山蛭に最適の日。
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     2009年7月23日の気持ち

       2009年7月23日
    粟ヶ岳中央道6合目にて。
身体のあちこちにとまるのはアイツ達と同じだが、赤トンボは大歓迎だ。行く先々で応援してくれているようだ。赤トンボは集団見合中。
 まだ梅雨が明けない7月の下旬。今日は晴れるだろうという天気予報。暗い雰囲気の沢沿いの小俣林道をフォルツァを脱輪させないように運転しながら中央ハイキングコースの登山口に着いた。最初は車道を歩くが小屋からは人が通った痕跡の無い山道になる。水場には豊富に水が流れていた。前日にも雨が降って濡れた草薮。ブナや雑木が日を遮る道は湿度が高く汗がだらだらと流れる。やがて道は薮に隠れ、草木をかき分け倒木を越え、勘を頼りに尾根へと登り中央ハイキングコースの粟権現分岐という所に着いた。
 尾根に到着して雨具のズボンを脱ごうとしたその時、ズボンには多数のヤマヒルが付いていた。この山にヤマヒルがいるとは全く想像してなかったから予想外の事に驚く。
 アドレナリンを全開にして嫌悪感を薄め、雨具のズボン付いている奴を枝でこそぎ落とす。ビニール系の生地はくっ付き易いのかなかなか落ちない。雨具のズボンを脱ぎ内側の奴も落とす。靴を脱ぎ靴下に取り付いている奴も落とす。ずんぐりした尻で吸着し、頭を細く伸ばして振りながら探り、頭を着地してから尻を持ってきて吸着して、足を上って来る。尺取虫の様な動きと言われるが尺取虫より格段に早い。しかも敏捷で活発で強い吸着力を持つから手強い。小さい奴に靴紐とハトメの間に入られたようで、見失ってしまいどうにも取り出せなくなった。ヤマヒル落としに30分近くかかった。すでに白い厚手の靴下には赤い血の跡があって、2箇所くらい食われた様だ。前に木六山で行き帰りとも大群のヤマヒルと遭遇した事があったが、撃退して食われた事は無かったので、イヤな初体験をしてしまった。
 尾根まで上ればヤマヒルはいないが、蒸し暑さに苦しみ、汗を一升位かきながら粟ヶ岳頂上に到着した。誰も来ないので裸になって再点検したら足にヤマヒルの残骸らしきものが張り付いていた。粟権現分岐で取りそこなった奴がGパンから抜け出せず、Gパンが重くなる程かいた汗の塩分でやられて水分を搾り取られたように見える。もう一匹、粟権現分岐で逃がした奴も、下山する時に靴の紐をきつめに絞ったら出てきた。記念にカメラで撮った時フラッシュをたいたら、それまで動いていた奴がコロンと丸くなり下に落ちた。光を感じる能力があり強い光を嫌がるようだ。こいつは落ちていた釘でつぶして殺した(つもりだ)が、いったいヤマヒルを殺すには何が良いのか?凄くしぶとく見える。こういう原始的な生物は二つに切ると、二つに分裂して生きる?なんて事ないよね。
 粟ヶ岳の帰りは予定通り下田コースを降りる。途中から小俣林道に下るつもりでいたが、三十三丈滝の先の小俣分岐では、小俣側に下る道がヤブで見えず思案する。ヤマヒルのいる所を先の見当もつかない薮こぎをする自信が無いというより、薮で遭遇するヤマヒルの恐怖で下田に下る事にした。折角なので初めての「ぶなのみち」を歩いて北五百川に下りる事にする。この北五百川への「ぶなのみち」は思った以上に遠くアップダウンもあり音を上げるほど疲れた。小俣にヤマヒルがいたという事は、北五百川にもいるのではとの予想が的中し、五百川登山口手前から早足で歩いたにもかかわらず登山口に出てから確認した所、2匹が付いていてこそぎ落とした。タクシーで小俣林道登山口まで戻るが運転手が嫌がらずに林道の道の悪い所を奥まで入ってくれたのには感謝した。疲労困憊していたので助かり心づけを渡す。
 家に帰って三和土でズボンを脱ぐとコロンとヤマヒルが落ちた。北五百川で付いた奴が忍び込んで血を吸っていたのだ。忍び込まれても血を吸われても分からないものですな。落ちたヤマヒルは家庭用殺虫剤を噴霧したが(寒さで?)縮んでも死なず又動き出したので、北五百川で聞いたように塩をかけたら動かなくなり、しばらくしたら、たっぷりかけた盛り塩に赤い血(私の血)が染み出し、朝までそのままにしていたら塩の周りに水分も染み出していて、塩をどかしたら黒く薄くコンクリートの地面にへばりついていた。これで死んだって事?水をかけるとゾンビみたいに復活はしないよね。
 もう一つ気がかりはザックの中身だ。ヤマヒルが潜んでいる気がしてザックのジッパーをシッカリ締めて置いてあるが、天気の良い休日に外で塩を側において広げて確認しなくてはならない。
 今回初めてヤマヒルに血を吸われたが、全て、ヒルが血を吸って満足して自分から落ちたので、ヒルを引き外すという気持ち悪い事はしなくて済んだ。そして、血が固まらない物質を傷口から入れてくるので、長い間血が止まらないと聞いていたが、普通の切り傷程度の出血で血はすぐ止った。それに、1日後に傷口が痒くなると言われたが、これも3日たっても痒くはならなかった。こちらの個人差(人間)とあちらの個体差(他の地域のヒルとの)があるようだ。
 ネットで見るとヤマヒル(ヤマビル)は日本中にいて情報は多い。近年、野生動物が里に下りてくる機会が増えるにつれ、付着した奴が落ちて活動範囲を広めているようだ。検索すると、予防に「ヒル下がりのジョニー」なんて面白い名前の忌避剤の情報や、塩が聞くので塩水で濡れたタオルを足に巻くとか、パンストを履くとヤマヒルは食い破れないし血を吸えないとか、参考になる事が多くあった。登山ではなく仕事でどうしてもヤマヒルのいる山に何度も入らなければならない人達の体験談は聞くも涙、語るも涙の物語だった。趣味で山に入り、ヤマヒルがいるからと別の登山口に下りてしまう軟弱な自分が恥ずかしい。