自転車の事故を関係者がそれぞれに感じた事を話す。どちらも良く出来ているが表題作の方が適切な喜怒哀楽で好ましい。(竹) |
つ |
津村記久子 |
ミュージック・ブレス・ユー!! |
2014
4/10 |
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勉強も人付き合いも苦手な高3女子が好きなものはパンクロック。その高校生活の最後の1年を描いている。あからさまな恋愛話も無く輝いているとは言えない生活だが、性格や肉体的描写が読む自分を引き付ける。男や女の友人達との絡みも良い。やっぱり青春小説は良い。厚い本では無いとはいえ、久しぶりに1日で読了したほど面白い本だった。(松) |
つ |
津村記久子 |
カソウスキの行方 |
2014
2/11 |
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理不尽な理由で都心を離れ異動になった三十路前の女性。気を紛らわせるために好きでもない職場の同僚を好きと思い込んで生活する。仮想敵ならぬ仮想好き。他2編の短編を収録。独自の視点で都会生活の若者を描いているのは新鮮。だが主人公の生い立ちで中途半端な不幸の味付けは不自然で付け焼刃に思える。長編にした方が面白いのでは。(竹) |
つ |
津村記久子 |
君は永遠にそいつらより若い |
2013
12/5 |
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就職が決まっている童貞女子の最後の大学生活は物思う事が多い。人との係わり合いを正直にしようとして不器用になっている女子。明るそうに見えても芯には幼い頃から抱えてきたものを大事にしている。最初からスイスイと喉の渇いた時の水のように入ってくる。別題で太宰治賞、確かにこの表題の方が良い。芥川賞を取った作より断然面白い。(松) |
つ |
津村記久子 |
ポトスライムの舟 |
2010
12/17 |
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心身症を患った女性が母と暮らす家へ、夫から逃れ友人と娘がやってくる。登場人物は女性だけで、男は話の中で友人夫や勤務先先輩の浮気夫が悪い因子として表される。だからといって偏った物語ではなく、普通の暮らしがそこにある。波風の無い穏やかな暮らしがいつまでも続けばよいのにと思ってしまう。他1編。2008年下期芥川賞。(竹) |
て |
天童荒太 |
悼む人 |
2010
11/20 |
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人が亡くなると忘れ去られるのが悲しくて、自分だけは忘れずにいようと新聞の死亡記事をもとに全国を巡る男。職業でも宗教でもなく、家族から離れホームレスのような生活をしながら他人の死を悼む人を題材にした作者の力量が凄い。人の死は感傷的になってしまうが上手く抑えている。自分としてはもう一味欲しい。2008年下期直木賞。(竹) |
と |
富樫倫太郎 |
特命捜査対策室 警視庁ゼロ係 |
2022
1/20 |
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杉並中央署のゼロ係のシリーズが警視庁に舞台を移した。テレビドラマにもなって小泉孝太郎にカリカリする松下由樹が目に浮かぶ。ストーリーは大食い番組の不正と、20年前の殺人事件を捜査する。主人公の若い警部が空気を読めないという設定だがやり過ぎて人格的に異常者に見える。バラエティの大食いもキライ。表紙の絵も安っぽい。(竹) |
と |
富樫倫太郎 |
ブレイクアウト |
2020
4/26 |
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と |
富樫倫太郎 |
エンジェルダスター 生活安全課0係 |
2019
2/16 |
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現場を望み閑職で生き生きと仕事をするキャリア刑事のシリーズ。ユーモア警察小説だが、庶民の生活の悲哀も表現している。父母を幼い時に亡くしてグレた孫の失踪を始め、生活の身近に起きた事件を捜査する。警官である登場人物達もそれぞれが悩みを抱え、言葉はキツイが思いやる気持は持っている。優しい気持ちで読めるので好き。(竹) |
と |
富樫倫太郎 |
スローダンサー 生活安全課0係(4) |
2018
8/17 |
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エリート警官でも空気が読めず窓際のような部署に配属された青年。同じ課の叩き上げのベテランと組んで変な事件を解決するシリーズ。性同一性障害の女性が自殺したとされる事件の再捜査を依頼される。自身の家庭問題もあり深みを増し、ユーモアよりサスペンス寄りになっている。ただ後半の複雑さを表現する為の筋に現実味が薄いのが残念。(竹) |
と |
富樫倫太郎 |
バタフライ 生活安全課0係(3) |
2018
6/9 |
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6/5に借りた本(ロックンロールミシン)が既読なので借り直し。エリートだが変人の若い警部が事件を解決する、警察ユーモア小説の第3弾。今回はこの本の中でも連作短編となっている。今までと違うのは古い海外ポップス(フォーク)が味付けで出て来て、登場人物(警察署員)の身上が更に詳しく明かされるが、主人公の警部は未だに謎の存在。(竹) |
と |
富樫倫太郎 |
ヘッドゲーム 生活安全課0係(2) |
2018
4/8 |
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若いエリート警部が変人で、閑職の「何でも相談室」に出向。他の課では扱わない相談が持ち込まれる。生活安全課0係シリーズ2作目。高校生の自殺があり、家族から真相を調べるよう依頼される。同じ高校で3人の自殺者があり、本格的な捜査になる。この小説の雰囲気にしては死ぬ人が多い。それに、原因が普通に納得出来ない。1作目より落ちる。(竹) |
と |
富樫倫太郎 |
ファイヤーボール 生活安全課0係(1) |
2018
3/1 |
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若いエリート警官が現場を希望して、空気を読めない言い方で周りをかき回しながら事件を解決する。ヒマな部署を新設されクセのある人物が集められた。登場人物が多過ぎると思ったが、覚えるのが苦にならないほどスピード感があって面白い。固い頭の上司に直截的な言い方をして読んでいて爽快で溜飲が下がる。シリーズ物で次も読みたい。(竹) |
と |
飛浩隆 |
象られた力 |
2007 9/13 |
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この作家は始めて。古いSF読みの自分は新しい日本SFとしてはまあまあなんじゃない(二重否定)と思う。短編と中篇の作品集。「象られた力」は良くない。ミクロ的な人間の行動とマクロ的な星が消滅する災厄との隔たりがしっくり来ない。長編にしてふくらみを持たせたら良くなると思う。かえってステレオタイプのような「呪界のほとり」は楽しめた。(竹) |
と |
ドリアン助川 |
あん |
2013
12/5 |
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雇われ店長のどら焼きの店に、雇ってほしいと手の不自由なお婆さんが来る。店長はお婆さんが作った「あん」が美味しくて雇う。最初は旨いどら焼きで客が増えたが、お婆さんがハンセン病だったと知れて客が離れてしまう。ハンセン病の事も患者が隔離されていた事も知っていたが、安易な感想は言えない。読了後、また最初から読んだら涙が出た。(竹) |
と |
ドリアン助川 |
湾岸線に陽は昇る |
2013
4/10 |
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著者の他の小説が貸出中なので、小説と思って借りたのに読んでみたら自伝的エッセイ+詩だった。名前とガタイのデカイ強面お兄さんという印象だが、それにたがわず生き様(あえて使うが)も強烈のようだ。それほど退屈しないで読めたが、心を吐露する詩は他人のものでも気恥ずかしい。今年51歳になるが「叫ぶ詩人の会」はまだやっているのだろうか。(竹) |
と |
酉島伝法 |
皆勤の徒 |
2014
11/1 |
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地球とは似つかぬ惑星で爬虫類のような昆虫のような人間が繰り広げるアイデンティティのオムニバス物語。まず言葉攻めがスゴイ。雰囲気と圧力のある言葉を造語し駆使。表意文字と表音文字の混交の日本語ならでは。無理な漢字が取っ付き難いが読んでいるうちに慣れてくる。悲惨な状況でも同音異語がユーモラス。「百々似隊商」が良い。(竹) |
な |
な |
長浦京 |
リボルバー・リリー |
2019
3/1 |
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関東大震災直後の荒れた背景で若い女が数名の暴力団相手の乱闘シーンから始まる。火中の栗を拾って陸軍や暴力団を相手に個人で立ち向かうには無理があるとハラハラ。題はサスペンス小説のようだがハードカバー500ページ近くある堂々たる大正末期の歴史小説。主人公の女性は冷徹という設定だから感情移入出来ない。でも面白かった。(竹) |
な |
中川靖蔵 |
女性技術者の現場 |
2005
10/18 |
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理系を選んだ女性の就職先と仕事の紹介。ただそれだけ。面白くもなんともない。これが新聞のコラムで一週間に一回見させられるのなら納得も出来るが、これだけ集められると詰まらないが先に立つ。血の通わないただの聞き書き。(梅) |
な |
中里恒子 |
時雨の記 |
2006
2/4 |
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40代の女と50代の男の純愛の話。そういう年代だからこそプラトニックラブにもなるのかも。明治生まれの作者が描いた男の理想像か。この中の男を見ているとやっぱり男は仕事が出来て一人前かと思ってしまう。自分はこの年まで何をやって来たのかと自己嫌悪に陥る。女に惚れる又は惚れられるには資格がいる、か。(松) |
な |
中島らも |
寝ずの番 |
2019
4/13 |
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9編の短編集でも230ページなのでそれぞれが小品で読み易い。表題作はVまであって落語家一門の葬式の場面の話。師匠、一番弟子、師匠の奥さんと続く。Vが一番過激で猥歌ショーの感あり。それ以外は多彩でプロレス、演劇、性の目覚めなどだが、自身の聞き取りや経験を面白おかしく小説にしたようだ。なかなかの酒豪だったようだ。(竹) |
な |
中島らも |
白いメリーさん |
2018
3/10 |
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日常からの変異を題材にしたSF。筒井康隆風というと両者に失礼か。9編収録の短編集。「ガダラの豚」が面白かったので期待したが、短編なので重厚には仕上がらないのは仕方ないか。その代わり軽快な感じで読み易かった。「クロウリング・キング・スネイク」は現代版蛇女で脱力系の駄洒落もあるが面白かった。息抜きには良い小品集。(竹) |
な |
中島らも |
ガダラの豚(下) |
2015
4/5 |
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亡くなったと思われた娘は邪悪な呪術師に囚われていた。娘を奪還したものの大勢の人が死ぬ。何とか日本に帰り着くが呪術師が追ってくる。後半はサスペンス盛り上がり放題。呪術師は先端医療や薬物、微生物にも精通。オカルトなのかインチキなのかはもうどうでも良くなる。どうなるかという結末は反則気味の気もしないではないが文句無く面白い。(松) |
な |
中島らも |
ガダラの豚(上) |
2015
4/5 |
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アフリカ呪術医の研究者の大学教授はオカルト番組で知り合ったマジシャンに妻が洗脳された新興宗教の相談をした。オカルトを知識として知る事が出来る小説だが、小説自体もエロがありバイオレンスがあり面白い。後半は大学教授が家族とテレビクルーと7年前に娘を亡くしたケニアに行く話。アフリカの実情と呪術医の真実など興味深くページが進む。(松) |
な |
中島らも |
今夜、すべてのバーで |
2006
3/2 |
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作者の経験を基にしたアル中の実態を描く小説。自分も成人してからは殆ど毎日飲んでいたので他人事ではない。しかし自分はアル中ではない証拠に、飲むたびに何とか工夫して美味い酒を飲もうとしている。酔うため(逃避)に飲むようになるとアル中の第一歩らしい。アル中を予防するための啓蒙書ではないので切実さが無いが、面白い。(松) |
な |
なかにし礼 |
長崎ぶらぶら節 |
2008/
12/2 |
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大正の御世に、大店の身代を食いつぶした地元の文学者と、それに惚れた大年増の丸山芸者が、埋もれ消えようとする歌を採取し、今では長崎を代表する民謡を発掘して世に送り出した話。半島が縦横に連なったような独特な長崎らしい風情をもっと描いて、長崎人の住む街の魅力を出して欲しかった。1999年下期直木賞(竹)。 |
な |
長野まゆみ |
野川 |
2011
8/2 |
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裕福に育った少年が父親の会社の倒産と離婚の末、父親とともに武蔵野の町に越してくる。そこで通う中学校での自然と鳩をつづった小説。まず感じたのは会話が硬いし、情景も悪くはないが少し硬いしありきたり。情感を押さえて涼やかな感じを出そうとしているのだろうがただ薄い感じ。主人公の少年は少女と言ってもいいほど少年らしさがない。(竹) |
な |
中原昌也 |
あらゆる場所に花束が…… |
2008/
11/13 |
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長編といっても文庫本で161ページの短さ。それなのに始まりも結末も無いような短い話がオムニバスに次々と出てくる。皆少しずつ関連性があるがそれがどうしたというとどうもしない。内容は不道徳で退廃的で悪意ある人達がそれを悪いとも普通とも何とも思わず生活している風景。新しい都会小説か、違うか!なぁ。(竹) |
な |
中村航 |
リレキショ |
2011
1/27 |
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ニセの弟がニセの姉に名前を付けられ同じマンションに暮らす。弟はガソリンスタンドの夜勤で風変わりな少女と知り合う。姉の女友達もからみ、穏やかでゆったりとした空気が流れる。時にユーモアが生まれ交わす言葉のやり取りにもくすっと笑ってしまう。他人なのに生存競争のない草食系の人達の心温まる物語。第39回文藝賞。(竹) |
な |
中村文則 |
土の中の子供 |
2007 12/15 |
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悲惨な境遇の為に生きる力を失った男が、同じような女と一緒に住む。死のうとするが中々死に切れない。他動的に死ねる情況の中、突然生きようとする思いが目覚める。最初から題名の意味が分かる小説もあれば、この作品のように途中から分かる事もある。でも、本当の意味は最後になって分かる。他にもう1編収録。芥川賞受賞は妥当だが、(竹) |
な |
中山可穂 |
白い薔薇の淵まで |
2018
6/14 |
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女性会社員が若い女性作家と知り合い、すぐに性愛の関係になる。長く付き合った優しい男もいたのに。求められ応えて際限の無い深まりに落ち込む。世間に秘めた事よりも、破滅的で過剰な愛が苦しくなり、別れたり戻ったりを繰り返す。幸せな結末になるはずが無い。人は情熱を傾ける対象をどうやって見つけるのだろう。研ぎ澄ませているのか。(竹) |
な |
中山可穂 |
ゼロ・アワー |
2017
9/12 |
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両親と弟を殺された少女は、祖父に引き取られアルゼンチンに渡る。10年が経ち少女は殺人の技を教え込まれ復讐の時を待つ。日本人の殺し屋という現実離れした素材のせいか、物語に入り込めなかった。シリアス路線なら殺し屋にもっとクールさが必要。結末もクールではなく、続編を予感させる嫌らしさがある。既存の殺し屋物語をなぞっているだけ。(竹) |
な |
中村融他編 |
20世紀SF@1940年代 星ねずみ |
2021
6/26 |
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SFの巨匠の作品が11編収められて、制作年は1940年代だが翻訳が新しく古さを感じさせない。多様なジャンルを取り揃えている。殆どの作品の読後感はペーソスを感じさせる。主人公が動物であっても機械であっても、手に届かず或いは無くしてしまったものが哀れを誘う。それが昔のSFの主流だった気がする。それでSFを好きになったのかも知れない。(竹) |
な |
南木佳士 |
阿弥陀堂だより |
2006
3/29 |
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この小説については、この題の映画を長野の飯山市で撮っているというニュースから知った。それぞれ血の繋がりが無いお婆さんと中年夫婦と若い女の物語。お婆さんを北林谷栄がやっているというだけで名作のような気がするので映画も見てみたい。ハッピーエンドと言う訳ではないが読者を無理に悲しませない結末はほのぼの。(竹) |
な |
梨木香歩 |
海うそ |
2016
4/24 |
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昭和初期に大学の研究者が南九州の離島を訪れる。信仰の島であったが明治初期の廃仏毀釈で荒らされた島であった。研究者は不幸続きの自分の身の上から島に愛着を感じる。50年後に研究者は巡り合わせから島を再訪する。小説として構築された世界は緻密でリアル。そこに情念ともいうようなノスタルジックな色調が流れている。表題は蜃気楼の意。(竹) |
な |
梨木香歩 |
冬虫夏草 |
2015
11/19 |
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家守綺譚の続編。相変わらず京都の亡き友人の家に住む小説家が、飼っていた犬を探して能登川まで汽車で行き。愛知川を遡り鈴鹿山地まで旅する。近代と古代の境のような時代に、人間の形をした人間で無いものとの交わりを描いた和風ファンタジー。この味は並みの作家ではなかなか出せない。地名がよく出るので地図を見ながら読み進めた。(竹) |
な |
梨木香歩 |
雪と珊瑚と |
2015
5/4 |
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21歳で離婚し1人で子供を育てる女性が、周りに助けられ試行錯誤しながら、食の店を立ち上げる。母性を持たない母親との葛藤、自分の境遇を甘えそうに思う恐れ、他人の正や負の評価の中で成長していく若い女性の物語。この作者だから小説の骨格はしっかりしているが、作者がこれまでに取り上げたものが色々入り過ぎて散漫な感じがする。(竹) |
な |
梨木香歩 |
僕は、そして僕たちはどう生きるか |
2015
3/8 |
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中学生の少年は登校拒否をするかつての友人と再会する。友人の問題から個人と社会の関係を考える。社会的に見て世間の危うい動静や、個人的には巧妙な手口の誘惑などの対処、自然が荒廃するのを看過する人達、性差別もある今の社会の現状を自分の問題として考える。正しくという不寛容な方法より、現実的な誰にも比較的良い方法を探す。(竹) |
な |
梨木香歩 |
渡りの足跡 |
2015
1/25 |
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渡り鳥の自然観察で北海道を初めとして日本各地や沿海州までを巡る筆者の、鳥だけではなく植物にも造詣の深い博識のエッセイ。人間も自然の一部、戦前にアメリカへ渡った移民の苦難も描いている。今回は出てこなかったが、カヤックも操る筆者の行動力は見習いたい。好きだから或いは仕事という理由だけでは出来ないのめり込み方は凄い。(竹) |
な |
梨木香歩 |
f植物園の巣穴 |
2014
10/18 |
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園丁を職業とする男が新しい植物園に移って人間が犬や鶏の形に見えついには自分も幼時の頃に戻り不思議な体験する。陽性の怪異談。緻密に組み立てられ結末までを見事に描ききっている。時代は言い回しから大正か昭和初期のよう。夏目漱石風な筒井康隆と言っても当らずといえど遠からずか。作者得意の植物談には辞書を見ながら読む。(竹) |
な |
梨木香歩 |
水辺にて |
2014
8/30 |
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カヌーをする筆者の水との係わり合いを書いたエッセイ。イギリスや北海道そして自宅のある近畿での事が書かれている。電動ウインチを備えた車でカヌーを積んで国内を走り回っているらしい。意外に行動的だ。現地名はイニシャルで書かれているので分からないが尚更知りたくなる。登山と違い道が無いから自由だが危険な目にも遭っているようだ。(竹) |
な |
梨木香歩 |
沼地のある森を抜けて |
2014
8/1 |
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叔母が亡くなり「ぬか床」を任された女性は幸薄かった家族を思い起こす。物語は章が変わる毎に妖怪やファンタジーの要素を加え酵母や菌の化学的な話になり更には異端の祖先の話から宇宙的なスケールの生命の秘密に至る。多様なアイディアと表現を取り入れ、文庫本でも500ページの大作。相変わらず小気味好く、読んでいて楽しい。(竹) |
な |
梨木香歩 |
ぐるりのこと |
2014
4/22 |
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10年前に上梓されたエッセイ集。表題にあるように自分と周りの事が書いてある。起きた事件について、中心と境界、個と集団、日本と世界を考えに考えて結論を出そうとしている。その真摯な姿勢は作品にも表れ共感出来るものだ。自分も無力感に襲われて逃げている最中だが、代弁して貰っているように感じる。それで終わってしまう自分。(松) |
な |
梨木香歩 |
村田エフェンディ滞土録 |
2014
3/2 |
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明治の世に考古学専攻の男子がトルコのイスタンブールに留学する。東洋と西洋の交わる地での国も宗教も違う人たちとの交流。これこそ物語だという見本のような小説。時代の流れの中の夫々の国、個人の考えと行動、アクセントとなる鸚鵡。全てが過不足無く融合して感動を味わった。最後に前作の人物が登場するのも面白い。作者は物語職人だ。(松) |
な |
梨木香歩 |
家守綺譚 |
2014
1/25 |
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亡くなった友人の家族から家の管理を任された青年小説家が遭遇する魑魅魍魎との付き合いを描く。時と場所は明治後期の京都近郊。人物の気質も言葉も明治風によく作り込んであり、まるで夏目漱石の文学世界のよう。現実とは遠く離れた物語だが、この作者はこういう話も書けるのだと感心した。ホワッとしたユーモア小説で心が和んだ。(竹) |
な |
梨木香歩 |
春になったら莓を摘みに |
2013
11/17 |
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小説と思って借りたがエッセイだった。しかしこの人のエッセイは小説のように面白い。英国での下宿先の女主人が生き生きとして、不完全な部分も含めて理想的な人間に見える。この面白さは、筆者の深い観察力(洞察力と言ってもいい)と繊細な描写力、何よりもその行動力が根本にあるのだと思う。翻ってみて物事の表面しか見えない(見ない)自分を反省。(竹) |
な |
梨木香歩 |
りかさん |
2013
10/3 |
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意思を持つ人形のりかさんを主題にした、時間的に「からくりからくさ」以前の2編と「からくりからくさ」の後の3人の生活の断片を収める。この作品もオカルト的になりがちな材料をファンタスティックにみせる作者の技量に感服。いたいけな人形に感動も覚える。この作品も人物、背景、小道具が過不足なく散りばめられ、新しいジャンルを切り開いたと思う。(竹) |
な |
梨木香歩 |
からくりからくさ |
2013
8/25 |
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祖母が暮らしていた古民家に孫が住み、染めや織りを志す若い女性達が集う。祖母が大事にしていた人形が招いたように、少しずつお互いの繋がりや人形の由来が分かってくる。相変わらず緻密な筋書きや人物形成が色濃い雰囲気を出している。男では書けない雰囲気を持った小説。自分はニュートラルな視点が好みだが、この女性らしさは嫌いではない。(竹) |
な |
梨木香歩 |
丹生都比売(におつひめ) |
2013
7/7 |
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大海人皇子が出家し、吉野にこもっていた頃の生活を、その子の草壁皇子の目で描く。後の天武天皇と後の持統天皇の間に生まれたにしてはひ弱な草壁皇子。優しくて運命には逆らわずに生きた飛鳥男子。年表を見ると現在に比べれば人の寿命は短いが、特に男子は短い。命短し恋せよオノコだったのか。筆者はその儚さに惹かれたようだ。小品。(竹) |
な |
梨木香歩 |
ピスタチオ |
2013
1/8 |
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女性ライターの愛犬の病気、無くしたはずのアフリカ民話の本の出現、亡くなった知人の呪術医の記録の本との出会い、出版社のアフリカ取材の依頼と、女性ライターは見えない力に導かれてウガンダにやってくる。今まで読んだ作者の作品に共通の精霊の存在が芯にある。サスペンス的な筋もよく出来ていて、成るべくして成る結末は自然で好ましい。(松) |
な |
梨木香歩 |
エンジェル エンジェル エンジェル |
2012
9/8 |
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少女と少女の頃に戻ったようなおばあちゃんと熱帯魚の話。少女とおばあちゃんはキリスト教系の学校にいた。少女とおばあちゃんが少女の頃の話が交互にあり、おばあちゃんの話は旧仮名遣いや古風な言い回しで分けている。ページ数が少なく中編といったボリューム。作者の得意な心のふれ合いが語られる好ましい小品。(竹) |
な |
梨木香歩 |
裏庭 |
2012
2/9 |
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幼時に荒れた洋館で遊んだことのある少女は悲しい過去があった。あるきっかけから、現実の世界から妖精の住む世界へと転移する。異世界では混乱が起き、少女は混乱を収めようと力を尽くす。二つの世界を平行させて描く手法は村上春樹でもあったが、こちらの方が人間を暖かく見ている。人間を見放していない。人間の再生力を信じている。(松) |
な |
梨木香歩 |
西の魔女が死んだ |
2012
1/17 |
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外国から来て日本人に嫁いで老年となった女性と孫娘の交流を心豊かに清らかにユーモアも散りばめ描いている。自然に泣ける小説。自分の涙で自分の心が洗われるよう。最初から結末を予感させる題名で、筋運びが難しい所だが難なく最後まで読ませるのは見事。映画を先に見たが小説に忠実。逆に言えば小説が映像的。(松) |
な |
梨屋アリエ |
スリースターズ |
2022
10/8 |
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七章から成る女子中学生の軌跡。それぞれの親による影響でそれぞれの学校で疎外された三人が偶然から巡り会う。死ぬ相談が更に発展する。勧善懲悪の物語では無いからこそ現実に近い。それぞれが段々目覚め、気付いて行く。フリガナが多いので少年少女向けだろうが、大人にも読み応えがあり面白かった。続編があれば読んでみたい。(竹) |
な |
夏石鈴子 |
新解さんリターンズ |
2010
5/8 |
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「新解さんの読み方」の続編。2004年11月に六版が出たので前の版との違いを著述。要するに「新解さん」という新明解国語辞典がボケて著者がツッコむという漫才。冷ややかに流したり、或いは同感したり、著者の経験を披瀝したりが面白い。著者のツッコミに読む方でもツッコンでしまったりする。批判精神を養うのに良いのでは。(竹) |
な |
夏石鈴子 |
愛情日誌 |
2009
10/14 |
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この人の小説は安心感があって好き。華々しい所や凄い所や驚く所は無いが詰らない小説や小難しい小説を読んだ後には、失礼だけど口直しになる。短編3作のうちの2作は30代の女性が仕事を持って子供を愛して家庭も切り盛りして夫を元気付ける物語。読むと、マンネリになった夫婦生活でもそれでいいじゃないと思える平常心が貰える。(竹) |
な |
夏石鈴子 |
新解さんの読み方 |
2009/
8/4 |
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三省堂の新明解国語辞典を深く読み込み紹介する本。メインの編纂者の考えだけでなく編集者チームの総合した思いが入っているので、作者はこの辞典を擬人化して「新解さん」と呼ぶ。版が変わるたびに変わる訳や増える言葉無くなる言葉が時代の流れを表して面白い。テーマの決まったエッセイ集というところか。うちのは岩波だったので残念。(竹) |
な |
夏石鈴子 |
家内安全 |
2009/
3/27 |
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女性一人称による短編集。独り言が延々と続くような構成は普通は嫌いだが、飽きさせずに先に先にと最後まで読ませる文章力がある。主人公の職業はそれぞれ違うが性格は同じ。群れるのが嫌いで、シニカルで、セックス好き。多分作者を反映しているのだろう。結婚や家庭や男に惑う30代の女性の生態を描いている。(松) |
な |
夏石鈴子 |
バイブを買いに |
2007 11/11 |
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女の性を赤裸々に(陳腐な言い方)描く短編集。悲しさ侘しさが漂うのは昭和私小説風。各短編を読んでいてページ左の空白を目の端に捉えると、もう終了かと読む自分は身構える。読む側にそんな気を使わせない為?か、めくったら空白のページで話は終わっていたという短編が2作ばかりあった。筋でも物理的にもカットアウト。そんな話も良い。(竹) |
な |
夏川草介 |
神様のカルテ3 |
2013
9/14 |
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ドノソを読むには努力をしたが、努力をしてまで読む価値は無いと放棄。その口直しに借りたのが松本の病院の物語。いつもの登場人物の清清しい懊悩が良い。3作目だがその真摯さと諧謔も好調。時系列で五話から成り立っているが、全てはこの五話目に向かって収束されて行く。連作の中では一番良かったと思う。ドノソの口直しには勿体無い。(松) |
な |
夏川草介 |
神様のカルテ2 |
2012
12/19 |
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今年の3月に読んだ「神様のカルテ」の続編。松本市の24時間365日対応の総合病院を舞台にした医療小説。やはりテーマは「死」だが医者への過負荷も描く。漱石を敬愛する主人公の硬い口調が良い。善人ばかりの小説世界だが悲しい事は起きる。それを乗り越えて、人は現実世界でも強くなって行くのだなと思った。じんわり心と目の奥が暖かくなる。(松) |
な |
夏川草介 |
神様のカルテ |
2012
3/2 |
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長野県の民間病院に勤めて5年目の医師の日常を綴った人情ユーモア医療小説。連作として3話を収録。作者自身も医師なので内容がリアル。医療を施す側にも受ける側にもある深刻な問題を古風な固い文体が逆に柔らかくして読むものに受け止めやすくしている。小学館文庫小説賞。2011年に映画化もされている。続編もある。(松) |
な |
縄田一男 編 |
関八州の旅がらす |
2005
4/26 |
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江戸時代のやくざ渡世の話。時代小説の大御所の短編の編集本。村上春樹や村上龍より面白い。浪曲や落語の人情話を聞くみたい。さすがに直木賞をとった作家が多く、読ませる。面白くなければ直木賞じゃないよね。昨今の直木賞はどう? |
に |
西加奈子 |
地下の鳩 |
2016
8/17 |
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大阪の繁華街で働く男や女を描写。中篇と短編を収め、主人公は違うが同じ人物達が登場する。キャバレーやゲイバーの内情や客の嗜好等を作者は勉強したのだなとは思うが、水商売に落ちた?人達の原因が在り来たり。それでも結末は決定的には落ちて行かないのは自分には有難い。深夜ラジオに出ていた作者の饒舌な関西弁を思い出す。(竹) |
に |
西加奈子 |
さくら |
2016
1/8 |
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父母、祖母、三人兄弟と犬の成長と懊悩の物語。登場人物全てにキャラが立ち、早い段階で亡くなる祖母も例外で無い。さくらは犬の名前(サクラ)で、犬も重要な登場人?物。エピソードも練られ、とても濃い物語。その割りに作為感が無くスムーズに読めた。容態が悪くなった家人のベッド脇で読んでいて、多少は心が落ち着いた感じがする。(松) |
に |
西加奈子 |
あおい |
2015
2/14 |
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アルバイトしている女性は好きな男や友達はいるが人付き合いが下手。後悔する事が分かっていてそっちの方に舵を切る破滅指向。27歳になるのに自分の気持ちを弄んでいつまでも子供のよう。レイプされた経験があるがそれが原因とも思えない。淡々とした筋立てで自身に劇的な事が起きても変わる様にも思えない。もう1編収容の短編の方が好き。(竹) |
に |
西加奈子 |
ふくわらい |
2015
1/14 |
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出版社で編集者として働く女性は幼少期に探検好きな父と世界各地を周った。性格は世間離れしているがコミュニケーションをとるのに問題は無い。女性も含め特異だが魅力的な人達を描いている。表題と結末は感心出来ないが、そういう不完全さも含め荒削りな面白さがある。別の作品でついこの間直木賞をとった。又一人好みの作家を知った。(松) |
に |
西村健 |
バスへ誘う男 |
2020
10/3 |
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に |
西村健 |
バスを待つ男 |
2017
6/21 |
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東京都内なら公営民営のバスが乗り放題というシルバーパスを買った熟年男が、思い入れのある都内各地を巡る。軽い謎解きのある8編からなる。男の妻が冴えていて謎解きをする。男は元刑事というが勘が悪く、設定を間違っていたように思える。東京の地理は詳しく無いので、パソコンを開いて地図を見ながら読んだが、東京の大きさが分かる。(竹) |
に |
西村賢太 |
苦役列車 |
2012
11/1 |
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親が犯罪者である事で向上心を無くし、中学卒業から日雇い労働で生活をする若者の鬱屈を描いている。作者は40代にしては使う言葉が古風で難解で文語体のよう。読めない漢字が出てくるが、読み難くは無い。いまどき珍しい私小説というが確かにその雰囲気は出ている。表題作は中編で、小説家となった最近の短編を含む。2010年下期芥川賞。(竹) |
に |
西村淳 |
南極面白料理人 名人誕生 |
2013
3/20 |
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南極観測隊の第30次と38次に参加した筆者。南極関連では4作目となるが、今まで書いてこなかった隊員に決まるまでなどをかき集めて本にしたという感じ。新しいスタンスのものでは無いが楽しめる。南極観測隊という寄せ集めのグループで部署が違えば役人と役人の間でも軋轢が出来るという。それを一般人に向けられたらと思うと役人は怖いという感想。(竹) |
に |
西村淳 |
南極面白料理人 お料理なんでも相談室 |
2012
12/19 |
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シリーズ3作目。読者からの無理難題?のメールでの質問にオヤジくさいユーモアを交えて答える、一問一答の料理レシピ。さすがに南極での経験を基にした料理は面白い。まったく料理をしない自分でも作ってみたくなる。買って手元に置いておきたくなる本。北海道では大泉洋に次ぐ有名人という。退官してもタレントとしてやっていける。(竹) |
に |
西村淳 |
面白南極料理人 笑う食卓 |
2012
12/11 |
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南極観測隊に2度参加した著者の「面白南極料理人」の2作目。今回は料理をメインにレシピも付いている。南極での料理といっても日本の一般家庭でも出来る創作?料理。キャベツと豚バラのキャバラ鍋は簡単そうで自分でも作れそう。料理って想像力と探究心だとこれを読んでそう思う。漫画化すると面白いものが出来ると思うがネタが古いか?(竹) |
に |
西村淳 |
面白南極料理人 |
2012
11/16 |
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久しぶりのノンフィクション。しょこたんがラジオで薦めていたので読んでみた。南極内陸標高3800mの高地のマイナス70℃で食材が凍る中でも料理を工夫するシェフが著者。苛酷な環境での9人だけの生活で色々な人間模様が出ていて超面白い。それにしても酒も含めて食材だけは豪華だ。食欲しか発散するものがないからだろうな。続編もある。(松) |
ぬ |
貫井徳郎 |
壁の男 |
2018
4/26 |
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関東の鄙びた町が家に描かれた稚拙だがカラフルな絵で有名になる。ノンフィクションライターの取材が導入部。物語は絵を描くようになった男の半生に深く入り込んでいく。ライターは男を探るが観光客の目線でしか捕らえきれない。最終章が駆け足になった感があるが、感情を抑えた表現が却ってこちらの感情を揺さぶったのは個人的な理由か。(松) |
ぬ |
沼田まほかる |
九月が永遠に続けば |
2012
10/6 |
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主人公は夫の都合で離婚して高校生の息子がいる40代の女性。ある日突然息子が失踪し、愛人の男が死ぬ。複雑な家系と忌まわしい過去を持つ元夫の妻。他の登場人物もそれぞれが心の重荷に葛藤していて謎解きの鍵は曖昧で掴み所がない。カッチリした和風サスペンス小説。ただ結末はインパクトに欠ける。第5回ホラーサスペンス大賞作。(竹) |
の |
野崎まど |
タイタン |
2021
11/13 |
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近未来に大規模なAIが生まれ、労働もAIが動かす機械がしてくれる。それから150年経ち、人は仕事をしないのが普通の世界でAIが不調になる。趣味で心理学を学んでいる女性がAIのカウンセラーとして召集される。ユートピアみたいな世界の成り立ちが不明瞭で夢物語に思える。情緒的なSFは好きでは無い。理論的に騙して欲しい。(竹) |
の |
野崎まど |
WELLO WORLD |
2020
10/16 |
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の |
野尻抱介 |
太陽の簒奪者 |
2004
11/6 |
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れっきとしたハードSF。本当は面白いSFを探し続けています。求め続けています。だから評価は厳しくなってしまうのはしょうがない。読んでいる時は評価しようなんて思わなかったから没入できたと思う。だから及第点。 |
は |
は |
萩原葉子 |
蕁麻の家 |
2020
7/26 |
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|
は |
橋本治 |
生きる歓び |
2004
12/7 |
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桃尻娘は連想させない短編小説集。「ん」で終わる題名だけなのでちょっと話題になった。最初は暗い事を淡々と語っているので、滅入るなぁと思ったが最後まで読み通すと味がある。 |
は |
蓮見恭子 |
拝啓 17歳の私 |
2022
6/25 |
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家が道場で空手に励む女子高生双子の挫折や恋もある光と影を描く。SNSでの成りすましで悪評が広がり犯人が分からず疑心暗鬼で友達付き合いもギクシャク。読者を惑わす言葉選びは面白くは感じない。小手先のサスペンス気分。表紙に解説を貼り付けるのは装丁者に対する侮辱。本を読む上でも蛇足。それを図書館員がやるのか。(竹) |
は |
蓮見恭子 |
ワイルドピッチ |
2015
5/28 |
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夏の甲子園に青春を賭ける高校球児とその家族がいて、平行して身元不明の遺体の捜査が進行する。これを原作に無難な2時間ドラマを作る事は出来るだろうが、小説としてはイマイチだ。自分の嫌いな和製ミステリーの詰まらなさがある。筋書きも題材も筋運びも目新しさが無い。配役でも誰が主役か分からないし、魅力も足りない。悪役も中途半端。(竹) |
は |
蓮見恭子 |
無名騎手 |
2014
10/4 |
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女性騎手が撮されたネット動画を皮切りに身近で不審事が続く。競馬新聞を印刷する会社の女性の身にも不可思議な事が起きる。ついには殺人事件が起きる。出だしは良いが筋の流れがスムーズではなく、エピソードが唐突で伏線が曖昧。最後に会話で説明するのは下手の骨頂。和製競馬ミステリーだがフランシスには遠く及ばない。(竹) |
は |
蓮見恭子 |
女騎手 |
2013
6/28 |
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和製競馬ミステリー。若い女性ジョッキーが不自然な落馬事故や時を同じくして起きた傷害事件を調べる。競馬といえばフランシスだが、競馬界の内幕をさらすというのも、騎手が事件を調べるというのもおなじなのに、雰囲気はミステリーというより中間小説で下世話的。TVの2時間ドラマでの既視感がある。日本の競馬といえばこうなんだろうなと無理に納得。(竹) |
は |
長谷敏司 |
My Humanity |
2021
6/26 |
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著者の最初の作品集。4編それぞれの構築された世界が面白い。好みは「Hollow
Vision」。宇宙を舞台にしたサスペンスが好き。ナノマシンの暴走を描く「父たちの時間」は新型肺炎の現在を象徴しているようだ。ナノマシンが霧となって現れるが、新型肺炎のウイルスも目に見えれば人々の対応も違ったかもと思う。英字の作品名はとっつき難い。(竹) |
は |
長谷敏司 |
あなたのための物語 |
2015
11/5 |
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頭脳に組み込むことでその人の経験値を飛躍的に増大する人工神経の研究をしていた女性が30代という若さで死病の宣告をされる。社内での孤立の中、研究目的の人工知能との対話が生きる糧になってくる。近未来というSFの形をとっているが、内容は純文学のようだ。劇的な場面はなく内省的な内容。それでも個人の死というものに迫っている。(竹) |
は |
羽田圭介 |
スクラップ・アンド・ビルド |
2021
1/13 |
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求職中の28才男子。母と暮らす家で、死にたいと言う祖父の面倒をみる。祖父の意を汲み取り、緩い自然に近い自殺幇助を手助けする。そこから他人の真意とはを考える。ハードカバーだが121ページの小編。作者はテレビのバス旅で知っているが、この作品で芥川賞を取った。平穏なストーリーで、結末もアッサリしている。何か物足りない。(竹) |
は |
林真理子 |
愉楽にて |
2021
12/9 |
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家柄が良く、高学歴で高収入の五十代の男。大学で知り合った二人だが生き方は違う。仕事よりも人生を楽しむ男と、正直だが気が弱くて流されてしまう男。金持ちの男の生態を描く。作者は本当に面白い小説を書く。昔にテレビで愚かな事をやっていた人とは思えない。テレビの魔力なんだろうな。テレビに出なくなってから能力が開花したのか。(竹) |
は |
林真理子 |
素晴らしき家族旅行 |
2021
7/10 |
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別々に住む四世代の家族の三世代目の夫婦が主人公。祖母の介護を孫の嫁がするという不自然な状態。しかも結婚を母親に反対された過去がある。この夫婦が親の家に子供を連れて同居して通いで介護。理性では割り切れない家族の関係を面白可笑しく描いている。上下巻の文庫は貸し出され壊れかかった単行本を借りた。1993年の新聞小説。(竹) |
は |
林真理子 |
葡萄が目にしみる |
2016
8/28 |
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葡萄農家に生まれた少女を主人公にした青春小説。器量に劣り勉強も出来る方でもなかった少女の親や親類友人そして気になる少年との微かな交情を描く。結末は大人になってからの再会だが、どういうものになるのか想像がつかなかったが、なるほどと納得。作者は以前は評判の良くない形でマスコミに登場したが、小説家としての大成を実感。(竹) |
は |
原宏一 |
床下仙人 |
2008 9/26 |
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肩のこらない中間小説の短編集。表題作はやっと買った長距離通勤するマイホームの床下に仙人が住んでいることを発見する男の話。世相を反映しているが鋭くえぐるのではなく、淡くユーモアにしている。作者の経験も勉強も作品に反映されていない。作者の頭の中だけで出来た軽い小説。中間小説とはそういうものなんですか。(竹) |
は |
原田マハ |
楽園のキャンヴァス |
2019
5/6 |
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スイスのコレクターに招かれたニューヨークのキュレーターは同時に招かれた日本女性とアンリ・ルソーの絵の真贋判定で講評を競う。高額作品なので様々な思惑が入り乱れる。美術サスペンスというより美術のエンタメ小説。でも知識としても面白味が無いし、言葉の選択でストーリーを台無しにしている。山本周五郎賞というが美術が目新しいだけでは。(竹) |
は |
原田マハ |
キネマの神様 |
2017
8/2 |
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映画が好きな父親の影響を受けた娘が、映画施設に係わる会社を辞めて、今はジリ貧の映画雑誌での奮闘を描く。人物描写が薄いし、言葉の選び方も浅い。題名だってヒネリが無い。軽佻浮薄が言い過ぎで無かったとしたら、この作家とは相性が悪いのだと思う。2作目だがまだ真価が分からない。次は賞を貰った作品を読んでみよう。しばらくしてから。(竹) |
は |
原田マハ |
ジヴェルニーの食卓 |
2016
12/13 |
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新聞のエッセイでは知っていたが、作者の小説を始めて読む。これは4編を収める短編集。最初の「うつくしい墓」はマティスの晩年に雇われた少女が老いてからの回想を綴っている。巻末に参考資料として何冊も上がっているので史実を元にしているのだろうが、美術の門外漢としては小説としての面白さが少ない。解説を読んでいるようにも感じた。(竹) |
ひ |
東公平 |
升田幸三物語 |
2005
4/26 |
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ひと昔もふた昔も前の将棋指しの物語。今の「将棋の世界」を作った人たちの中で、一番個性的な棋士。日本将棋連盟の出版だけに巻末に棋譜がぎっしり。好きな人は並べてみて下さい。 |
ひ |
東野圭吾 |
名探偵の掟 |
2019
4/26 |
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本作は推理小説の形態を12章に分けた言ってみればパロディ小説。各章ではいかにもという名探偵と警部が推理小説の内幕を愚痴りながら犯罪の解決に至る。直木賞の「容疑者Xの献身」は自分も(松)を付けた。作者の小品と言うべきか。重い小説を読んだ後に、口直しとして軽い気持で読める。ただ独創性は無く誰かが書きそうな内容ではある。(竹) |
ひ |
東野圭吾 |
毒笑小説 |
2018
5/27 |
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「怪笑小説」に続く「笑い」をテーマにした12編の短編集。普通の部分を膨らませ極端にした笑い。アイディア的には思いつく(失礼)ものばかりだが、本職なのでちゃんと(失礼)商品にしている。気がふさぐ時に読むのに最適。中でも「つぐない」は好み。長編や連作にもなりそう。ただ、全体的にはエロスが足りないというか無い。この味付けは必要と思う。(竹) |
ひ |
東野圭吾 |
怪笑小説 |
2018
3/23 |
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9編の短編を収録。1作1作のキャラが立って、流石にミステリーの雄、というかこういうユーモア小説も書けてしまうのがスゴイ。「超たぬき理論」は、現実でもUFOを大真面目で語っているテレビ番組の出演者に対し、更に上を行くキャラを生み出し、皮肉って笑わせている。全作ともひねった筋立てではないが、しっかり出来ていて読み応えあって面白い。(竹) |
ひ |
東野圭吾 |
パラレルワールド・ラブストーリー |
2011
4/13 |
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パラレルワールドとあるが、SFでいう多次元世界ではなく、コンピューターで体験する仮想現実を題材にしている。コンピューターメーカーの研究員の男の生活が現実と空想の区別がつかなくなる。その原因には三角関係のラブストーリーが絡む。二つの話を平行して描くやり方は今までもあるが、技法的にも内容も新しさが無い。(竹) |
ひ |
東野圭吾 |
容疑者Xの献身 |
2010
10/28 |
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理数系の中年高校教師が子連れの中年女に恋をした。その女が殺人を犯し男はその隠蔽をかって出る。男は理数系の頭をフル回転させる。最後には自分が真犯人だと名乗り出る。報われない愛を貫き通す中年男の純愛物語。最後の謎解きが秀逸。事件の日付が無かったので変だと思っていたが伏線だったのだ。2005年下期直木賞。(松) |
ひ |
東山彰良 他 |
走る? |
2022
2/5 |
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薄手の文庫本に14人の作家の短編を収めている。「走る」をテーマにしているがストーリーはそれぞれに違うのは編集者によるのか。自分は走った事が無い。急いでいて走るというのもした事が無い。身体に負荷を掛けたのは60代の絶頂期に山の上りでだ。夏で汗はダラダラ呼吸は荒く、それでも止まらずに足を動かした。走るとはそんな感じか。(竹) |
ひ |
東山彰良 |
女の子のことばかり考えていたら、1年が経っていた。 |
2018
7/29 |
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福岡の男子大学生の恋愛事情の連作短編。女子に騙される愚かな男子という、ステレオタイプの物語で目新しさが無い。ただ、主人公二人が有象くんと無象くんと言い、他の登場人物も名は体を表すという逆の、体で名を表す新しい表現方法。ただそれで物語に入り込めるかと思ったが、軽くはあるが楽しめた。前に読んだ「流」とはエラク違う。(竹) |
ひ |
東山彰良 |
流(りゅう) |
2018
1/16 |
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第二次大戦の日本降伏後、中国本土で覇権を争って負けた国民党軍が逃げ込んだ台湾。敗走した兵隊というより山賊に近い祖父を持つ少年の青春物語。中国と台湾の歴史が背景にあり、少しは日本との係わりも垣間見えて興味深い。台湾出身の作者の父がモデルらしい。骨太な小説だが祖父が殺される理由付けが弱い。2015年直木賞受賞作。 |
ひ |
樋口明雄 |
風の渓(たに) |
2022
12/8 |
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南アルプス山岳救助隊K−9シリーズ。北岳に登るアイドルを狙うネット民の男と、山に馴染んで来た訳あり少年を連れ戻そうとする暴力団が物語の柱。山を忠実に描いているようだがフィクションだ。ストーリーや動機付けがステレオタイプで甘い。ただ読み易いし、ちゃんとクライマックスもあって盛り上がる。山地図を見ながら読めば面白いかも。(竹) |
ひ |
樋口明雄 |
ミッドナイト・ラン! |
2016
4/24 |
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自殺志願者達が丹沢の山奥で暴力団から逃げる若い娘を助ける。その後、悪徳警官から着せられた汚名を晴らす為に事件を追求して行く。ミニFM局や政治家を巻き込んでの大騒ぎとなる。視覚効果を狙ったロードゴーイングムービー風の小説なので分かり易い。練った筋書きでは無いのでB級の味がする。その代わりトントンと読み進められる。(竹) |
ひ |
樋口明雄 |
明日なき山河 |
2021
3/20 |
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親子で登山の途中で怪しい男達と女性のグループに遭遇。父は追い息子は警察へと下山する。自分も山に登るので山岳小説というものを読んでみた。架空の山らしいが、実際の山に設定した方が面白いと思う。校正をしていないのか用語や数の間違いがあった。表紙からもB級の香りが漂う。期待しない方が面白く読めるというもの。やはり荒っぽい筋。(竹) |
ひ |
姫野カオルコ |
昭和の犬 |
2021
11/13 |
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昭和33年生まれの女性の5歳から50歳までの犬を巡る物語。8編の連作長編。各編のタイトルが同時代人には懐かしい。家族の愛情は不足していても飼っていた犬や猫には愛情を貰っていた。世間的には幸せと思えない人生。自分を主張しない主人公が愛おしい。自分は犬とは縁遠かった。唯一は親戚の家にいた雑種のマルだった。(松) |
ひ |
姫野カオルコ |
受難 |
2005
7/12 |
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「お○んこ」なんて言葉が伏字も無く連発される。だからといって欲情する小説ではない。女が自分の「お○んこ」の脇に出来た人面瘡と語り合う面白悲しい話。ポエムだ。(竹) |
ひ |
平山夢明 |
ダイナー |
2015
10/22 |
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犯罪組織の殺し屋が利用する定食屋(ダイナー)にウエイトレスとして売られて来た女を主人公にした短編仕立てになっている。最初に女達が捕まった陰惨な場面とその後ダイナーでの変に情のある場面が一貫せず違和感がある。結局どの話もそこに行き着く。最初がハードボイルドだとしたら後は半熟卵でグズグズになっている。筋に荒さがある。(竹) |
ひ |
蛭田亜紗子 |
愛を振り込む |
2015
4/23 |
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20代後半から30代の女性が主人公の短編集。殆どが独身で一人暮らしの様々な生き方を見せている。表題作は、容姿に望みはなくホストに入れ込み会社の金を使い込んだ女性のその後を描いている。救いもないが、終末もない。このまま生きていくのだなぁと思わせる。イワユル等身大の彼女達がいる。全編、ネット社会の関わりが多くこれが今風。(竹) |
ひ |
蛭田亜紗子 |
自縄自縛の私 |
2013
12/28 |
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表題作の他に5編を収める短編集。表題作(改題)で女による女のためのR18文学賞大賞をとる。全編、変わった癖を持つ5人の女性が主人公。自分もゴムスーツを着てみたいと思う程エキセントリックな性癖の描写は良いが、それと同じ程度に人と人とのつながりが書けていればもっと面白くなったと思う。人間描写の厚みも足りないと思う。(竹) |
ひ |
平野啓一郎 |
マチネの終わりに |
2018
1/16 |
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天才的ギタリストと国際的な女性ジャーナリストが東京で出会って、お互いだけに感じるものを得る。結ばれるかに思えた二人は、悪意と偶然により引き裂かれる。ギターに限らず一つ一つのエピソードが深く人物形成が自然。自分には縁の無い世界の話だが、だからこそ小説として単純に没入出来た。新聞小説だが、やはりまとめて読めて良かった。(松) |
ふ |
深緑野分 |
ベルリンは晴れているか |
2020
7/26 |
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ふ |
深緑野分 |
20場のコックたち |
2018
11/7 |
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アメリカが参戦し南部の18歳の少年が入隊し訓練を受け、ドイツとの戦場に出て、戦争の悲惨さや理不尽さに衝撃を受ける反面、仲間との絆を得る。幾つかの章からなりそれぞれに小さなミステリーが組み込まれている。コックでも戦闘が主で調理シーンはあまり無い。史実を元にしているので資料文献は膨大で労作だと思う。久々に面白く3日で読了。(松) |
ふ |
藤井太洋 |
オービタル・クラウド |
2015
7/22 |
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スゴイの一語に尽きる。この大きなスケール感、それなのにこのリアル感。門外漢の自分にも分かった気にさせるストーリーテラー。日本を見限った男が北朝鮮に雇われて軌道上のデブリを使った陰謀を企てる。それに気付いた若者が狙われ、阻止する為にCIAやNORADと共に働く。読み進むのが勿体無いと感じるほど久しぶりに面白い小説に出会った。(松) |
ふ |
藤沢周 |
ブエノスアイレス午前零時 |
2020
4/4 |
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ふ |
藤沢周平 |
橋ものがたり |
2005
6/15 |
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しっとりとした時代小説。ちっぽけな個人を描く。木と土と紙の物語。みんな涙が沁みるもの。背景が現代なら、中島みゆきの歌が似合う。大きく歌い上げる歌ではなく、パーソナルな自分が好きだった初期の頃の歌が。 |
ふ |
藤沢周平 |
三屋清左衛門残日録 |
2005
1/12 |
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TVの原作でもよく目にする時代小説の第一人者。これもしっとりとした短編集。あまり時代小説は読まないがたまには良いかなと手に取った。和菓子とお茶の気分。そういえば今はなきジャイアント馬場も時代小説が好きだった。文庫本で買って読むと捨ててしまうといっていた。 |
ふ |
藤田宜永 |
愛の領分 |
2008 8/7 |
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初老の仕立屋に若い頃に一緒に遊んだ男が訪れる。東京と故郷を往復するうちに苦い愛の思い出が甦るが新しい恋にも出会う。「領分」とは領地、勢力範囲。相手に占める自分の範囲、自分に占める相手の範囲の事か?自分も同年代だが、老いらくの恋は気恥ずかしい。物語が長いが短くしてサラッと書いた方が親しめた。2001年上期直木賞。(竹) |
ふ |
藤野千夜 |
じい散歩 |
2022
4/20 |
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89歳の元建築会社社長。1歳下の妻もいる。子は50代男が3人未婚だがそういうものと達観。自分だけ気にすれば良い自由な生活。毎日長い散歩に出る。文中には実在の店やビルも出る。この時は健在だった中銀カプセルタワーは今年解体された。悠々自適な生活は身体が大事だ。自分もあやかりたい。解説の紙を貼るのは図書損壊だ。(竹) |
ふ |
船戸与一 |
虹の谷の五月 |
2008/
10/8 |
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フィリッピンでは武装ゲリラが横行し警察や教会も堕落し集落にも拝金主義がはびこる中で成長するフィリッピンの少年の生活を描く。一人称で説明的な筋が不自然。会話部分も誰がしても同じような受け答えで、「何が」「何を」と同じ返事が説明的で硬くて目ざわり。なぜか2000年上期直木賞(竹) |
ふ |
古川日出男 |
LOVE |
2009
5/1 |
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白金台などの品川区と目黒区と港区の境界付近を舞台にした東京の風俗を描く。実験的な一人称短編小説。学生や会社員、無職や暴力団の老若男女が登場する。猫も多数登場し、登場する人間も猫に興味を持つ。起承転結よりエピソード重視の風景と人間(記号的)と猫の小説。東京の地図を広げて読まないと地方の人間には分かり難い。(竹) |
ふ |
古川日出男 |
アラビアの夜の種族 |
2009/
3/12 |
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ナポレオンのエジプト遠征時、撃退する為に編纂された物語を主とした劇中劇の小説。魔術、お姫様、盗賊、砂漠、迷宮とまさに千夜一夜物語風。三つの物語の其々の主人公が最後に一同に会する。ユーモアがあり面白いが、それらしくしようとする単語の選択やふりがながわざとらしい。長い小説で持って回った言い回しもあるので根気もいる。(竹) |
ほ |
保坂和志 |
この人の閾 |
2005
8/18 |
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短編集で、表題作は芥川受賞作。毒も薬もない、悪人も善人もいない。普通の生活はそんなもんですよね。感情の高ぶりのないパーシャルな気持ちでスイスイ読める。だから最後まで行かないうちに論点を見つけましょう。(竹) |
ほ |
保阪和志 |
生きる歓び |
2004
12/7 |
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エッセイ風の小説。と本人は言っていた。初めてこの人の本を読むけど数々の賞を取った人なのね。猫の話ばっかりだと思っていたのに違っていました。猫の話はほかに出しているらしい。 |
ほ |
星野智幸 |
だまされ屋さん |
2022
1/20 |
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最初は柔らかくて強引な人物がウザイし詐欺に騙される老人の構図かと思った。前半は退屈に感じたが後半は結末が予想出来ず引き込まれた。家族それぞれから派生する物語が触媒を得て収斂して行く再生の物語。家族同士の傷つけ合いのシーンは自分が当事者なら何も言えないかキレるかしそうだ。これは一つのハッピーエンドなのか。(竹) |
ほ |
星野智幸 |
目覚めよと人魚は歌う |
2008 9/17 |
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伊豆の別送予定地の一軒家のログハウスに、空想癖のある中年女性とその子と大家の中年男が住んでいた。それぞれが寂しがり屋で対人関係が下手で、希薄な関係の生活をしていた。そこに暴力事件を起こした日系ペルー人とその恋人が逃げてくる。冒頭はインパクトがあるが言葉が硬くて作為的。だが全体に読み難くはない。2000年三島賞。(竹) |
ほ |
星野智幸 |
毒身温泉 |
2004
11/6 |
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題名と表紙でユーモア小説かと思ったら違っていた。変に理屈っぽいし、この人が自分の独自のものを捕らえて描こうとしてるのが分かるが、いまいち詰まらない。 |
ほ |
堀江貴文 |
成金 |
2018
9/11 |
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前作「拝金」以前の1990年頃の物語。IT産業の勃興期にのし上がったITバブル企業に戦いを挑む若者達。青春経済小説を意図しているのだろうが、青春の部分はそれぞれの性格描写が弱く、経済の部分は古臭く、暗躍する人物を不用意に信用してしまう所がうそ臭い。全240ページでは書き込みきれてないのだと思う。小説として面白味が少ない。(竹) |
ほ |
堀江貴文 |
拝金 |
2014
12/6 |
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フィクションとあるが、IT企業を起こし時代の寵児となって終には収監された著者の通った道をなぞる様に書いてある。虚実取り混ぜての小説で、300ページ未満だが1日かからず読了するほど面白い。自分は今でもこの人が起訴された事に納得がいかない。それまでほおっておいたグレーの部分を、権力者が都合のいいように黒と解釈したとしか思えない。(竹) |
ほ |
堀江敏幸 |
おぱらばん |
2008 8/20 |
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芸術家志望の若者の如くパリに住む日本人の男の私小説風の短編集。表題の「おぱらばん」はフランス語で、それを多用する東南アジア系中国人とのパリでの交流を描く。エッセイのように、パリでの生活を異国の小説、映画、音楽を交えながら静かに語る。庶民のフランス人や移民の生活、古いパリの街などを味わえる。1999年三島賞(竹) |
ほ |
本谷有希子 |
グ、ア、ム |
2023
2/25 |
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母と家を出た娘2人がグアム旅行。父は留守番。住む所が違い成田で落ち合う。無責任な姉と現実的な妹のソリは合わず、二人に気を使う母。グアムに台風が来たり、母が生理になったら妹もなる。初めての海外旅行が散々。旅行なんてそんなもの、家族もそんなもの。正面からぶつかれば新しい展開がある。孤独よりは良いと普通の人は思う。(竹) |
ま |
ま |
舞城王太郎 |
ディスコ探偵水曜日(下) |
2012
9/16 |
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意思があれば時空間を捻じ曲げる事が出来るという下巻は完全にSF。やっと主題が殺人事件などではなく主人公の本職の子探しと分かる。それが合法化した子供を食い物にした組織から子供を守るために、主人公は子供を誘拐する側になる。広げた大風呂敷がいよいよ閉じられ緊迫した結末に向う。これがマンガなら理解しやすくもっと面白いかも。(松) |
ま |
舞城王太郎 |
ディスコ探偵水曜日(中) |
2012
9/16 |
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中巻は主人公はそっちのけで名探偵達が次々と謎解きをして失敗し自殺?を繰返す。謎解きの上書きの繰り返しで混乱は必至。後半では無理だろうと思うような物理的に強引な仕掛も出てくる。それに魂の離脱やタイムスリップが出てくれば、読む方は物語の基準が何処にあるか分からず思考停止。謎解きはもう結構です、と思う頃主人公登場。(竹) |
ま |
舞城王太郎 |
ディスコ探偵水曜日(上) |
2012
9/16 |
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調布市在住の子探し専門の米人探偵が主人公。和製ハードボイルドと思いきや、幽体離脱や時間テレポーテーションがあり、上巻の最後には連続殺人事件現場に自称名探偵達が集まり謎解きが始まる。面白ければ何でもありを地で行く小説だが、グロい所はちょっといただけない。謎が多くこの時点で大風呂敷を広げるだけ広げているという感じがする。(竹) |
ま |
舞城王太郎 |
暗闇の中で子供 |
2010
6/2 |
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地方の政治ボスの家族の三男を主人公にしたオカルトバイオレンスサスペンス。暴力シーンの連続で嫌悪感を演出しているので迫力はある。小説としては、気を持たせた筋書きはハッキリしないし恋愛シーンはクドイので、もっとページ数を削ってスッキリさせれば娯楽小説としては面白くなると思う。「羊たちの沈黙」へのオマージュらしい。(竹) |
ま |
舞城王太郎 |
阿修羅ガール |
2008 2/13 |
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中学生女子が一人称でその恋愛を赤裸々に語るスタイル。若年層のセックス、暴力、愛を描いている。ネットの掲示板の書き込みや、幼児を惨殺した男の一人称の章は本当に気持ち悪くなった。始めて読む作家だが、こんな衝撃も久しぶり。良くも悪くも心に響く作品。他の作品を読んでみたい。2003年三島由紀夫賞。(松) |
ま |
前川仁之 |
韓国「反日街道」をゆく |
2020
5/27 |
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ま |
前田司郎 |
夏の水の半魚人 |
2010
2/12 |
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東京の小学5年生男子が主人公。転校して来た女の子や同級生の付き合いの中で、恋愛や嫉妬や競争の始まりを経験する。大人は殆ど出てこない。幼く未熟な時の青春小説。自分の過去が思い出され、強いノスタルジアを感じる。喉を潤す水のような爽やかさがある。2009年三島賞。(竹) |
ま |
牧野修 |
傀儡后 |
2008 2/9 |
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未来の大阪に20年前に落ちた隕石の影響が顕在化。各章は其々を短編として読めば面白いが、全体的にまとまりが無い。最後まで人物の意図が不明、一体何に(誰に)感情移入して読めばいいかも不明。特に後半は奇をてらい過ぎ。その辺を抑制し筋に重きを置くともっと面白かったと思う。ああ、明るいSFが読みたい。2002年日本SF大賞。(竹) |
ま |
万城目学 |
べらぼうくん |
2020
11/19 |
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ま |
万城目学 |
パーマネント神喜劇 |
2018
6/14 |
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地方の神社の神様が主人公。専門が縁結び。神様の世界も八百万というくらいなので様々の仕事をする神様がいる。人間の世界のようなルポライターもいる。そういう神様たちが巻き起こす和風ファンタジー。筆者の場合、ユーモア小説のようでもシリアスなものもあるが、これは純粋にほのぼのしたもの。縁結びだけのストーリーでも良かったと思う。(竹) |
ま |
万城目学 |
バベル九朔 |
2017
11/5 |
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小説家を目指す男が管理するビルは、死んだ祖父が異界と繋げ自分の世界を作ったバベルだった。表題は駅近くの古い5階建てのビルの名前で、正統派の中間小説かと読んで行ったらSF小説になってしまった。作り上げた世界の全てを明らかにしなくても良いが、それでも未消化のまま読み終えた感じがする。それと色が足りない。暗いまま終った。(竹) |
ま |
万城目学 |
悟浄出立 |
2016
6/24 |
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中国の書物の登場人物を題材に、作者が新たに創作したサイドストーリーを5作収めている。作者が書くものは初期の娯楽小説から段々とシリアスに移行しているようだ。「とっぴんぱらりの風太郎」の味付けもそうだった。この短編集は純文学として書いたようだ。でも自分が作者に期待しているのはそうでは無いのだが。面白味が少ないのは確かだ。(竹) |
ま |
万城目学 |
とっぴんぱらりの風太郎 |
2015
2/5 |
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時は戦国末期、伊賀忍者の風太郎は追放された身ながら人の良さから様々な用(任務)を言い付かる。それももののけからも。豊臣の滅亡に向って風太郎にも過酷な運命が待ち受けている。700ページを越えるボリュームながら次から次へと飽きさせない筋書きは見事。一遍にといっても2日で読んでしまった。あの結末だからこそいつまでも心に残る。(松) |
ま |
万城目学 |
偉大なるしゅららぼん |
2013
7/20 |
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作者得意の伝奇ライトノベルで主人公は琵琶湖を源とするESPを持つ一族の高校生。対立する一族との諍いの中、謎の強い力を持つ者が現れ、土地からの退去を命じられる。ワクワクする展開もあるが、結末への収まり方で超能力を制限無くむやみに出してくるのは、宜しくない。超能力と言えどある程度の枠を設けた方が話がキリッと引き立つのでは。(竹) |
ま |
万城目学 |
かのこちゃんとマドレーヌ夫人 |
2013
6/5 |
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かのこちゃんは小1の女の子。マドレーヌ夫人はさすらい猫だが、かのこちゃんの飼い犬の玄三郎と話が通じ、かのこちゃんの家に居つく。安穏な生活も変化の時を迎えマドレーヌ夫人は恩返しをしようとする。作者得意のほんわかムードのファンタジー小説。ドギツイ小説ばかりだと神経が痛むので、こういう本を読むと休まる。老人と宇宙の呪縛から逃れられそう。(竹) |
ま |
万城目学 |
プリンセス・トヨトミ |
2010
12/11 |
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京都、奈良と続いた作者の和風ファンタジーが今回は大阪が舞台。会計検査院の検査官3人が助成金を受ける社団法人の調査に来る。一方、大阪の中学生2人が悩みながら生活していた。双方が出会った時、思いがけない騒動が巻き起こる。着想が良く、人物描写も良く、背景も綿密で、エピソードも練られているて読みやすい。(竹) |
ま |
万城目学 |
ホルモー六景 |
2009/
8/28 |
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「鴨川ホルモー」の番外短編。古都京都の大学の特殊なサークル活動を通しての青春小説という面は同じ。ホルモーが脇にまわり青春が主になっている。「鴨川ホルモー」とリンクする場面もあり、間を置かないで読むと良かったが、自分はすでに忘れていて人物の繋がりがあやふやなまま読み終えてしまい、不完全燃焼の感じが残った。(竹) |
ま |
万城目学 |
鹿男あをによし |
2008/
11/1 |
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下敷きは「ぼっちゃん」の青春学園ユーモア小説。関東から奈良の女子高の臨時の先生になった男が、古都奈良ならではの不思議な出来事の巻き込まれ、日本を救う。簡単に感情移入が出来て主人公になったつもりで物語を楽しめる。肩のこらない愉快な小説。TV化されたらしいが見ていない。(松) |
ま |
万城目学 |
鴨川ホルモー |
2008 6/28 |
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ホルモーとは何か?千年の古都、京都に伝わる異界の者たちを使って戦う競技の名前で、負けたときに叫ぶ言葉でもある。主人公は京大に入ったばかりで特殊なサークルの勧誘にあう。大学生活のサークル活動を友情恋愛取り混ぜて、悲しくも面白く描いている。青春小説として成功。第4回ボイルドエッグス新人賞。(松) |
ま |
増田みず子 |
シングル・セル |
2006
1/15 |
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孤独な男と不可思議な女の絡み。泉鏡花賞受賞作。泉鏡花賞受賞なら女の得体の知れなさをもっと出さなくては駄目だ。理由の分からない事で家出した女ではなく、人間であるかどうかも分からない女という設定にして、現実と幻想を行ったり来たりするような摩訶不思議な小説が私は好きだ。(竹) |
ま |
又吉直樹 |
火花 |
2023
3/11 |
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漫才師の書いた小説が芥川賞を取った。あれから8年で長岡市図書館でも空きがあったので借りたが大分汚れている。売れない漫才師と師匠と仰ぐ人との絡みが内容。最初にページを開けると最近の小説に似合わず漢字が多く読み仮名も振られている。気になった言葉が「微塵」で自分は使わないが、そう言えばどこかの漫才で聞いた覚えがある。(竹) |
ま |
町田康 |
夫婦茶碗 |
2009
10/24 |
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表題作は落語の調子で語るフリーターの夫と暢気な妻の物語。芥川賞をとった「くっすん大黒」系統の小説。最近使わない単語や言い回しが可笑しい。もう1編の「人間の屑」は落語的な味付けが無くて最後はハチャメチャになってしまう。この作者の小説は濃い小説に飽きて口直しに読むような軽い小説で、ある程度は面白い。(竹) |
ま |
町田康 |
へらへらぼっちゃん |
2009
4/5 |
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「くっすん大黒」を読んで好感を持ったので、次に借りたエッセー集。作者のもう一つのロックミュージシャン(自分は知りませんが)の顔も現れる。軽い文体は抵抗無く自分の身体にしみ込む感じ。重厚長大本だけでは苦しいので、メリハリの利いた毒書生活には欠かせない本。(竹) |
ま |
町田康 |
くっすん大黒 |
2008/
11/13 |
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最近「宿屋めぐり」(未読)で野間文芸賞を受けたニュースを聞いたので、その処女作を読んだ。2作の短編が入っいて、どちらも暗めのユーモア小説という感じ。表題作は仕事もせずに妻にも逃げられた怠惰な男の生活を描いている。悲惨では無い所が良い。意味不明な題名は自分に読む気を起こさせた。1997年野間文芸新人賞。(竹) |
ま |
松井今朝子 |
吉原手引草 |
2010
7/6 |
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吉原で起きた花魁失踪事件を、関係者からの聞き書きの形にした小説。話が小出しに進むに連れ、段々と花魁や事件の概要が露になって行く。それに伴って吉原のしきたりや仕組みが分かってくる教養小説。聞き書きなので一人称だが、相手が変わるのでくどくならずに興味深く読めた。泣かせの部分が無いのが残念。2007年上期直木賞。(竹) |
ま |
松嶋智左 |
匣の人 |
2022
12/8 |
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交番勤務の40代独身女性が、警官成り立ての20代男子とペアを組む。交番には狭い地域の苦情が持ち込まれ、警察の仕事で無いものもある。それを丁寧に処理する事で、大きな事件の端緒を見つける。日本人でも色んな人がいるし、外国から来る人がいる。小説のネタには困らないだろうが、独自のストーリーにするのが難しい。(竹) |
ま |
松嶋智左 |
女副署長 |
2021
7/22 |
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台風の雨風が激しい夜、警察署敷地内で警官が殺される。防犯カメラに犯人も被害者も映っていない。台風対策の中、殺人事件も所轄で解決したい。副署長が奮闘する。殺害方法はもっと単純で良いと思う。わざと謎を作ったようで無理がある。それと結果的に悪徳警官が何人もいたが、そんなに警察は腐った組織なのだろうか。非現実的に思える。(竹) |
ま |
松瀬学 |
汚れた金メダル |
2005
4/26 |
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10年ぐらい前のアジア大会で中国の選手が大勢、ドーピングで失格になった事件を追ったもの。前回のオリンピックでもドーピングで失格になった選手がいた。先月もドーピングで出場停止になった大リーグの選手がいた。いけないと判っていても薬物に手を出してしまう、人間は弱いもの。そして悪いもの。 |
ま |
松田青子 |
英子の森 |
2022
4/19 |
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一冊目は「スタッキング可能」を読んだが実験的で面白さは遠かった。この二冊目の表題作がページの半分を占める。英語を職業にすることを目指した女性の報われない悲哀を描くリアルな小説だが、内面の表現がファンタスティック。他の短い小説は全面実験的な小説で最後の「わたしはお医者さま?」は今のウクライナを連想してしまう。(竹) |
ま |
松田青子 |
スタッキング可能 |
2019
2/16 |
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ハードカバーで200ページ未満。6編の短編集。女性が主人公。内容は実験的で分かり難い。半分を占めるのが表題作。意味は積み重ね可能というらしい。会社の仕事以外の人間関係を描写しているが、少なくない登場人物がアルファベッドで記号化されて、業と分かり難くしてある。それが面白さに到達していない。もう一冊読んで評価を決めたい。(竹) |
ま |
松田瓊子(けいこ) |
紫苑の園 |
2006
9/4 |
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日本近代の古きよき時代、大正の匂いの残る小説。なんでも露悪的にさらにエスカレートする昨今、節度があって品行方正で悪人は登場しない清純な少女小説は爽やかな風を起こす。少女マンガが嫌いな自分は借りて失敗したかなと思ったがそうでもなかった。斎藤綾子の小説とは何という対照。(竹) |
ま |
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ま |
松原惇子 |
女が家を買うとき |
2006
1/4 |
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「キヨミの挑戦」と同じ様な経歴の女性。若い時に離婚し、会社を立ち上げ、それをやめて留学し3年でカウンセリングの学位を取って帰国するが、当時日本では認められない職種。内容は日本に帰ってからの迷いながらの奮闘記。結局、親の助力を得て37歳でマンションを買うことになる。とりあえず一人で住むために。結婚しない女も大変だ。(竹) |
ま |
松本大洋 |
GOGOモンスター |
2004
12/15 |
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松本大洋の名は映画の「ピンポン」で知った。映画の「ピンポン」は面白かった。自分はこんなのではなくメリハリのきいた筋の話が好きだ。左の写真は表紙ではない。表紙は題が書いてないので中の扉を写した。 |
ま |
松山巌 |
くるーりくるくる |
2007 9/8 |
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昭和20年に東京に生まれた育った作者のエッセイ集。移り変わりゆく東京が生活者の視点で語られる。旅の話もあるがそれも東京者の視点。自分も東京の片隅に2ヶ月だけ居た(生活したとは言えない)事があるがそれだけで息が詰まるようで嫌だった。生まれた時から生活していればそんな気持ちにはならないのだろうな。でも、共感しにくい。(竹) |
ま |
松山巌 |
うわさの遠近法 |
2007
6/14 |
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明治以降の近代日本におけるうわさについてのノンフィクション。マスコミの無かった時代の情報伝達としてのうわさ、言論統制されていた戦時中のうわさ、為政者が思想統一するために意図的に流したうわさ。関東大震災後の流言飛語により朝鮮人中国人が殺された事件は今も重く心に残る。うわさは多くの人が信じる素地があるものが大きくなる。(竹) |
ま |
松山巌 |
乱歩と東京 |
2007
4/19 |
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1920年代の東京を、江戸川乱歩の小説をテキストに紹介している。作家名はエドガー・アラン・ポーの偽者のような印象を与えるが、少なくとも日本では不世出の作家だった。自分の毒書生活の中でも十指に入る作家。時代は違っても退廃的な雰囲気は、現在にも通じるものがある。あの時はその後に日本を大きく変える世界大戦が控えていた。(竹) |
ま |
丸谷才一 |
女ざかり |
2014
4/10 |
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女性論説委員が書いた社説が原因で左遷させられそうになる。彼女は家族友人恋人を動員して巻き返しを図る。恋人の哲学者の話で読者の知識欲をくすぐり、総理大臣もヤクザの親分も出てくるスケール感のある内容で、しかもユーモアもあり、旧仮名遣いだがスイスイ読める。この軽快な読書感は大事だ。確か筒井康隆氏の推薦図書だったと思う。(松) |
ま |
丸谷才一 編 |
本読みの達人が選んだ「この3冊」 |
2005
1/24 |
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次回からの読書の指針となる本。このジャンル(確かに本を紹介する本というのが多数ある)のなかでは、説明は少ないが数多くの本が紹介されている。その中から面白そうな本をピックアップし、図書館のサイトを検索し予約を入れる。当たりかハズレかは読んでみないとわからない(当たりまえ)。 |
み |
三浦しおん |
エレジーは流れない |
2022
8/13 |
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東京に近い温泉町の高校生男子の日常を描く。この男子には母親が二人いるが、経緯は聞いていない。進路を決める時期に会った事の無い父親が現れ、男子の心は乱れる。筆者を好きなのに最近はエッセイが多く、久しぶりに小説を読み、まあ面白かった。現在の温泉町には昭和のエレジーは流れず、現代的な明るいテーマ曲が流れる。(竹) |
み |
三浦しをん |
まほろ駅前狂想曲 |
2017
8/16 |
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東京のベッドタウンのまほろ市で便利屋を営む青年と相棒の物語。このシリーズでは3作目か。内容は相変わらず過激になりそうでいてならないホンワカしたムードが漂う。青年の恋と相棒の過去が少し展開。暴力団予備軍やお得意先の年寄りとの付き合いにも何となく心が和む。468ページの大作だがいつの間にかページが少なくなっていく。(竹) |
み |
三浦しをん |
神去なあなあ夜話 |
2017
4/2 |
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三重県の山奥に放り込まれ林業に携わる高卒男子にも(最初の物語から)2年の月日が経った。神去村の起源(神話)を知り、近年の村の悲劇も知る。20歳となった男の山と恋の物語。唯一引っかかるのがクマの話。神去村の住人が本州にいないヒグマを知識としては知っていても体験としては知らないはずなのに、日常の話で出ていたのが不自然。(竹) |
み |
三浦しをん
あさのあつこ
近藤史恵 |
シテイ・マラソンズ |
2016
8/6 |
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ニューヨークと東京とパリのシティマラソンを題材にした3人の女性人気作家による3編を収める。表題は短編集の名前。それぞれが、係わって来たスポーツを止めてからの「気付き」をテーマにして、今後どうあるべきかを模索する形で終っている。アシックスのキャンペーンの為に企画されたらしい。1人の作家の作品と言われてもおかしくない。(竹) |
み |
三浦しをん |
舟を編む |
2014
6/15 |
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企画から製作まで何十年もかかる辞書編纂の仕事に途中から参加してついに作り上げる出版社の男の話。地味な仕事だが恋あり涙ありで情感を盛り上げる。確か本屋大賞をとったと思うが、作者の素材を選ぶ目の付け所は良いが、一読者としては出版界に思い入れが無く平坦な筋書きで期待外れだった。後で観る予定の映画の方はどうだろう。(竹) |
み |
三浦しをん |
天国旅行 |
2014
5/14 |
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心中をテーマにした7編を収める短編集。表題は短編集の題で作品としては無い。内容はシリアスな冷たい手触りの作品が並ぶ。中でも「君は夜」は奇妙な夢を背負った女性の話で、どこまでも落ち込んで行き救いが無くて嫌いだ。「SINK」は家族心中で生き残った青年の話で、結末が熱くて閉塞感の中から一筋の光が差したようで好きだ。(竹) |
み |
三浦しをん |
まほろ駅前番外地 |
2014
3/2 |
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まほろ市で営業する多田便利軒が主人公の短編集。今までに出演した馴染みの脇役が各編に出て来て便利屋コンビがからむ。大都市近郊のベッドタウンを舞台にした如何にもありそうな物語。大きな山場も無ければ泣かせも無いが漂う風情は良い。相方の行天の人間離れしたというか非人間的な所は良い味になっているが、この味加減は重要。(竹) |
み |
三浦しをん |
星間商事株式会社社史編纂室 |
2013
7/20 |
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商事会社に勤めるOLが社史編纂という閑職に飛ばされ、忸怩たる思いで仕事をするが、会社の歴史にダークな部分を見つけ追求していくうちに、何者かからから脅迫される。サスペンス性は少なく、三浦さんにしてはフツーのユーモア小説。本筋の他にコミケとか女の友情とか社内恋愛とかちりばめ過ぎたのか迫力が無くてフワフワ流れてしまった感がある。(竹) |
み |
三浦しをん |
光 |
2013
6/15 |
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15年前に東京都の離島で津波が起き、生き残った子供達はその時の惨事と秘密を抱えて、後の人生を生きる。作者はこの小説ではシリアスでサスペンス性のある物語を構築。今までとは雰囲気の違う作風になっている。殺人というのも一つのテーマで、人を殺した後どう生きていくのかを、数々の小説家が描いて来たが、これが作者の答えなのか。(竹) |
み |
三浦しをん |
仏果を得ず |
2013
5/28 |
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琵琶法師に連なる語りの伝統芸、人形浄瑠璃の世界に飛び込んだ一般家庭の青年の奮闘ぶりを、その演目と恋愛模様を合わせて描いている。前日まで読んでいた「老人と宇宙」シリーズの口直しにピッタリ、と言ったら両方に失礼か。面白くて2日で読了。自分は知らない世界なので、「義太夫」「文楽」「人形浄瑠璃」を調べた。勿論表題も。関西が本場。(竹) |
み |
三浦しをん |
君はポラリス |
2013
4/19 |
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11作を収めた恋愛短編集。最初にテーマがあって書かれている。この人の引出しには様々な小説の部品が整理されていて、一つの小説の計画を立てた時に、的確に引っ張り出して組み合わせて秀逸な小説を生産しているという感じがする。最近ではこれほど確率が高く、面白い小説を書く作家には出会えていない。中でも「裏切らないこと」は泣ける。(竹) |
み |
三浦しをん |
風が強く吹いている |
2013
2/16 |
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箱根駅伝に出たいという一人の大学生が素人の集団を半年かけて闘えるチームに鍛える。作者は様々な分野を取材して面白い物語を作る小説職人だ。この本でも材料を吟味し調理し、10人のキャラクターを確立し期待通りの感動を与えてくれる。作者の本は図書館では借りるのに待たなければならず、借りた本も多くの人手に渡りやつれているのが難。(竹) |
み |
三浦しをん |
木暮荘物語 |
2012
11/9 |
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木暮荘に係る人たちを主人公にしたオムニバス小説。やっぱり作者は上手い、平凡であるはずの実生活に巧みに波風を立て面白い物語に仕立て上げる。毎回、内容は発見で楽しさは期待通り。午前2時にトイレに起きて枕元のこの本を取ったら1章を丸々読んでしまった。ただし別の章で暴力団員を普通の人間として描いた所は嫌いだ。(竹) |
み |
三浦しをん |
白蛇島 |
2012
3/13 |
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故郷の島での13年に一度の大祭のために本土で寄宿していた男子高校生が帰ってくる。人の心の隙間を狙う邪悪なものがいて、高校生と仲間達は島を守ろうとする。横溝正史と川端康成を足して2で割ったような伝奇ロマン小説。狭い集落内の交流や幼友達の友情、故郷への愛憎など、ありふれてはいるが情感がこもった良い雰囲気が出ている。(竹) |
み |
三浦しをん |
私が語りはじめた彼は |
2012
2/9 |
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一人の男を主題にして、その弟子、愛人の夫、息子、義理の娘、娘の婚約者、そしてまた弟子と、それぞれが語る短編の集合。この作者の直木賞をとった作品を読んだ時はそれほど感じなかったが、林業を主題とする作品を読んでからこの作者の面白さに目覚めた。一読者があえて言えばこの人はうまい。毎回違った面白さをみせてくれる。(竹) |
み |
三浦しをん |
月魚 |
2011
12/20
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作者の小説世界の作りこみは新鮮で嬉しい。これは古書売買の世界の話。老舗の古書店の三代目と古書業界では疎まれてきた男の息子の交流を描く。男同士は友情以上のものがあるが、それはわざと詳しくは書かないところが想像を刺激して良い。表題の名の作はなく中編1短編2をまとめてこの表題としているようだが、短編は蛇足に思える。(竹) |
み |
三浦しをん |
秘密の花園 |
2011
10/29 |
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都会の女子高生三人三様の日常を湿度の少ない文体で息を潜めるように描いている。1番目の短編の女子高生の恋人の名前からか「赤頭巾ちゃん気をつけて」を連想した。年代も性別も違い生き方の温度差もあるが、この、学生が主人公の都会的な雰囲気が好き。それにしても、いろいろな小説が書ける人だ。先が楽しみ。(松) |
み |
三浦しをん |
格闘する者に○(まる) |
2011
10/5 |
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女子大学生の希望は出版社への就職。政治家を輩出する家柄とか義母と異母弟との生活とか歳の離れ過ぎた恋人とかプライドを大事にし過ぎる自分自身とかの悩みを抱えて青春する小説。登場人物が巧みでリアル。小説世界も奥行きと深みがあり鮮やかで爽やかで面白い。題名の意味が分かった時も笑える。これが弱冠24歳のデビュー作か。(松) |
み |
三浦しをん |
神去なあなあ日常 |
2011
7/1 |
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話題作の名に違わない面白さ。横浜から高校新卒の男子が林業をしに(やらされに)三重県の山の中にくる。まずこの林業という題材がいいし、人物も、自然の道具立てもいい。登山が趣味の自分にはダニやヒルなど嫌なヤツの共感する部分がある。この作者は「まほろ駅前…」以来2冊目だがこちらの方が上。続編があれば読みたい。(松) |
み |
三浦しをん |
まほろ駅前多田便利軒 |
2010
2/5 |
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東京都内であっても神奈川県にズレ込んだ様な街で便利屋を営む男とその友人の話。まほろ市となっているので最初は北海道の地方都市かと思ったら東京の町田市の事だった。筋のメインはバツイチ2人の男の素性になるが、もっと便利屋の仕事に重点を置いて掘り下げた方が面白かったと思う。受賞作らしい面白さは無い。2006年下期直木賞。(竹) |
み |
みうらじゅん |
新「親孝行」術 |
2004
11/28 |
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この人の、やりたい事をやって生きているというのがうらやましい。やりたい事だけをやって生きているように見えるのは、自分の僻みでしょうね。親子円満で用語残滓種。 |
み |
三木卓 |
馭者の秋 |
2006
2/4 |
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途中は気にしないでいたこの題名の意味が最後になって初めて分かった。遅すぎるって。「馭者」は男を操る女。で、その秋だから「馭者」を引退するということか。主人公は「馬」の男のほうで、男には多かれ少なかれ女に操られたいという願望が心の奥底にあるのかもしれない。(竹) |
み |
三島由紀夫 |
禁色 |
2014
6/15 |
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美しい青年が老齢の小説家に自分がゲイだという事を告白する。小説家は青年を利用して自分を振った女達に復讐しようとする。禁色(きんじき)とは身分によって服には使えない色の事。昭和26年上梓の小説は現代では大っぴらになった同性愛を陰湿なものとして捉えている。文庫でも700ページ近くで内容的にもなかなかの大作で読み応えあり。(竹) |
み |
三羽省吾 |
ヘダップ! |
2017
4/13 |
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サッカーに抜きん出た技量を持つ少年が、高卒後に不本意ながらJFLのチームに入り有職スポーツ選手として思い惑い成長する姿を描く。サッカーを知らない自分でも楽しめた青春小説。表題はヘッドアップの事と文中で知る。ボールだけでなく周りを良く見ろという意味らしい。これは体感的に自分にも分かる、サッカーではなくスノボで。(竹) |
み |
皆川博子 |
開かせていただき光栄です |
2021
11/25 |
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18世紀ロンドンの解剖医とその助手の物語。墓堀人夫から買った死体が高貴なお方のもので、治安判事の捜査が入る。本格ミステリ大賞受賞作。日本人が古いロンドンの様子を幾つもの文献から組み立てた労作。ただ二転三転する展開は視点をずらされ気持ち良くない。読者としては悪と善が区別ついた方が安心して読めるが、好みかな。(竹) |
み |
皆川博子 |
花櫓 |
2012
11/27 |
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江戸の芝居小屋の娘二人と掛小屋の跡取り男の色恋を絡めた人情話。歌舞伎役者のさや当てやその生業や複雑な家族構成で江戸の風俗を生々しく表現。現代に伝わる歌舞伎役者の名前が出てくるが、作中の行状をその人に重ね合わせると面白い。終盤に向かって望みを遂げようとする男に悪人の企みと大江戸の火事の頻発が緊張感を孕む。(竹) |
み |
皆川博子 |
恋紅 |
2012
8/25 |
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幕末から明治に生きた遊女屋の娘の心と身体の機微を描く。恵まれているから他人に優しくされるが、無力でもあるから世間の酷さをどうにも出来ない。世の中が大きく変わる時、幼い頃に撒かれた種が恋の芽を出しそれを大切にしようとする。恋愛小説だが本格時代小説。しっかりとした構成と人物描写で読ませる。昭和61年上期直木賞。(松) |
み |
湊かなえ |
少女 |
2018
1/4 |
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女子高生2人がいじめによる自殺の話を聞き、人の死を見たくなる。別々に病院と老人施設で人の死を待つ間に体験した事を交互に語る形式。2人の性格差が少ないので、誰が誰だか分からなくなるので読み難い。冒頭が遺書で始まるが、読んでいる途中からネタばれした。登場人物の関係性も物語上都合良く割り振られていて作り物感が出ている。(竹) |
み |
湊かなえ |
贖罪 |
2015
8/27 |
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小学4年の時に同級生が殺害され、その時居合わせた女子4人のその後と、娘を殺された母親の手記の体裁になっている。2番目の手記の読後はスゴイと思ったが、その後は定型化して尻すぼみになってしまった。全体を見ると、無理に一つの形にはめ込んだパズルのように思える。いい部分もあるが、わざとらしく作り過ぎでリアルさに欠ける。(竹) |
み |
湊かなえ |
告白 |
2013
3/12 |
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我が子を生徒に殺された女教師は生徒への罠を仕掛ける。女教師、級友、罪を犯した生徒、その家族等の告白体。説明的な長文がわずらわしい。別の人の告白で同じ話を繰り返す部分は無駄。他人の言葉を独白で正確に再現するのは不自然。何より生徒の動向が何故把握出来たのかも無理があるし偶然が多すぎて嘘臭い。第6回本屋大賞受賞。(竹) |
み |
宮内悠介 |
遠い他国でひょんと死ぬるや |
2020
3/3 |
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み |
宮内悠介 |
盤上の夜 |
2013
10/9 |
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6編の短編集。囲碁、将棋、麻雀、チェッカー等盤上で戦うゲームを主題に、それぞれの人間模様を描く。表題作は創元SF短編賞で、四肢の無い女流棋士が短い間に囲碁界を席巻した話。クライマックスと降下の波が無く平坦。理屈が先に立ち情感が無いので話に厚みが無い。他の短編も目新しさはあるが物語のエンターテインメント性が薄い。(竹) |
み |
宮尾登美子 |
岩伍覚え書 |
2006
3/2 |
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日本の近代の市井を骨太に描く作者の代表作「陽暉楼」の外伝。今では死語になった「女衒」を生業とする富田岩伍の一人語り。昭和の時代を作者の故郷の四国高知を舞台に描かれる。昭和後期のぬるま湯で育った者には理解出来ないだろうなぁ。売春が公認で売春宿に娘を売る親がいた貧しい時代なんて分からんだろうなぁ。自分にしても想像しか出来ない。(竹) |
み |
宮木あや子 |
雨の塔 |
2021
8/17 |
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金持ちの娘だけが入れる外界とは途絶された全寮制の学校。訳ありの4人少女達が入学。設定は大正時代かと思うほど世間離れしている。その妖しい雰囲気が人にも影響するか、それぞれの孤独な魂が寄り添い結び付き離れる。読んでいると自分の中で少女の性格分けが出来ていなくて分からなくなった。表題は別の適したものがあったのでは。(竹) |
み |
宮木あや子 |
花宵道中 |
2020
12/5 |
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み |
宮木あや子 |
校閲ガール ア・ラ・モード |
2020
7/12 |
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み |
宮木あや子 |
校閲ガール |
2020
4/4 |
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み |
宮下奈都 |
羊と鋼の森 |
2018
4/8 |
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北海道の田舎育ちの男子が、高校のピアノを調律する人を見て、突然目覚め調律師を目指す。専門学校を出てから地元の楽器店に勤め、毎日先輩に教わりながら考えながら自分なりの調律師になろうとする。劇的に才能を発揮する訳では無くて、着実に成長する様子が好ましい。新聞広告で知った小説で宣伝文句は内容以上だったが、好印象。(竹) |
み |
宮本輝 |
草花たちの静かな誓い |
2021
9/8 |
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ロサンゼルス在住の叔母が日本の旅行中に客死。仲の良かった甥が後始末。莫大な遺産を相続する事になるが、死んだはずの娘が行方不明のままという。27年前の事件を、地元の探偵の手を借りて掘り起こす甥。著者のミステリーを始めて読む。難しい謎では無く、そうだろうなという感じで解けて行く。アメリカの風俗が面白く飽きずに読めた。(竹) |
み |
宮本輝 |
五千回の生死 |
2016
9/15 |
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九作品を収めた短編集。関西に生まれ育った作者が感じた戦後の気配が残る世相と郷土色の作品。表題作の短編もあり、日に五千回も死にたくなる男の話で世の中がまだ混沌とした感じが分かる。各作品が長編の一部を切り取ったというより、人生の瞬間を切り取ったように感じた。誰の人生にも当てはまりそうだ。そんな時代だったように思う。(竹) |
み |
宮本輝 |
人間の幸福 |
2005
2/6 |
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新聞連載小説。大上段に振りかぶった題名のわりに、なんだかコセコセした内容。宮本輝さんらしくない。最初から最後までプロットが決ってないで書き進めたというのが、まとめて本になって読むと分かってしまう。新聞連載小説ってむずかしい。最初ミステリー最後通俗小説。 |
む |
村上春樹 |
海辺のカフカ(下) |
2014
12/30 |
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少年は自らの根源的なものに出会う。一方、老人も他者の力を借り四国に着く。邪悪なものは更に大きくなろうと暗躍する。期待を抱かせる展開だ。しかし物語の意味を汲み取れない。最後までメタファーだけで終わってしまい物語の形成を読者に丸投げしている。細部を詰めていないからあやふやした印象になっている。象徴的だけで押し通した小説。(竹) |
む |
村上春樹 |
海辺のカフカ(上) |
2014
12/30 |
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東京の少年が家から逃げ出し四国の個人図書館に住み着く。一方、戦時中に不思議な体験をした老人が少年の父親を殺し西へ向う。父親は邪悪で、殺される事で人間以上の存在になる。父親の呪いに捕らわれた少年はどうなる。ストーリー展開や部分的なエピソードは面白いが、根本部分がキリスト教から借りて来たようでバタ臭く馴染めない。(竹) |
む |
村上龍 |
半島を出よ(下) |
2009
12/5 |
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少年グループには爆弾や毒や小火器の専門がいて北朝鮮兵士に攻撃しようと計画する。一方、北朝鮮兵士達は増援で500名以上になり福岡市を掌握し、悪人を武力で制圧しその資産を差し押さえ、次に来る12万人の兵士の準備をする。この情況でも何も出来ない日本政府というのは現実にそうなりそう。厚い本だが面白くスイスイと読めた。(松) |
む |
村上龍 |
半島を出よ(上) |
2009
12/5 |
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2011年の架空の日本が舞台。経済が落込みアメリカが離反し日本は孤立し国内は荒れる。福岡に社会に入れない少年達の集団があった。そんな時、反乱兵士という名目の北朝鮮兵士9人が福岡に侵入する。政府は福岡市を閉鎖するだけで他に対策がとれない。少年達と北朝鮮兵士を軸に物語は一直線に進み引き込まれる。(松) |
む |
村田沙耶香 |
コンビニ人間 |
2019
6/8 |
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普通の父母から生まれ普通の妹もいるが、この女子は生まれつき感情が希薄で空気を読む事が欠落。35歳で結婚もせずコンビニでアルバイト。コンビニの仕事はマニュアル通りにやれば良いから迷う事が無く本人は満足。女子のこだわりの無さから生活が乱れるが、コンビニが天職と気付く。自分もそうだから普通では無い人の物語は好き。すぐ読了。(竹) |
む |
村松友視 |
百合子さんは何色 |
2006
10/2 |
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百合子さんの「富士日記」のインパクトが強かったので、どういう人かを知りたくて読んでみた。金持ちの家に生まれたが、戦争の空襲と戦後の改革で没落して、退廃的な気分の時に武田泰淳と出会った。この本では百合子さんの外側しか分からない。まだ百合子さんへの旅は続く。(竹) |
む |
村山由佳 |
星々の舟 |
2008 2/1 |
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実母が亡くなった後に連れ子を伴った義母が家に入った家族の物語。親、子、孫のそれぞれの切ない恋が短編になっている。年代ごとの背景もしっかり描かれていて、血の通った人間が表現されている。この作家の、1年前に読んだ「天使の卵」より良い。2003上期直木賞。今は直木賞と芥川賞を作風によって分けなくなったが昔なら芥川賞。(松) |
む |
村山由佳 |
天使の卵(エンジェルス・エッグ) |
2006
1/4 |
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約10年前の恋愛(純愛)小説。好きな人が死にその思い出は純化され美しい、という恋愛小説のセオリー通りの筋立て。ご都合主義の筋はご愛嬌といった所で、この話にのめり込めれば不自然とは感じないかもしれない。好きなジャンルではないけど素直に読めました。(竹) |
む |
村田喜代子 |
鍋の中 |
2004
12/28 |
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中短編集。中でも表題の「鍋の中」が好い。おばあさんのうちに親戚の子供たちだけが集まって生活する話。特に話の盛り上がりは無いが、話の中の普通の若さが自分のような年寄りには薬?になる。 |
も |
本谷有希子 |
遭難、 |
2010
1/24 |
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小説ではなくて戯曲。臨時職員室で自殺未遂をした子供の母親が自殺の兆候を見逃した教師を責める。登場人物は母親の他に女教師3人と男教師1人だけ。学校や職場でのイジメを描く。誰でも多少はエゴイストで自覚しているから他人を責めないが、性格の悪い女は自覚せずに何でも自分以外のせいにする。掘り下げが浅い。鶴屋南北戯曲賞。(竹) |
も |
本谷有希子 |
腑抜けども、悲しみの愛を見せろ |
2008 3/4 |
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この題名に引き付けられた。この作家をNHKのインタヴュー番組で見て、劇団を主催していることを知り、その時にこの題名の演劇を知った。だから本は脚本かと思ったが小説だった。女優になる為家族の反対を押し切って東京に出て挫折を繰り返した娘が、両親の死で田舎に帰って来る。家族内のわだかまりが表面化し崩壊に向かう。(竹) |
も |
モブ・ノリオ |
介護入門 |
2008 1/14 |
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介護のやり方を教える本では無く、介護の心得を教える本。若い男が自分の祖母を介護する珍しい話。介護そのものよりも親戚の無理解に腹を立てているが暗い話では無い。小林よしのりのようなゴーマンかました文章でラップのリズムに乗り饒舌に喋る話はノンストップで楽しめる。他に2編収録。2004上期芥川賞。(松) |
も |
森絵都 |
君と一緒に生きよう |
2021
8/28 |
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捨てられる犬。殺される犬。遺棄される犬。悲惨な犬の原因はみんな人間の我儘の所為。犬を保護するボランティアも保護犬を引き取る人もいるが、保護には無関心なのが行政。保健所の施設で犬を殺すだけ。それも犬が苦しむ窒息死。毎日新聞に連載していたというから見たはずだが覚えていない。犬に興味が無い自分も心を打たれる。(竹) |
も |
森絵都 |
クラスメイツ 後期 |
2016
12/24 |
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前期後期は学校の二学期制に習う趣向。後期では級友全員を主人公にした短編が完成して、それぞれが他の級友との結び付きが明らかになる。1年の間にそれぞれの悩みや気付きから全員がそれぞれなりの成長を遂げる。級友全員が絡まりあった一つの有機体のよう。24色の性格を塗り分けも見事。こういう青春小説は何度でも読みたい。(松) |
も |
森絵都 |
クラスメイツ 前期 |
2016
12/24 |
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子供から大人になりかけの少年少女の中学生群像。中学生になったばかりで純粋でその分世間を知らない。恋が芽生えたり、逆に小学生の尻尾を付けたままだったり、人それぞれの悩みや恐れや憧れを秘めて生きているのが愛おしい。人生で一番混沌とした時期だと思うから魅力がある。出来るものなら人生をやり直したいと思ってしまう。(松) |
も |
森絵都 |
漁師の愛人 |
2016
3/19 |
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5編を収める短編集。うち3編は著者らしい少年物。1編は作家も避けては通れない東日本大震災が根底にある男女の生き方を描いている。もう1編は表題になったもので、サラリーマンを辞めて故郷で漁師をする男に付いていった女の葛藤物で、著者らしくない男女のドロドロ愛憎劇かと思ったら、割合スッキリしている。だから、全編読み易く楽しい。(竹) |
も |
森絵都 |
おいで一緒に行こう |
2014
9/17 |
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福島原発20キロ圏内のペットを助ける為に活動する人達の記録。未曾有の事故の対応に国も行政も人間の事しか出来ず、ペットや家畜は置き去りにされ飢えていた。動物を助ける為に草の根的に集まりボランティアで活動する人達。自分の時間や金を削りそして心無い言葉や行政の対応に怒りながら、でも今も止められない。40代女性の母性愛。(竹) |
も |
森絵都 |
気分上々 |
2013
12/23 |
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表題作を含む9編の恋愛短編集。別々の雑誌に掲載されたものを集めたもの。それぞれは別のスタイルだか、全体に適度なくすぐりや泣かせで慈雨のような読後感がある。エピソードを作るのも上手いのでこういう短編集は読んでいて楽しい。「本物の恋」は導入部で引き込まれ、オチに唖然としてしまった。前後3冊は同時に予約したがこれだけ遅れた。(竹) |
も |
森絵都 |
異国のおじさんを伴う |
2013
8/17 |
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オール讀物に2008年から2011まで掲載された10篇の短編集。主人公は男だったり女だったりするが、どれも予想のつかない展開なのに、けれん味が無くてスッキリとしていて、悲しみに沈ませずユーモアを持った逞しさで終わらせる。「クリスマスイヴを三日後に控えた日曜の…」は結末にほんの一寸覗かせる恋情が大人のビターな味わいに仕立てている。(松) |
も |
森絵都 |
この女 |
2013
6/28 |
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西成ドヤ街に住む訳あり男が、訳あり女を主人公にした小説をその夫に依頼される。破天荒の中に真実味があって最初からどんどん引き込まれる。後半には弱気な男に入れるツッコミ(独り言)も関西弁になる。作者にしては今までに無い泥くさい話だが、人への優しさは変わらない。一気に読むのが勿体無く噛みしめて読む。今一番好きな作家である。(松) |
も |
森絵都 |
ダイブ!!(下) |
2012
5/11 |
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主人公キャラの少年だけでなく、ライバルの少年たちも丁寧に描かれ、いよいよオリンピック選考会となる大会が始まる。それぞれの試技が進む中せっかちな読者として先読みをしてしまう。誰かがトップになった場合筋書きはどうなるとか。それだけに最後の最後まで先が見えない。言ってみればミステリアスなスポーツ小説だ。期待を裏切らない。(竹) |
も |
森絵都 |
ダイブ!!(上) |
2012
5/11 |
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10mの高飛込みとは落下する1.4秒の間に演技するスポーツ。恋愛も遊びも犠牲にして高飛び込みだけに賭ける少年達の物語。まだ未完成な主人公、先を行く正統派ライバル、荒削りだが存在感のある穴馬的ライバル、などスポ根の形式を踏襲している。その分、ステレオタイプとも言えるが、マイナースポーツを素材にした分救われている。(竹) |
も |
森絵都 |
リズム |
2011
10/13 |
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中学生になった女の子は環境の変化に戸惑う。小さい頃から仲良しだった親戚の男の子が変り、まわりの大人たちも変る。女の子も子供の頃の楽しい日々は還らないし仕方ない事だと漠然と思う。主題は友情で、恋愛も淡いだけなのでジュブナイル小説としても初歩。大人が楽しめるかというと疑問。主人公の気持ちが分かる女性ならよいかも。(竹) |
も |
森絵都 |
屋久島ジュウソウ |
2011
8/24 |
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著者と出版関係者御一行様が屋久島の宮之浦岳を縦走する紀行文。登山初心者達が初めて行った屋久島で天候に恵まれながらも、雨の方がもっと自然がキレイだったかも知れないなどとゼイタクを言う、何ともバチアタリな内容。自分は羨ましいよ。他に海外旅行のエッセイ14編を収める。(竹) |
も |
森絵都 |
ゴールド・フィッシュ |
2011
6/18 |
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読んでから「リズム」の続編と知る。いけません。「リズム」は読んでいません。読む順番を間違えました。読み物としては成り立っているがスカスカの印象。そうでないものもあるがこれは最初の作品があってこその小説。夢を追い破れ、あるいは他人に託した夢が破れ、それでも立て直して未来を模索する少年少女の物語。(竹) |
も |
森絵都 |
カラフル |
2011
5/10 |
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一度死んだ魂が天使のお陰で自殺した中学三年生男子として期間限定で生まれ変わる。父母や兄との確執、阻害された学校生活を徐々に改善。中ごろ表題の意味が分かり、魂が犯した罪も最後には分かる。読みやすく面白くページを繰る手が止まらない。世の中とガチでは係わらない青春小説だがそれだけにピュアで心に響く。(松) |
も |
森絵都 |
宇宙のみなしご |
2011
2/10 |
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中学生の姉弟が夜中に他人の家の屋根に登る遊びを思いつく。友達が加わり事件が起きる。それをきっかけに少し大人になり友情がまた一つ緊密になる。学校内部の描写にステレオタイプ的な所はあるが、えぐ味がない真っ当な青春小説で、喉が渇いたときの清涼飲料水のようにゴクゴクと楽しく読めた。第33回野間児童文芸新人賞。(竹) |
も |
森絵都 |
架空の球を追う |
2010
12/3 |
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短めの11編を集めた短編集。若いと思う年齢を過ぎた30代女性が主人公。家庭の主婦や、婚活中や、或いは傍観者だったり、インターナショナルなものもあり、ささやかな幸せを描き出し、それぞれに落とし所があり秀逸。その中でも「ドバイ@建設中」は好き。主人公女性の気持ちが最後になって反転してまた反転するのが面白い。泣かせ所でもある。(松) |
も |
森絵都 |
ラン |
2010
11/6 |
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家族とも、叔母とも死に別れ、コミュニケーションを苦手にする若い娘が、家族のいるあの世に連れて行ってくれる自転車を手に入れる。本当の持主の為に自転車を手放し、代わりに走る事であの世に行ける様に練習し仲間も出来る。コミュニケーションを題材に、心を開いていく娘を描いている。厚い本だがスイスイ読める、かといって内容は薄くない。(竹) |
も |
森絵都 |
永遠の出口 |
2010
9/5 |
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小学3年から高校3年までのヒロインの成長を描いた九つの短編の青春連作集。家族との愛情や反発、同性だけでなく異性との友情、勿論恋愛もし、アルバイト先で知る世の中の仕組みの不条理さも経験し、子供から女性になる経過を興味深く描いている。筋書きや構成や各エピソードを過激にしないで、温和で心に沁みそして面白い。(松)。 |
も |
森絵都 |
つきのふね |
2010
8/17 |
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一般文学と思い読んだが作者は児童文学として書いたという。ノストラダムス予言の前年の中学生達の仲間意識や世間の風潮や病んでしまう精神や立ち直りなどを描いた青春小説。物語の焦点を一つに絞らず厚みを見せているが、問題を余り掘り下げていないのは児童文学だからか?とはいえ大人が読んでも面白いはず。(竹) |
も |
森絵都 |
いつかパラソルの下で |
2010
7/23 |
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厳格な父親に反発し家出した娘が、父の死後に父の不倫を知る。郷里が同じ父の友人から、祖父が有名な性的放縦者と知る。父を反面教師として気楽に生きて来たが、父の極端な育て方の理由を知る。父親が死んでもその影響からは逃れられず、兄や妹と一緒に父の郷里の佐渡へ赴く。よくありそうな題材だがどこか軽く面白味がある。好感触。(松) |
も |
森絵都 |
風に舞いあがるビニールシート |
2010
6/20 |
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NHKのドラマにもなった表題作の他に5編を収める短編集。どの作も其々に関連がなく新鮮だけど難しい題材なのに調査が行き届き破綻がなく、しかも登場人物が暖かく心も温まる。その中でも捨て犬の話の「犬の散歩」は、作者が活動していた事を毎日新聞のコラムで知っていたのであらためて泣けた。他にも読んでみたい。2006年下期直木賞受賞作。(松) |
も |
森達也 |
王様は裸だと言った子供はその後どうなったか |
2020
3/3 |
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も |
森奈津子 |
からくりアンモラル |
2023
2/25 |
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9編収める短編集。テーマはSF、少女、性愛。SFとしてストーリーは面白い。少女も良いが性愛で混沌とした雰囲気になっている。表紙とそれぞれの作品の絵が可愛らしくイヤらしい。自分には、女性に性欲が無いと思っていた若い時もあったのだから、余程ウブだったと昔を回想する。女性の性の目覚めは早く、貪欲と思う。2作前も性に関する本だった。(竹) |
も |
森博嗣 |
スカイ・クロラ |
2016
3/1 |
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会社が戦争をしているという別の世界の話。舞台背景がなかなか分からないがそういう造り。戦闘機乗りが主人公。切実感の無いのんびりとした戦闘だが人は死ぬ。死んだら透明な血が出るんじゃないかと思うほど淡白。新人類の話も出るが、全体につかみ所の無い、とてもポエムな話。カッコつけ過ぎじゃねえかともう一人の自分が言う。(竹) |
も |
森まゆみ |
抱きしめる、東京 |
2006
6/4 |
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副題は「町とわたし」。作者は「谷中・根津・千駄木」というタウン誌を作った人。1954年に東京に生まれ、そして東京で育ったその目で東京の町と自分たちの生活の変遷を語る。自分の東京経験は1ヶ月だけ。港区大鳥居の荏原製作所寮から浅草橋まで電車で通い、車で東京都心のボイラーの点検に同行した時代があった。東京生活は息が詰まりそうだった。(竹) |
も |
森永卓郎 |
〈非婚〉のすすめ |
2005
11/17 |
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TVでもおなじみのぽっちゃりしたおじさんの書いた本。東大卒だけあって理論的。結婚しない男や女が増えて世の中が変わっていくだろうという話。シングルのメリットとデメリットを当事者と社会の両方について数字をあげて解説している。シングルだから子供を生みにくい。でも生めるような世の中に変わっていく、かもしれない。(竹) |
も |
森見登美彦 |
四畳半王国見聞録 |
2022
6/10 |
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京都の大学生の正統派バンカラ生活を描く短編7編。学園生活で何か起きる訳では無い。恋の一つも実らない。ただ言葉をひねくり回し、ダラダラ筋を繋いでいるだけ。大学生らしい(?)机上の空論小説。題名の馬鹿らしさを追求し切れていない。ユーモア小説らしいくすぐりが感じられず、登場人物の対話も上滑りで、筋に緩急が無い。(竹) |
も |
森見登美彦 |
恋文の技術 |
2018
8/28 |
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書簡集の体になっている変則連作短編集。主人公は能登の実験場で研究している大学院生で、男女友人達や家庭教師をした小学生や作者本人とも文通をしている。主人公だけの文だが相手が多数なので同じ事件を違う角度から見られるのが面白い。最後に主人公以外の文も出てくる。ただ、同じ出来事が何度も出てくるのでちょっと退屈になる。(竹) |
も |
森見登美彦 |
四畳半神話大系 |
2017
7/4 |
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京都の大学に通う冴えない3回生が遭遇するバラ色の青春とは対極にある生活を描く。入学時に最初に出会った4つのサークル活動のそれぞれを選んだ場合というパラレルワールド物になっている。どれを選んでも暗澹たるもので恋の入口にさえ到達しない。最後の世界では、パラレルワールド間を逸脱して彷徨してしまう。同じような出だしは手抜き?(竹) |
も |
森見登美彦 |
きつねのはなし |
2017
3/12 |
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千年の都、京都を舞台に描かれる怪談めいた連作短編4編。神社の森、骨董屋と収集家、代々続く古い家柄の家、不可解な死、そして謎めいた魔物。今までの軽快な作品とは違い重厚で、江戸川乱歩に似た雰囲気を感じる。最近短編というと連作短編が多いのは作者が作った世界を1編だけで終らせるのが勿体無いからか。(竹) |
も |
森見登美彦 |
太陽の塔 |
2015
3/22 |
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大阪万博を観に行ったが太陽の塔は記憶に無い。太陽の塔自体は重要では無く、京大男子学生が女性に振られた後日談。バンカラ風の文体だが現代の大学生を描いている。京都の大学生を主人公にした小説では万城目学を思い浮かべるが、こちらは取りとめも無く散文的。日本ファンタジーノベル大賞受賞という。妄想がファンタジーなんだろうな。(竹) |
も |
森見登美彦 |
夜は短し歩けよ乙女 |
2014
11/27 |
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京都の大学生を主人公にした恋愛ファンタジー小説。全四章からなる。個性のある人々が登場し、様々な事件が起きる。山本周五郎賞や本屋大賞2位にも選ばれたというが、あまりにフワフワして少女チックで好みでは無い。意外に読み進むのに努力が要った。京都、大学、ユーモア小説と言うと万城目学を思い出すがそちらの方が自分は好きだ。(竹) |
も |
森見登美彦 |
ペンギン・ハイウェイ |
2013
3/3 |
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カシコイ小学校4年の少年の住む町に普通とは違うペンギンが集団で現れる。他にも不思議な現象が起き友達と調べ始める。歯科医院のお姉さんは優しいが怪しい。家庭や学校生活での思春期の始まりの少年の心が自分にもあったと思うと懐かしい。SF臭くはなく一種の青春小説風ファンタジー。重たい小説を読み過ぎた時には口直しとなる爽やかさあり。(竹) |
も |
森谷明子 |
涼子点景1964 |
2021
9/8 |
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最初の東京オリンピックの年の1964年東京に生きる人々の生活を描写。主人公の涼子は第七章までは他人から見た印象。頭が良く情が篤く正義感もあり自身の生い立ちの所為で子供に対する思い入れがある少女。第七章と最終章で主人公の背負った重荷が明らかにされる。二回目の東京オリンピックを見据えての作品。飽きずに面白く読めた。(竹) |
も |
森谷明子 |
春や春 |
2015
6/11 |
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俳句の好きな女子高生が友人を得て、四国の松山で行われる俳句甲子園に出場するまでの青春物語。登場人物9人のそれぞれの章が時系列に並んでいて、主人公は最初と最後の章があり合わせて10章となっている。俳句甲子園とは何かを教えてくれるためになる小説。でも良い俳句とはというと難しい。情景が浮かんで、くどくない表現か。(竹) |
も |
諸田玲子 |
其の一日 |
2022
3/19 |
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時代小説四編の短編集。題は四編に共通する歴史的な事件の「其の一日」を肉付けして表現。堅苦しい武家社会の中で生きる人たち、それが当時の普通で現代人には想像出来ない。武家でのやりがいも幸せもあったのだろうが、やはり理不尽さが残る。「小の虫」は武士でもあった恋川春町を息子の視点から描く。たまには時代小説も面白い。(竹) |
も |
諸田玲子 |
奸婦にあらず |
2018
7/5 |
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幕末の動乱期に生きた井伊直弼の密偵となった村上たかを主人公にした物語。史実を元に人間味ある肉付けがされている。安政の大獄から善悪を判断するのではなく、その瞬間を生きた人間達のドラマを描いている。文庫ながら600ページを越える一大歴史小説。題名が卑小過ぎて内容が想像出来ない。それにしても汚れ傷んだ本が悲しい。(竹) |
も |
諸田玲子 |
森家の討ち入り |
2018
3/30 |
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赤穂浅野家の旧臣による吉良邸討ち入りの義士の中に、領地が近い津山森家の旧臣が3人いた。何ゆえ仕えてからも浅い3人が加わったのか。そこが出発点。大名家の内紛や幕府の横暴が背景になっての人間ドラマが繰り広げられている。連作小説の形で大勢の人間が出ていて厚みがあるが、史実とはいえ人間関係が複雑で頭に入れ難い。(竹) |
や |
や |
山内マリコ |
ここは退屈迎えに来て |
2014
12/18 |
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地方都市に生まれ育った女性が主人公の短編を8作収めてあるが、表題作の作品は無い。夫々主人公は違うが幼馴染の同じ男が狂言回しのように登場する。作品の順序は時系列が逆で大人から青春に遡るのは青春を強調する為か。中に読者を騙すような作品があるが騙されても納得出来る面白さがある。テクニックより普通の題材で勝負している。(竹) |
や |
山口恵以子 |
月下上海 |
2018
10/26 |
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船成金の娘は、醜聞で離婚した後に第2次大戦末期の上海に渡り、画家で生きる道を見出す。当時の上海は様々な民族や主義を持つ人達が住む混沌とした世界。そこで日本軍憲兵からスパイを強要される。変動の時代に生きる女性の恋物語。背景となる上海のエキゾチックな様子が分かる。「食堂のおばちゃん」とはえらい違い。松本清張賞。(竹) |
や |
山口恵以子 |
食堂のおばちゃん |
2017
4/22 |
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東京佃で食堂を営む嫁と姑、気が合う二人と常連さんの和気あいあいの雰囲気は下町ならでは。そこに小さな事件が起きる。連作短編5編収容。作者の経験から社員食堂の話かと思ったら違った。登場人物が良い人ばっかりで嫌悪感を感じずにスイスイ読めた。巻末のレシピは酒の肴に良さそうなものもある。「たらこと白滝の炒り煮」は作ってみたい。(竹) |
や |
山崎ナオコーラ |
指先からソーダ |
2013
5/28 |
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筆者が朝日新聞に連載していた同名のエッセイと書評をまとめた本。小説と思って借りてガッカリしたが、意外にこの人のエッセイはなめらかでコクがあって面白い。出身大学の話がよく出るのでどこかと調べたら國學院大学(正式の字体)という神道系の学校だった。だからって何も内容にはつながらない。次はちゃんと小説かどうかを確かめてから借りましょう。(竹) |
や |
山崎ナオコーラ |
浮世でランチ |
2011
8/24 |
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会社の人とは付き合わずランチも一人で公園でするという女性の話は前にも読んだなと思ったが、少女の頃の話と現在の話が交互に出てきて思わず読み込んでしまった。恋愛話ではないのでクライマックスもないが、男であれ女であれ人との繋がりを真摯に考える主人公の姿を描いている。淡々と生きる主人公が身近に感じられて自分は楽に読めた。(竹) |
や |
山崎ナオコーラ |
人のセックスを笑うな |
2011
1/27 |
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19歳の男が39歳の女と恋人同士になる。男は年齢を感じさせる女の身体も好きだ。女は夫がいるし自堕落的な性格だが、男は女に恋してる。やがて女から別れを告げられるが女は理由を言わない。それを問いたださない優しい男。気持ちを残した男は穏やかに切なく思う。表題ほどの激しさは無くページ数も少ないので物足りない。第41回文藝賞。(竹) |
や |
山田詠美 |
蝶々の纏足・風葬の教室 |
2022
8/13 |
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「蝶々の纏足」は幼い頃から一緒の少女達。片方は教室の女王で、もう一方は引立て役を返上しようと先に性の扉を開けるが、思いがけない結末には伏線があった。「風葬の教室」も上位と下位の少女とか教室が舞台とかが似ている。少女が芋虫から蝶になるような成長。他もう一編。35年前の作品でセンセーショナルな作品の前のものか。(竹) |
や |
山田詠美 |
カンヴァスの柩 |
2021
8/5 |
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クラシカルな文庫の表紙だが単行本としては1987年刊行。中短編3編を収める。女性主導の性愛を描くという自分の勝手なイメージ通りの小説。女が男と対等になればなったで葛藤もあるし、それを乗り越えて行かなくてはならない。女にとっても性は大事。それが理解出来ない子供だったなと今思う。毎日新聞日曜版のエッセイから、まずこの小説を読んだ。(竹) |
や |
山田太一 |
飛ぶ夢をしばらく見ない |
2006
1/15 |
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名脚本家の山田太一の小説。最初の場面で、患者同士のお互い見えないままの言葉による性交渉の後で、相手が67歳の老婆と知ったときのショックはつかみとしては満点。この老婆はその後段々若くなっていく。SFから題材をとったような小説だが面白い。前に読んだ「岸辺のアルバム」より面白い。(竹) |
や |
山田風太郎 |
山田風太郎明治小説全集二 |
2014
7/11 |
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中身は「幻燈辻馬車」という小説。明治15年頃、元会津藩士が孫とともに馬車屋をして係わりあう世相を描く。国力増強の為に明治政府の独裁で迫害される自由思想やテロ化する壮士を縦軸に、有名人や事件を数多く散りばめていて面白い。昭和50年に週刊誌に連載されたもの。良し悪しはともかく独裁こそが国を強くするのは今も変わらない。(竹) |
や |
山田稔 |
シネマのある風景 |
2006
4/15 |
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表題通り、映画の紹介エッセイ。何でこの本を選んだかというと、ただ読みやすそうだったからに他ならない。最初は著者の考えに反発することもあったが、そのうち載っている映画を見たくなってきた。ちょうど蔦屋が無料で会員を募集していたので入会した。入るのは何回目だろう。(竹) |
や |
山本一力 |
家族力 |
2010
10/9 |
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小説かと思ったらエッセイ集だった。文章が固く内容も薄く共感しにくい。浮気を繰り返し2度離婚したのはともかく、勝算の無い事業に妻の実家の大金をつぎ込んで大勢の人に迷惑をかけたというのには呆れる。エッセイは本当の自分が出るから難しい。好きな作者だっただけに内容にガッカリ。時代小説だけを書いて欲しい。(竹) |
や |
山本一力 |
蒼龍 |
2010
7/6 |
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時代劇5作品を収めた短編集。江戸時代の風俗をミステリーとかサスペンス仕立てにせず、奇をてらわないで素直に表現しているのが良い。登場人物に気持ちを入れて幸せになって欲しいと願う。その結末がどうなるか分る前に物語を終えている作品が多いが、全て、めでたしめでたしで終わっても良いと思う。1997年オール讀物新人賞(竹)。 |
や |
山本一力 |
はぐれ牡丹 |
2010
3/19 |
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お得意の江戸人情物と思ったら素人捕り物絵巻。駆け落ちして裏長屋に住む両替商の娘が、贋金事件に巻き込まれた人達を助けようとみんなを集めて立ち向かう。この作者にしては出来が悪く初めてのハズレ。其々のエピソードは悪くは無いが、善人も悪人も多く視点が分散され筋がご都合的で嘘っぽい。小説としてまとまりが無い。(梅) |
や |
山本一力 |
大川わたり |
2010
2/5 |
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時代小説を好きでもない自分が気に入っている作家の一人。暗くならずに安心して読める市井を描いた人情時代劇。親を亡くした腕の良い大工が賭博にはまり、借金を返すまで江戸の大川から東に入る事を禁じられた。主人公の立ち直りを周りで支える善意の人達が清清しい。結末は込み入ってとんだ所もあるが、出来は及第点で面白く読めた。(竹) |
や |
山本一力 |
損料屋喜八郎始末控え |
2009
12/5 |
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札差から借りた武家の借金を棒引きにするという棄捐令(きえんれい)を出した寛政の改革が舞台。主人公は訳あって武家出身だが損料屋を営む。だが裏では人を雇い探偵家業をして、暴利をむさぼる札差と対決する。時代考証が見事でただ単に舞台を江戸時代に変えたサスペンスではない。江戸風俗の勉強になる。(竹) |
や |
山本一力 |
いっぽん桜 |
2009/
9/11 |
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作者お得意の時代劇で、花の名を冠した短編4作収蔵。チャンバラが無くても、悪人がいなくても人の世の人情にうったえる小説は読みやすいし面白い。江戸の世をまるで見てきたかのように表現している。筋が通俗に流れていないのも良い。落語の古典人情噺にも匹敵する。時代劇はあまり読まないが、この作者にはハズレが無いから安心して読める。(竹) |
や |
山本一力 |
あかね空 |
2008 6/14 |
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江戸時代の市井の人々を描いた長編小説。京都から若い豆腐職人が一旗上げようと江戸に出てくる。江戸の長屋の人達に助けられて努力する様を二代に渡り描いている。下を読んだあとなのでなお一服の清涼剤。殆ど一気に読んでしまった。時代劇が好きではなかったが年のせいか和食に回帰。2001年下期直木賞。(松) |
や |
山本兼一 |
利休にたずねよ |
2010
1/7 |
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千利休の生涯を、語り手を替え短編仕立てにして時間を逆に並べてある。歴史物は大筋が分かっていてSFでもない限り手垢にまみれてしまう。この作品も最初は歴史を研究し端整に組み立てた話が並んでいると思ったが、読み進むにつれ味の良さが出てきた。山上宗二の章あたりから薄味だが和風の妙味が感じられる。慣用句は少くした方が良い。(竹) |
や |
山本巧次 |
大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう |
2020
6/11 |
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や |
山本巧次 |
阪堺電車177号の追憶 |
2019
6/8 |
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大阪の路面電車を擬人化して、昭和8年から平成29年まで85年の大阪庶民の生活を連作短編で描いている。大阪人を変にデフォルメせず、マジメに描いているのは好感が持てる。その代わり淡々とし過ぎてエピソード的には食い込みが弱い。泣かせる部分が欲しかった。著者の作品は初めて読むが、時代物のミステリー作家らしい。(竹) |
や |
山本弘 |
翼を持つ少女 BISビブリオバトル部 |
2022
6/25 |
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自分の好きな本を会場で発表して、読みたいと思う人の数で優勝を決めるビブリオバトル。SF好きで小説好きの15歳少女の入部と仲間達との大会出場を描く青春小説。著者の今までの活動を凝縮したような内容で、その知識量の多さが面白さに繋がっている。著者の小説は休まず読める。400ページを超えるが、最近では珍しく2日で読み終えた。(竹) |
や |
山本弘 |
プラスチックの恋人 |
2020
4/26 |
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や |
山本弘 |
トワイライト・テールズ |
2019
2/3 |
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初めてMM(モンスター・マグニチュード)シリーズを読む。怪獣が普通に現れる世界が舞台となり、その怪獣の大きさを地震の様に数字で表している。これは短編集で4編を収納。内容はどちらかと言えばジュブナイルで、自分には物足りない。例えばゴジラのような大きさだと物理的に自分の身体を支えられないと聞いているので、嘘くさく思えてしまう。(竹) |
や |
山本弘 |
僕の光輝く世界 |
2017
8/16 |
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いじめられっ子の少年は誤解から憎まれ橋から落とされる。その時に失明するが、脳が勝手に映像化する病気(能力)を持つ。特異な失明者が謎を解くミステリー。最初は身近な謎から最後は殺人事件となる。連作短編4編を収納。作者らしいSF味は少ないが、作者らしい破綻の無いスッキリした小説に仕上がっている。大人も楽しめるジュブナイル。(竹) |
や |
山本弘 |
プロジェクトぴあの |
2017
1/22 |
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宇宙好きな天才少女がアイドルを手掛かりに大発明を成し遂げ憧れの宇宙へ飛び出た伝説をその男友達が後述した設定。作者の博学には感心するがそれ以上に難解な事でも退屈とは思わず読み進められるからスゴイ。アイドル界と物理学界をジョイントさせたアイディアは面白い。少女を冷たい性格にしたのは狙いだろうが感激が削がれたのは減点。(竹) |
や |
山本弘 |
UFOはもう来ない |
2016
11/1 |
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怪しい番組を作っている弱小プロの社長とUFO研究家の女性が、小学生達にUFOのビデオをエサに呼び出される。本物の宇宙人や詐欺師の宗教家も出てきてドタバタ風だがしっかり芯の通ったマジメなSF。宇宙人が監視しているというUFO説は目新しくは無いし、著者のうんちくがうるさい部分もあるが、一気に読ませる筆力はスゴい、というか好き。(松) |
や |
山本弘 |
シュレディンガーのチョコパフェ |
2016
5/13 |
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7篇を収録する自分の好きな作家(でもライトノベルは読んでいない)の短編集。多彩でこれぞ現代のSF。久しぶりにSFを堪能した。「奥歯のスイッチを入れろ」なんてエイトマンやサイボーグ009を思い起こした。と言っても分からないだろうな。「七パーセントのテンムー」は読んだ事があるなと思ったら大森望のSFアンソロジー「虚構機関」でだった。(竹) |
や |
山本弘・編 |
火星ノンストップ 胸躍る冒険・篇 |
2014
8/17 |
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自分がリスペクトする山本弘編集のSFクラシック・アンソロジー。自分はSFについてはすれっからしなので感動は少ないが、昔のSFの醍醐味を感じる。SF初心者は、自分が若い頃感じたようなワクワク感を感じるだろう。7作収容しているが未読(忘れた?)と思う。全てが最高の出来というよりもB級作品(失礼)の突き抜けた力強さがありこれぞSF。(竹) |
や |
山本弘 |
詩羽のいる街 |
2014
7/11 |
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東京近郊の街で詩羽(しいは)という女性が他人の才能を見抜き後押しし、持てる人から持たない人へ情報や品物を回して善意のネットワークを築きあげる。本人は貨幣も住む場所も持たず善意の見返りだけで生活する。そんな奇跡的な話。会話に出てくるマンガの筋が唯一SFっぽいが全体はハートウォーマーな物語。相変わらず上手いというか凄い。(松) |
や |
山本弘 |
審判の日 |
2014
4/22 |
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終末や破滅をテーマにしたSF短編集で5作を収める。相変わらずのストーリーテラーで間違い無くどの作も面白い。表題作は、大多数の人間がいなくなった地球に残された少女と少年の物語。このテーマは好きなので長編で読みたい。他にバーチャルでAIのアイドルの犯罪を描いた「時分割の地獄」は着想が良い。さすがは「と学会」の会長だ。(竹) |
や |
山本弘 |
アイの物語 |
2014
1/11 |
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機械が繁栄し、数が減った人間は辺境のコロニーで暮らす近未来の世界。語り部をする青年がアンドロイドに捕まる。アンドロイドは青年に7つの話を語る。物語の中に物語があるという入れ子式の小説。一つ一つの話が面白い。アイディアも構成も人物も良い。今現在自分の知っている限りでは、作者は日本はおろか世界を見回しても一番のSF作家である。(松) |
や |
山本弘 |
神は沈黙せず |
2013
6/15 |
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「神」を宗教的な見地からでなく科学的な見地で真正面から取り上げた小説。全ての超常現象も客観的な立場で説明し、疑わしいものは信じなかった自分は目から鱗が落ちた思いがした。といってもフィクションなのだが。作者の知識力と膨大な資料をまとめた大作。大多数の日本人が宗教に毒されていない環境にあるからこそ書けた小説。まず読むべし。(松) |
や |
山本弘 |
去年はいい年になるだろう |
2013
3/29 |
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未来から人間を助けるためにタイムマシンに乗ってロボット達がやってくる。まず9.11テロを阻止し、人間から武器を取り上げ、危険な国家の北朝鮮などを解体し、天災や人災を予報する。筆者が主人公となり実在の世界が舞台となる。ロボット(人型)は善意らしいが、複雑なパラレルワールドが次から次に生まれる事になり本当に人類は幸せになるのか。(松) |
や |
山本ふみこ |
食卓の力 |
2004
11/16 |
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自分で料理する人には二度楽しめる本。いづれ独居生活となる身には便利な本となるかも。料理は生活に潤いをもたらす、のは分かっているのですが、なかなか自分じゃ作れない(らない)。 |
や |
山本文緒 |
プラナリア |
2008 9/3 |
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現在の都会生活を女性の(1作は男性)視点から見た小説集。表題作は乳がんになった若い娘のその後の話。何気なくか激情でか、本心と違う言葉を言って傷つき修復出来なくなる人間関係。ああ、みんな分かり合って幸せになりなよ、と思ってしまう。自分とは境遇が違うが共感して感情を揺さぶられた。2000年下期直木賞。(松) |
や |
山本昌代 |
緑色の濁ったお茶 あるいは幸福の散歩道 |
2008 7/18 |
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熟年夫婦と娘達が暮らす家庭。姉は健康だがなぜか頼りない。妹はしっかりしているが車椅子の生活。母は身体が丈夫ではない。引退した父は自由を楽しんでいる。三人称でやさしく一家の生活を描いている。何気ない会話で成り立っているが言葉が柔らかくて良い。不安があるはずなのに言葉にせずにまとまっている家族が良い。1995年三島賞。(竹) |
や |
楊逸 |
時が滲む朝 |
2010
1/24 |
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中国の田舎の少年が家族の期待を担って大学に進む。しかし大学で民主化活動をし1989年の天安門事件で挫折し大学を退学処分になる。時は流れ、日本に移り住み子供を持ち職も安定するが、中国民主化の夢が捨てきれず運動を続ける。しかし真剣に参加している者は少ない。青春の憧れと夢と時の流れを淡く描いている。2008年上期芥川賞。(竹) |
ゆ |
唯川恵 |
肩ごしの恋人 |
2008 7/18 |
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27歳の幼馴染の女二人。一人はクールで仕事に生きる女。もう一人は情熱的で恋に生きる女。よくある恋愛と友情の物語だが、意外に楽しく読み進められた。それは、人物がしっかり作られていて会話が面白く安心して感情移入が出来るからだと思う。何より明るい作風がいい。オットコマエの女たち。さすが、2001年下期直木賞受賞作。(松) |
ゆ |
唯川恵 |
OL10年やりました |
2005
9/28 |
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こう見えても自分は簿記1級を持っていて、商業高校卒業後は事務職を数年やっていました。女がOLなら男のはOGですかね。その後、機械のサービスエンジニアをやりました。その時が20代、一番良い頃でしたね。社内恋愛満開の時代でした。この本の状況も良く分かります。(竹) |
ゆ |
柳美里 |
家族シネマ |
2005
11/12 |
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ユウ・ミリの短編集。芥川賞受賞の表題作はバラバラになった家族の話だけれど、読んでいて映像が頭に浮かんだ。後で調べたら映画化しているという。ヤッパリな。吉本バナナよりは造りが良いが芥川賞をとるほどのものでもない。(竹) |
ゆ |
結城昌治 |
夜の終る時 |
2005
5/19 |
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昭和38年という世の中がまだ少し貧しくて高度経済成長前という時代背景は、今の価値観の多様化の時代と合い通ずる所がある。ただカネの価値が今とは何倍も違う所はしょうがない。最後のほうの犯人の独白は全体のスピードを殺してしまっているのが残念。ハードボイルドにはなっていない。 |
ゆ |
結城信孝 編 |
白熱 ギャンブル・アンソロジー(競馬篇) |
2011
2/10 |
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和製ミステリー作家8人の競馬の短編のアンソロジー。それぞれに味のある作品で、日本のミステリーをあまり買っていない自分にも楽しめた。日本のミステリーは短編の方が優れているのかも。比較的最近のものから戦前のものまで多彩だ。その戦前の牧逸馬の作品はアメリカの作家の翻案というが、その癖の強い言い回しは独特で面白い。(竹) |
ゆ |
行成薫 |
ヒーローの選択 |
2019
6/21 |
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多分表紙の左から2人目が主人公の青年。優柔不断で頼りないのにラッパーの予言者を信じ「世界を守り隊」に入る。敵となる悪魔は普通の人間。リアルとファンタジーが混ざった小説。登場人物が多く時系列がバラバラで結局は辻褄が合うが分かり難い。こういうスタイルは他の作家でも読んだ事がある。興味を持って読めるが盛り上がりに欠ける。(竹) |
ゆ |
行成薫 |
バイバイ・バディ |
2016
10/20 |
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小学校から友達の三人。一人は高校で悪の道へ進む。その後、中心にいた一人が言葉を残し死ぬ。もう一人は悪へ孤独な戦いを仕掛ける。キーワードが「友達」と「トモダチ」そして鰯の群れ。筋書きに目新しさが無いし、突き抜けた所も逆に真実性も薄い。人物描写も特段優れているとは言えない。それに時系列を細かく前後させるのは読み難い。(竹) |
ゆ |
湯本香樹実 |
西日の町 |
2004
10/13 |
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自分の人生が薄っぺらなせいか、「てこじい」の人生が重くじっとりと迫ってくる。母親の女の生活も実在感がある。登場人物が本物としてある。誉め言葉としてはこんなもんでしょうか。 |
ゆ |
夢枕獏 |
神々の山嶺(下) |
2006
12/20 |
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山(エヴェレスト)に引き寄せられてしまう男達が「なぜ山に登るか」を自問している。低山里山しか登らない自分なら単純だが、最高峰を登るのに、冬に単独で無酸素で難しいルートを選ぶ本当に死と隣り合わせの男達はどういう答えを持っているのか。心の中を描くのに、一人称のような三人称の書き方が長く続く部分は退屈で飛ばし読みしてしまった。(梅) |
ゆ |
夢枕獏 |
神々の山嶺(上) |
2006
12/20 |
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ヒマラヤに魅せられる山岳写真家がネパールで登山家マロリーの遭難の謎の手掛かりとなる写真機を見つけ、かつての日本の天才登山家と会った事から話は始まる。生活の全てを山に登る事だけに費消する山馬鹿がいた。世界最高峰のエヴェレストは8848m、雪と氷と岩だけの山に自分は魅力を感じない。違う世界の話だなぁ。(竹) |
よ |
横光利一 |
機械・春は馬車に乗って |
2014
1/25 |
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作者の大正から戦後の30年に及ぶ執筆の中から最も優れた短編小説10編を選んだと解説にあるように読み応えがある。この作家は何故か今まで読んでいなかったが自分の好みではある。私小説的なものは作者の考えが表されているのでエッセイ的に思える。「厨房日記」は外遊してきた当時の世界の世相を語り薀蓄がある。長編も読んでみたい。(竹) |
よ |
横山秀夫 |
64(ロクヨン) |
2015
3/8 |
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機構内部が克明に描かれた日本の警察小説。地方県警の中堅となる刑事が、捜査二課から広報に左遷。娘の家出や新聞記者相手の対応が八方塞。気の重い筋書きだが読み出せばページをめくる手が止まらない。後半にかけての謎は大きな山場を見せ、なかなかの筋書き。刑事と警務、或いはマスコミとの反目が激しいが、現実でもそうなのか。(竹) |
よ |
吉川良太郎 |
ボーイソプラノ |
2007
3/1 |
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「ペロー・ザ・キャット全仕事」の続編。主役は前作では端役だった探偵で、筋は暗黒街のボスを狙うテロリストの闘争物語。探偵の出番の必然性は無いのに、無理やり作ってSFハードボイルドに仕立てた印象がある。戦いの最中でも饒舌な会話はしらける。前作の遺産でやっと成り立っている。前作が良かっただけに残念。(竹) |
よ |
吉川良太郎 |
ペロー・ザ・キャット全仕事 |
2007
1/21 |
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近未来フランスを舞台にサイボーグ猫に憑依することの出来る、一匹狼ならぬ一匹猫の主人公が暗黒街で惑うSFサスペンス。第2回日本SF新人賞受賞作。これこそエンターテインメントだ。着想も筋書きも人物表現も小道具も全てが素晴らしい。この面白さは日本の作家としては珍しい。「ブラックアウト」の無味乾燥な表現と比較して欲しい。(松) |
よ |
吉田修一 |
続 横道世之介 |
2022
3/19 |
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世之介と出会う人達が主役の物語。世之介は主張しないし存在感も無い。それでも周りの人には安心感を与える触媒のような存在かな。未来と過去が繰り返される筋書きはノスタルジックで、善人ばかりの登場人物には癒される。読み進めてページが少なくなるのが残念。なかなか出会えない小説だが続編だから新鮮さが無いのは仕方無い。(竹) |
よ |
吉田修一 |
東京湾景 |
2021
6/26 |
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品川の倉庫で働く若い男は肉体労働の毎日。同僚の彼女の友人と付き合っているが気は乗らない。過去の経験から、男と女の結びつきを信じていない。そこへ出会い系サイトで知り合った女が気になる。身体の関係は深くても気持が繋がらない。東京の青春だなと思う。2冊SFを読んだ後なので、こちらは清涼感が気持ち良い。最初の解説は長過ぎてうるさい。二つ目の改定時のものが丁度良い。(竹) |
よ |
吉田修一 |
最後の息子 |
2020
12/26 |
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よ |
吉田修一 |
横道世之介 |
2015
8/15 |
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九州から東京の大学に入学した若者の1年の交友が記されてある。所々に20年後も出てくる。主人公の性格が良いし、会う人みんなが善人で一生懸命生きている。ただの青春小説ではなく、「東京の」と定冠詞が付くほど「東京」も主人公。大学も東京も今の自分には憧れだなぁ。先に映画を観てしまったが、分からなかった所が小説で理解出来た。(松) |
よ |
吉田修一 |
パーク・ライフ |
2008 6/28 |
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短編2編の作品集。表題作は日比谷公園を休憩場所にする会社員の日常を切り取った物語。公園で出会う女に惹かれたり、別居中の友人夫婦がいないマンションでサルの面倒をみたり、ホワホワした淡い人間関係の話。味が薄くてもう少し醤油をかけたい。もう1作の「flowers」の方が濃くて肉じゃが風。2002年上期芥川賞。(竹) |
よ |
吉村昭 |
ふぉん・しいほるとの娘(下) |
2005
9/14 |
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上巻に比べるとこの下巻は歴史資料をそのまま書いたような所が多く小説としての肉付けが痩せている。背景となる歴史的事実は必要だが主役のイネについても同じだと小説としての潤いが無い。終わり頃は、イネの医者としての気持ちと住所が変わる。一貫性が無いのは事実としても、小説としての理由付けが欲しい。(竹) |
よ |
吉村昭 |
ふぉん・しいほるとの娘(上) |
2005
9/14 |
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この本は文庫本にしても厚く、しかも上下巻。しかしシーボルトという歴史上の人物に興味があり、スイスイ読み進む。新聞?連載だということでさもありなん。シーボルトは本当はスパイだったと聞いた事があり、それはこういう事だったかと納得出来る。種本多数で歴史小説を書くのも大変な労力がいるね。(竹) |
よ |
吉村萬壱 |
ハリガネムシ |
2008 4/6 |
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高校教師がソープ嬢につかまり人生を狂わせて行くと思いきや、その生活が触媒となって高校教師が変質していく、悪い方に、ダメな方に、危険な方に。それがハリガネムシを体内に宿らせたカマキリのよう、といっている。筋もエピソードも会話も全く問題無し。が、残念ながら自分の情に働きかけない。2003年上期芥川賞。(竹) |
よ |
米澤穂信 |
王とサーカス |
2021
12/29 |
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フリーの女性記者が偶然訪れたネパールの首都カトマンズで王や王族の殺人事件が起きる。実際の事件にフィクションを混ぜ込み、ミステリー仕立てになっている。人や風景でカトマンズの雰囲気が出ている。サーカスとは見世物としての報道を殺された男が揶揄して言った言葉。ヒロインは別の小説にも登場しているそうなのでいつか読もう。(竹) |
よ |
米澤穂信 |
インシテミル |
2021
8/17 |
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実験のモニターに十一万二千円という高額の時給に応募した12名。地下施設に閉じ込められ犯人当てのゲームをする。人を殺すとボーナス、犯人を当ててもボーナス。七日間で人はどう行動するか。正統派の推理作家の新しい推理小説と思える。多少の難はあるがまあ面白かった。題は淫するから来ていると思って淫らな小説かと思ったが違った。(竹) |
よ |
米澤穂信 |
儚い羊たちの祝宴 |
2021
6/13 |
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お嬢様達の読書サークル「バベルの会」が背景になった短編集。江戸川乱歩の世界のような、大正ロマンを感じさせるような耽美的な情景。その中で生じる殺人事件も、小説の雰囲気を醸し出す為のもの。謎解きをするミステリーではなく、暗いファンタジーを読んでいるようだ。様々な世界を描く作者で、読むのは6作目だが、青春ミステリーの方が好きだ。(竹) |
よ |
米澤穂信 |
折れた竜骨(下) |
2019
7/14 |
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領主が殺された上、島に呪われた軍勢が押し寄せる。傭兵や市民は必死に食い止める。後半は領主が誰に殺されたかが焦点の謎解き。ファンタジーとミステリーの融合。思った通りの意外な結末だが、謎解きに理屈をこねくり回すより、ストーリーで楽しみたいと思うから感心はしない。謎解きに飽きてしまったのだろう。日本推理作家協会賞受賞作。(竹) |
よ |
米澤穂信 |
折れた竜骨(上) |
2019
7/14 |
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大小二つの島を治める領主が暗殺騎士による魔術で殺される。その娘は暗殺騎士を追って来た騎士と従士と共に犯人を捜す。こういうファンタジーは苦手だが、小説世界がまるっきりの虚構ではなく、中世を模している所は読み易い。2巻に分かれるがどちらも300ページに満たず何とか読み進める。上巻はまだストーリーの紹介程度で盛り上がりが無い。(竹) |
よ |
米澤穂信 |
満願 |
2017
9/12 |
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6編を収める短編集。最初の「夜警」は警察小説で、興味を引かれ勝手に連作短編と思ったが普通の短編集でガッカリした。全て罪を犯す人々を描いていた中間小説で、月刊の小説誌に掲載されたもの。でも今まで読んだ作者の作品はもっと若々しく、ある意味稚拙な部分も魅力だったが、これはベテラン作家の筆致。期待していたものでは無かった。(竹) |
よ |
米澤穂信 |
春期限定いちごタルト事件 |
2016
3/19 |
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作者お得意の学園ほのぼのミステリー。今回の主人公は、恋ではなく「小市民」でつながるカップルの片割れの男子高校生。素人探偵を辞めようと思いながらも5編の謎を解く。恋には発展せず最後まで友達の関係で、恋愛無しで暴力も無しでも、謎解きを結構楽しんだ。いちごタルトというより清涼飲料水。下の本の口直しには丁度良かった。(竹) |
よ |
米澤穂信 |
氷菓 |
2015
8/15 |
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入学間もない男子高校生が海外にいる姉の指示で廃部間際の古典部に入る所から物語は進む。文化祭の為の文集編纂で過去の事件を探る。学園(謎解き)ミステリー。読者の為のヒントが色々散りばめてあって読んでいてなかなか面白い。青春物の味わいもあり良く出来ている。先に「愚者のエンドロール」を読んでしまったが、こちらの方が自分は好きだ。(松) |
よ |
米澤穂信 |
愚者のエンドロール |
2014
12/18 |
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夏休みの高校生4人組が上級生から製作途中のビデオ映画の続きを考えるよう依頼される。殺人が起きた所からの脚本が無いので、要するにミステリーの謎解きになる。間違った謎解きを並べ最後に主人公が謎解きをして、さらにどんでん返しがあるというステレオタイプだが、青春小説に弱い自分は好みだ。初めての著者だが他の本も読んでみたい。(竹) |
ら |
り |
隆慶一郎 |
一夢庵風流記 |
2005
5/7 |
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長い読書人生の中で時代小説は避けてきたが、読むものが無くなってきて避けてばかりはいられなくなってきた。だから最近多い。この小説は細部はともかく骨格は史実に基づいているらしい。前田慶次郎というスーパーなサムライの話。嘘っぽいバカバカしさはあるけど突き抜けている面白さはある。 |
わ |
わ |
渡辺浩弐 |
ブラックアウト |
2007
1/12 |
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20世紀末の日本警視庁に非公式なハイテク犯罪対策捜査部が立ち上がった。理工学部講師、エリート警察官、ハッカー少年が活躍するSF短編小説集。いつも思うのだが、日本人作家のこの手の小説は浅薄だ。この短編其々の着想は良いが話が嘘っぽくなってしまうのは、一つ一つの言葉がありきたりで表現に厚みが無いからだ。(竹) |
わ |
和田竜 |
のぼうの城 |
2011
3/30 |
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秀吉の小田原城攻めの時、北条側の支城と石田三成の攻防を描く。北条側で唯一落ちなかった城とか、史上最大の水攻めとか、素材としても面白いものがあり、作者による「のぼうさま」の描写が良い。普段はボーっとしていても危難の時は活躍するというのではなく、その時もボーっとしながら進む道を示すというのが良い。(竹) |
わ |
綿矢りさ |
蹴りたい背中 |
2008 3/15 |
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高校女子が男子の背中を蹴りたい衝動に駆られる。本人はその男子を恋愛の対象とは思っていない。教室やクラブでの孤立が、同じように一人でいる男子に関心を持つ。異性への気持ちが加虐的なものとして現れる。そういえば自分も高校生の時、演劇部の美人の長い髪を切りたいと思った事がある。好きな気持ちの裏返し?2003下期芥川賞。(竹) |
わ |
綿矢りさ |
インストール |
2005
3/2 |
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作者が若いだけに、言葉が不適当なところもあるがよく書けている。破綻がない。年取った自分にも納得できるストーリー。面白さというと中ぐらい。良くも悪くもひっかかりがなく、また中篇なのですぐ読了した。次を期待したい。 |
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